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ショート×ケーク

作者: ろろさん。

ケーキが好きな女の子のお話です。

 シフォンケーキはそのままでもほっぺたが落ちそうなくらいふわふわしておいしい。だけれど生クリームが乗っていた方がもっとおいしくなる。


 クリームブリュレもそれだけでパリパリと音を立て、ふわふわとクリームが楽しませてくれる。でも、アイスクリームが乗っていた方がまた違う触感を楽しませてくれて楽しい。


 メロンソーダもそう。そのままでもしゅわしゅわと音を鳴らしてのどを楽しませてくれる。だけれど、アイスクリームが乗っていた方がかわいいし、幸せ。




 じゃあ、私は? 私の人生はなにがあったらもっと楽しくなるの?







「本当、詩軌(しき)ってケーキ好きだよね」


 パリッとノリが効いたシャツがまぶしい高校のブレザー制服を身に纏う少女が私にそう楽しそうに私に言って笑う。

 私はうーんと悩んだあと、黒い中に雪が降っているケーキを口に放り込みながら答えた。


「ふぇー、ふぉんふぁこふぉふぁいふぉ」


「ちゃんと飲み込んでからはなしてよ、行儀悪い」


 私を詩軌と呼んだ友人の美咲はちゃんと待ってるからと彼女は自分の目の前に置いてあった、かわいいハートのラテアートが施されたカフェラテを口に運ぶ。

 ああ、おいしそう。それにすればよかったかな。友人運ぶカフェラテを目で追いながら私は器用に目の前にあるチョコレート菓子をフォークで口に放り込む。おいしい。

 あーでもでも、今私が食べているものからすると、私の近くにおいてある、赤くつややかに輝いている紅茶も素晴らしく相性がいいし……。うーん。

 今日食べることができなかったケーキもあるから、またそれを食べに来た時に頼もうかな。

 というか、ここのガトーショコラなにこれおいしい。生チョコみたいにしっとりしているのに、重くなりすぎてなくてとても食べやすい。最高。


「……また来よう」


「あはは、気に入ったんだ」


「うん。本当に一緒に来てくれて助かったよ。ここのお店、雰囲気的に一人で来るのためらってたんだ」


 私たちがいるカフェはアンティーク調のものですべてが囲まれており、上を見ればなんとシャンデリアがぶら下がっている場所だ。

 もう本当におしゃれ。すごい、学生が学生服で来てはいけない雰囲気がすごかった。

 そして、看板近くにあるブラックボードに書かれた値段がとんでもねえもんだった。本当に、本当に目玉が飛び出るかと思った。ので、絶対おいしいと確信した私はいま友人を誘ってここにいるのだ。


