しょうがないわね、安藤君
長編書く前の練習です。
改善点などをコメントしてくださるとありがたいです。
「あんた、また忘れたの!?」
私は思わず声を荒げた。
隣の席の『安藤』君。
柔道部所属の大柄な男子。
でも、見た目とは対照的に消極的でいつもウジウジしている。
そして、鈍臭い。忘れ物は多いし、ドジばっかりやらかす。
本当に、しょうがない人。
「ごめん……」
「まったくもう……机くっつけて」
「うん……」
安藤くんはノロノロと私と机をくっ付ける。
また国語の教科書を忘れたらしい。
——昼休みに入って、私はいつもの友達とお弁当を広げる。
「『早樹』ちゃん、また安藤君のお世話してたっすね」
「したくてしてるわけじゃないわよ」
「早樹ちゃんって面倒見良いっす。やっぱり、長女だからっすか?」
「そうかもね」
私の家は4人姉弟。
3人の弟がいる。
私と弟は歳が離れているから、よく世話をしていた。
正直、安藤君は弟達よりも手がかかるかもしれない。
ふと、安藤君に目をやる。
いつも通り、1人で黙々とお弁当を食べていた。
——そして、むせた。
ご飯をかき込み過ぎたようだ。
「もう、安藤君!」
安藤君にペットボトルのお茶を差し出す。
彼は大きな口でそれを喉に流し込んだ。
「ごほっ、ぷはっ」
「まったく、落ち着いて食べななさいよね」
「ごめん……」
まったく、本当にしょうがない人なんだから……。
——放課後。私は花壇の水やりに行く。
園芸部の私の日課だ。
現在園芸部は人数が少なく、曜日毎に当番を割り振ってお世話をしている。
その日は一部の土を新しくする仕事もあり、結構重労働だった。
——大分時間が経った。
あともう一踏ん張んばりだ。
土は結構重たい。
運んでいる途中にバランスを崩しそうになった。
慌てて体勢を立て直そうとする。
急に土が軽くなった。
安藤君が土袋ごと私の体を支えてくれていた。
「大丈夫……?」
「ありがとう、安藤君。大丈夫よ」
「手伝うよ……」
「大丈夫よ。安藤君、部活で疲れてるでしょ」
「今日は、早く上がれたから」
そう言って、安藤君は土袋を軽々と肩に担いだ。
安藤君の腕は本当に太い。
私の2倍以上はあるんじゃないだろうか。
——安藤君と私は黙々と作業をした。
安藤君に細かい作業をやらせるどドジりそうだったので、力仕事だけ手伝ってもらった。
予想よりも大分早く作業は片付いた。
「安藤君、どうしてここに来たの?」
花壇のある裏庭は、真っすぐ下校するならばわざわざ通らなくてもいい場所だ。
安藤君はわざわざこの場所に寄り道したことになる。
「えっと……」
安藤君はウジウジしたままで中々言い出さない。
「まあ、言いたくないなら別にいいけれど」
「……うん」
——安藤君と校門で別れる。
「明日は教科書、忘れちゃダメよ」
「うん……また明日」
安藤君の大きな背中がだんだん遠ざかっていく。
そういえば、明日は美術の時間で絵具を使うはずだったけど……、
安藤君、大丈夫かしら。
——帰り道、嫌なものを見た。
他校の男子生徒が、うちの学校の男子生徒にカツアゲをしているようだった。
気弱そうなその人は、他校の生徒に何も言えないでいる。
……放って置けない。
「あんた! 何してるわけ!?」
「ああ?」
他校の生徒が睨みつけてくる。
……安藤君程じゃないけど、私より随分大きな体をしていた。
「何だよ、何か用かよ!?」
声を荒げる。
……怖い。
暴力に訴えられたらどうしようもない。
とにかく言葉で威圧しなければ。
「その人、嫌がってるでしょ!? 弱い者いじめなんかして楽しい!?」
「てめえ、イラつくなあ……調子乗ってんじゃねえよ!!」
男がユラリと近付いてくる。
怖い。
怖い。
勢いよく振り上げられた手に、私は思わず目を瞑った。
——痛くない。
殴られなかった。
私の目の前に大きな背中があった。
「安藤君……」
安藤君が大きな手で相手の腕をギリギリと握っていた。
「んだよ!? てめえ!!」
安藤君は何も言わない。
後ろからでは、彼の表情は分からなかった。
腕を掴まれた男の顔が苦悶の表情に変わる。
「わ、分かった!! もう何もしないから!!」
安藤君は男を開放する。
何か捨て台詞を吐いて男は走り去っていった。
「……大丈夫?」
安藤君はいつもの優しい顔で私に尋ねてきた。
私は大きな安心感に包まれた。
「大丈夫。さっきの人は……」
カツアゲされていた男子生徒。
もう、いなくなっていた。
「ありがとう、安藤君。どうしてここに?」
さっき校門で別れたはずなのに、どうしてここに来たのだろう。
「えっと、その……」
安藤君はポケットから取り出す。
ハンカチだった。
——思い出した。
以前、私が彼に貸したものだった。
「ずっと、返そうと思ってたんだけど……」
安藤君は、はにかみながら言った。
「あの時、裏庭に来たのも?」
コクリ、と頷いた。
ハンカチはキチンとアイロンがけされてあった。
「ありがとう、安藤君」
「こちらこそ、ありがとう」
——次の時間は美術の時間。
みんなが教室移動を始める。
隣の席の大男が視界に入る。
慌てているようだった。
「もしかして安藤君、絵具忘れたの?」
「……うん」
「絵筆とかも?」
「……うん」
「……まったく、しょうがないわね、安藤君は」
まったく、本当にしょうがない人。
「筆は美術室の借りて、絵具は私が分けてあげるから」
「……ありがとう」
「礼を言うよりも、次は忘れないようにしなさいよ!」
「……うん」
でも、安藤君は優しくて、
強くて、
とても頼りになる人。
私の、大好きな人。