ミモザ part3
3人の旅行編スタートです。
恵さんの言葉が寛のなかに引っ掛かり、2人の恋人のこと、結婚のこと、子供のことについて悩み始めます。
最後まで読んでいってくれたら幸いです。
あれからひかるからの連絡もなければルイからの連絡もない。すこし心配になって来た。あの2人は就業後にしか、顔を合わせることがないため、他の人に聞くこともできない。会社の中であの2人が何を話しているのかは2人から聞くしかない。問題はないとは思うが、親心からかどうも頭から離れない。
「にぃに。準備できた?」
下の階から愛の声が響く。スマホを見て、時間を調べる。
「まだ時間があるだろ。」
今日は、前に真心と愛と約束した旅行の日。結局、1人3万もする旅館に行くことになった。もちろん旅費は全部自分持ち。車で行ける範囲は味気ないからと言って新幹線で3時間もかかるところにしたらしい。よっぽど楽しみだったのか真心も愛も3日前に準備をしていたらしく、もうすでに準備万端。新幹線の出発が10時なので、後2時間半。指定席を取ったので早く行ったとしても意味はない。
「ちゃんと仕事道具は置いていくんだよ。休みって言うくらいだから休まないと。持っていくとすぐに仕事しだすから。」
部屋をのぞいていた真心に注意された。最初はスマホすら置いて行けと言われた。それだと緊急の時とか普段の生活がしにくくなるからと言って許してはもらったが、多分旅行中は触る暇がないくらい振り回されると思う。自分の休日と言うより2人のための休日だ。自分は休むなら家でのんびり派で、家からは一歩も出たくはないが、家族サービスだと思えば仕方ない。温泉は嫌いじゃないし、美味しいものが食べられるならいいか。休日のお父さんの気持ちがすこしわかった気がする。
「真心。愛にさ、あんまり大きな声で叫ばないでくれって言ってくれ。休日でまだ寝ている人もいるだろうから。近所迷惑にならないように。」
「そこらへんのことは愛はわかっているよ。そんなことよりも私は寛が仕事道具を持っていかないか見張ることの方が重要。」
確かにさっきから愛の声は聞こえない。自分も真心監視の元、仕事道具を全て残した準備ができた。新幹線まで残り1時間。準備もできたから家を出る。
「お母さん、お父さん。行って来ます。」
「はーい。楽しんでらっしゃい。寛、2人のことよろしくね。」
「わかってるよ。行って来ます。」
いよいよ、3人での旅行が始まった。
真心の運転で駅まで向かう。時間にはまだ余裕があるため、駅構内で駅弁を買って、待合室でまつ。数分後にアナウンスがあり、新幹線内に乗り込む。上にある荷物置きに、3人分の荷物を置き3人仲良く並んで座る。新幹線や車の中で、3人並ぶ時は必ず自分が真ん中になる。乗り物酔いしやすい愛を基本窓側にして座ることが多い。新幹線に乗るや否やすぐに2人とも寝てしまった。メイクで隠れてはいるが2人とも寝不足で少しだけ目の下にくまができていた。修学旅行前日の小学生みたく前日眠れなかったらしい。自分は少しため息を吐きながら、一応持って来たブランケットを2枚2人にかけて、持って来ていた小説を読み始める。
小説の中では兄弟が親を探して旅をするといった内容のものだった。幼いころに親と離れてしまい、兄弟2人でギリギリの生活を送る。未成年の子供が生きていけるほど世の中は甘くなく、兄の方は様々な悪事に手を染めていった。そのことを知らなかった弟は兄に感謝しながらも、寂しさから親に会いたい気持ちを強めていく。ある日、弟は兄に親に会いたいと言うお願いをする。兄は自分たちを置いていった親を憎んでいたが弟の頼みならと、一緒に親を探しにいく。途中、兄の悪事が弟にバレる事件があり兄弟喧嘩の末生き別れの状態になる。弟より先に親を見つけた兄は、親を殺してしまう。その真実を知った弟は今まで支えてくれていた兄を殺してしまうと言う、誰も救われない話だった。
ちょうど小説を読み終わると、愛が起きた。
「お腹すいた。」
時間はちょうどお昼時。お腹が空いたとしてもおかしくない。
「真心まだ寝てるけど、どうする?」
「なら、お菓子で我慢する。」
「食べすぎるなよ。お弁当も今日の夜だってあるんだから。」
「わかってるよ。」
まだ寝ぼけているのか目を瞑ったままポテトチップスの袋を開け、無心で口に運んでいた。その音が原因ではないとは思うが真心は、
「お腹すいた。」