「あー、本当におしゃれって感じだもんね。ここのお店。値段も値段だし。私今日あんたのおごりって言われなかったら来なかったと思うしって、ん?」


「ん? どうした?」


「いや、あそこのウエイターさん、どっかで見たことあるなーって」


「どこどこ?」


「ほら、あそこ、あのお皿片付けてる人」


 茶色のサイドテールが印象的な友人が指をさす方を見ると、細くて長い体躯の男性のウエイターが見えた。


「あー、本当だ。見たことあるような気がする」


 少しだけいじってある襟足まで伸びた黒髪、でもピシッと正された姿勢、少し子供っぽい顔。


「うーん、思い出せそうで思い出せぬ」


「ま、いっか。詩軌、コーヒーお替りしていい?」


 意地悪く美咲が笑う。


「どーぞ。ついでに私ももう少しケーキ食べるか」


「え、まだ食べるの」


「食べるよ?」


 何を驚く必要があるのだろうか、おいしいものはたくさん食べても残るのは多幸感だけ。だと思う。


 結局その日、私はケーキを5つほど頂いた。







「……また、来てしまった」


 しかも一人で。でもケーキはおいしい。おいしいに罪はない。

 そしてやはりカフェラテもおいしかった。ここのコーヒーは酸味よりも苦味が強いものだったので、とても私の好みで良かった。ハートのラテアートかわいいし。

 そういえば、あの注文するときに対応してくれた男のウエイターさん、やっぱりどこかで見たことがあるような気がするんだような。どこだっけ。

 というか、ガトーマジックうまあ……。いや、あるのがすでに神だし、触感も味もすべてが最高……。

 この三層に分かれた生地たちがたまらない……一回で三つの食感が味わえるの本当に……好き。


「来てよかった……」


 私はガトーマジックに向かって心の中で軽く拝んだ。







「うーん」


 場所は学校。私は机に覆いかぶさり、うなだれてる。


「お、どうした詩軌」


 頭上から美咲の声がしてきた。私はもぞもぞと顔を上げてみる。すると目の前の席に座っている黒い瞳が印象的な少女が映し出される。

 私はぽつぽつと言葉を垂れる。


「この前、一緒にあの、素晴らしく完璧で最高のケーキをお出ししてくれるカフェに行ったじゃないですか」


「うん」


「さすがに二週間もしないうちに、三回目ですこんにちはするのはいかがなものかなと思って」


「あーなるほど」


 そんな私の悩みを聞いた美咲は間髪入れずに私にこう告げた。


「いいんじゃない?」


「……いいかな」


「どうせ行かなかった違うところで食い漁るんでしょ?」


「うん」


 迷うことなく私は首を縦に振る。


「だったら行けば?」


「私はなんて良き友人に巡りあえたんだ……」


 答えは……そこにあったのか。私は美咲を拝んだ。







「今月の私の給料、この店にすべてつぎ込んでしまった……」


 でも背に腹は代えられぬ。

 おいしいに代償はつきものなんだ。

 後悔するのもつかの間。どこかで見たことがあるというか、もうここに短期間で数回来ている中で必ずいるウエイターさんが、私が今日頼んだものを机に並べていく。


「お待たせしました。イチゴのミルフィーユです。それから……」


 今日一番食べたかったイチゴのミルフィーユに目が釘付けになる。

 ああー……。この見た目でわかるサクサク感。たまらねぇ! たまらねえぞ! これフォーク入れたらどうなるの? どうなっちゃうの? 潰れる? それともサクッと割れて……。

 やべえ、わからん。未知の領域だ。


「本当に、ケーキがお好きなんですね」


「え?」


 ウエイターさんから話しかけられた。まって、思ってること顔に出てた? 不審者になってた? これ食べたらすぐ出てけ案件かな?


「あ、いや、ここのお店、一人で一人でいらっしゃる方は珍しいので。ましてや学生さんなんて……」


 あ、杞憂だった。

 ウエイターさんはとても私を物珍しそうに見ていた。それと少し嬉しそう?


「ああ、でも、ここのケーキは格別なので」


 本当に、本当にほかの場所もおいしいけどここは格別おいしい。最高。


「そうですか」


 ウエイターさんは少し誇らしげだった。


 そうして、私の給料はすべて胃袋に消えた。







 昼休み。きんこんかんこん、鐘がなる。


 ご飯を軽く食べて、ケーキを頬張る私を見てももはやみんな当たり前とみて何も言わなくなった昼休み。

 今日は美咲は委員会の仕事が入ったとかでボッチでの食事。でもケーキはうまい。


「本当に、ケーキが好きなんだね」

 

「……ふぁい」


 男の人の声だった。美咲の声じゃない。でも、聞き覚えがある。

 え、誰?

 顔を上げると、そこにいたのは。


「え、えっ? あ!!」


 あのカフェの……見たことあるなーって思ったら……本当に?

 え?


「実は俺もケーキ好きなんだよ。でも結構深く話せる人はいないというか」


「え、いいよ。話そう。話そう。ついでにこれ食べる?」


 戸惑いよりも嬉しさが勝った私は目の前の美咲の席に彼を招き入れ、ケーキを差し出した。







「え? なにここのマカロン、うま。ていうか、本当におごってもらっていいの?」


「うん?いいよ。ここのうまさを共有したかっただけだし」


「神かよ」


 私はとってもおいしいケーキをお出ししてくれるお店のウエイターさん、もとい、(みお)さんと共に学校の最寄り駅近くにあるパティスリーとカフェを兼ねて作られた場所に来ていた。

 いや、ケーキの力ってすごい。本格的に話したのが今日だったはずなのに、今日もうおいしい場所に一緒に来ることができてる。すごい。

 私はイチゴ味のかわいいピンク色のマカロンを口に運ぶ。

 サクッとした触感の後にふわっと甘酸っぱいイチゴの酸味が溶け出してくる。


「……生きててよかった」


「ほんと、うまそーに食うなー」


「そんなに?」


 この出会いに感謝してるだけなのに。


「うん、本当に、働いている時に見た時も思ったけど、あ、これおいしいんだなってみてて思えるもん。ケーキ作ってるパティシエールさんも嬉しそうに覗くぐらいだったし」


「えっ、そんっ、見っ!?」


 見られていたのか!? そんな、素晴らしいものを作っているかたに!? 私を視界に入れていたの!?