さっき聞いた文言を一語一句、違うことなく口にした。性格は似ていないがやっぱり姉妹なんだなっと微笑ましかった。
「愛。真心起きたから、お弁当にしよ。お菓子片付けて。」
愛にお菓子を片付けさせて、お弁当を広げると、そこに車内販売のお姉さんが通った。
「すいません。コーヒーを一つ。2人は何かいらない?」
真心はお茶で愛は炭酸を頼んだ。車内販売だとすこし値は張るがこれも旅行の楽しみの一つだろう。もちろん代金は自分持ちだ。3人仲良く手を合わせていただきますをする。おかずを交換しながら食べる。基本的に好き嫌いがない自分が2人の食べられないものを食べる。夕飯のご馳走のことを考えて小さめのお弁当にしたが、2人からもらったおかずがかなりの量になってしまって結果的にお腹いっぱいになってしまった。お腹が膨れて、また眠くなったのか愛は再び寝始めた。真心は自分がさっきまで読んでいた小説を借りて黙々と読み始めた。自分は帰り用にと持って来ていたもう一冊を鞄から出した。自分も小説の世界に目を落とす。
しばらくすると、鼻を啜る音が聞こえて来た。真心だった。自分はハンカチをポケットから出して真心に渡した。小説の内容から何か不安を感じたのか涙を拭き終わると自分の手を握って来た。この状態だと小説は読めないので、自分は仕方なく本を閉じて真心の気が済むまでそのままにしておいた。
そろそろ目的地に到着するので真心が握っている手を優しくどかし、隣で口を開けてよだれを垂らしながら寝ている愛を起こした。
「愛、ついたぞ。口のよだれふいて、出れる時準備して。」
愛はジュルっとよだれをすすって、まだ寝ていたい身体を起こして身の回りの掃除をし出した。高いところの荷物は基本的に自分しか取れないので立ち上がり3人分の荷物を取る。片付けが終わった頃にちょうど目的の駅に着く。長い時間座りっぱなしで、同じ空間にいたので外の空気が美味しい。軽く伸びをすると、
「にぃに、おじさんみたいだよ。」
と、愛に笑われた。
「一つしか変わらないだろ。長い時間同じ体制だったから疲れてるんだよ。」
改札を出て、近くにあるレンタカーで車を借りる。旅館まで約30分。車内ではこれからの予定を話し合った。
旅館に近づくに連れて、多くのお店が顔を出す。ご当地の食べ物や、お見上げの暖簾が立ち並ぶ。2人の予定も考えると1泊2日が限界だったから全部を回るのは難しいと思う。旅館につき、仲居さんが出迎えてくれた。
「長旅ご苦労様でした。3名でご予約の佐々木様でよろしいでしょうか?」
「はい。間違いありません。」
「そうですか。お荷物を預からせていただきます。お車は従業員が駐車場までお運びしますので、どうぞそのまま中へお入りください。」
さすが3万もする旅館だという感じの佇まいだった。建物の中にも外にも滝があってそこから川が流れていた。仲居さんはみんな高そうな着物を着て男性従業員は隅々までアイロンがかけられたスーツに蝶ネクタイ。お客さんも近くにテーマパーク的なものがないので子供は少なく、人生経験が豊富な大人な人たちばかりだった。
「チェックインがすみましたのでお部屋に案内いたします。」
1人が鍵を、もう1人の男の人が荷物を持ち、その2人に自分たちもついていく。部屋の階は7階らしく、エレベーターに乗る。大人5人が楽々のれる広さのエレベーター。背面がガラス張りになっていて、小高い丘にあるこの旅館からは綺麗な山の景色が見られた。
「こちらがお部屋になります。仲のよいご兄弟ですね。身体を休ませるのもよし、観光するのもよし。どうぞこのたびをお楽しみください。何かお手伝いできることがありましたら気軽にお声がけください。」
「ありがとうございます。」
そういうと仲居さんは下に戻っていった。仲居さんの言葉で引っかかるものがあった。仲の良い兄弟。そうか世間一般から見れば自分たちは仲の良い兄弟にしか見えないのか。2人と恋人同士という特殊な関係は世間的にはあり得ない。結婚も認められていない。その子供はどうなるのか。恵さんに投げかけられた問題が自分の中で再び上がって来た。部屋に入り、2人の顔をみる。この2人のためにしてあげられることは?子供は?ここでまた自分の悪い癖が出て、2人に相談できなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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