「大丈夫? その人私見た後に目が痛いとか言っていなかった?」


「いや、言ってないよ。いいもん見た。頑張れるって言ってただけだよ」


 なにそれと彼は笑う。同級生なのに少し可愛いと思った。


「こちらこそ、おいしいものをありがとうございますですだよ。またこんど給料入ったらいくね」


「うん、あの人も喜ぶと思うよ」


 ああ、嬉しそう。こういう人を見ると本当に行ってよかったと思う。


 あ、そうだと彼は彼はとても素晴らしいレモン色のものを口に運びながら私に言った。


「来週の日曜日にうちのバイト先で新作の試食会があるんだけど、よかったら来ない?」


 ひゅっと何かが止まる音がした。私の呼吸音だった。

 その日は……、その日は……。


「すまねえ、その日は……私はバイトが入っている……行きたいのはやまやまなんだけど」


 ぎりぎりと机に爪を立てる。行きてえ……。でも行ったら少ない給料がもっと少なくなる……。

 美味しい未知なるケーキが食べれなくなる。いや、こっちも確実に未知なるケーキなんだけど! でも金があった分だけいろんなものに巡り会えるから……。

 あ、やば、澪さん若干引いてる。


「お、おう……。わかった。じゃあ、持っていけるものは月曜に学校に持っていくから」


「神かよ」


 私は引いながらもそんなことを言ってくださる澪さんを拝んだ。






 月曜日。昼休み。きんこんかんこん鐘が鳴る。と同時に彼が来た。


「はい、約束の品」


 紙袋を私にさしだす。中からふわっとやさしくて幸せなにおいがした。


「ありがとうございますです」


「くるしゅうない」


 私にお宝を渡した彼はこれから委員会があると、私の感想は放課後聞くとだけ言葉を残して去ってしまった。


 ちょっとだけ、彼と一緒に食べられたらいいなと思っていた私は口をつぐんだ。







「……うわ、何これおいしい」


 でもおいしいものはおいしかった。


「いやー、買えた買えた。お、いいモノ食べてんじゃん」


 授業が終わった瞬間購買にかけていった美咲が息を切らしながら帰ってきたとたん、彼女は私が食べているものを美味しそうと言ってきてくれた。

 早々にお昼ごはんであるおにぎりを食べ終え、澪さんからもらったケーキを食べていた私は彼女にそれを差し出す。


「食べる?」


「いいの? 食べる。ありがと。昨日の人は?」


「んー……。今日はなんか用事あるらしくて」


 一人で食べても、あまりおいしく感じなかった。なぜだろう。

 たった、1日のことのはずなのに。


「でもあの人は、私にとってシフォンケーキの生クリームみたいなものだから少し寂しいと思った」


「それってどういうこと?」


 こてん、と購買で買ってきたコッペパンを一口かじった美咲は首を傾げてくる。


「シフォンケーキって、そのままで食べてもおいしいけど、生クリームがトッピングされていると、もっとおいしくなるの。あの人がいたほうがなんか楽しいなって」


「それってあんた……。そっかー。じゃあまたそのケーキの話ができるといいね」


「うん」


 私は首を縦に振り、彼からもらったケーキを宝物を扱うようにしながら口へ運んだ。







 数日後。


「来て……良かった……」


 澪さんと知り合って、初めて知る味が増えた気がする。1人で調べてあちこち回るのもいいけど、やっぱり1人で補えないものはあるんだなーって凄く感じた。

 この出会いに感謝……。


「ここのシフォンケーキうめえんだよ。この生クリームも最高でさ」


「うん。もうこの世の至福を全部詰め込みましたって言われても信じる」


「もうさ、この二つの組み合わせ以外ないなっておもっちゃうよね」


「思う思う。最高」


 フォークを入れるたびにしゅわっといって、切り取ると元に戻るそれはもう本当にこの世の至宝だ。

 それに添えてあるふわふわの生クリームをつけたらもう幸せしか出てこない。

 ふわふわとふわふわのコラボレーション…しかも両方の甘さが微妙に違うからちゃんと味がある……味覚が死なない……すげえ……。


「連れてきてくれてありがとう」


 私は軽く拝みながら彼にそうお礼を言うと、彼は嬉しそうにおうといってはにかんだ。









 この世の至福を食べ終え、会計が終わり、カランコロンと私たちが出ることをドアについているベルが教える。

 あ、と彼がなにかを思い出したかのようにつぶやく。どうしたのだろう。

 私は振り返る。

 そこには澪さんがいた。


「あ、そうだ。俺、あんたのことが好きだ」


「は」


 私はボッとまるでイチゴのように頬を真っ赤に染めた。



ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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[良い点] 等身大の心情描写が素敵でした! 変に小難しい言葉で書き連ねるより、「最高」とか「おしゃれ」とかストレートに書いてくれる方がキャラ感とか年齢感が出ていいなと思うんですよね。リアリティ重視の読…
[良い点] 尊かったです(合掌) 現代恋愛かとおもったらヒューマンドラマなんですね それもまた乙
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