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プロローグ

 ここはとある森の奥深く。近くの川からは魚が採れるし、山菜もそこら中にある。たまに近くの町に売りに行くんだが、基本的に自給自足で生活できるから金があってもあまり意味はない。暇つぶしだな。

 でかい木が多いせいで家に陽の光が中々当たらないのが悩みと言えば悩みだが、暮らしていく分には全く問題はない。毎日代わり映えしないけど、別にそれでも良かった。だけど、ある日俺の環境は大きく変わってしまった。

 つい最近の事だ、世話になってた爺さんが死んだ。

 血は繋がってなかったし口うるさい人だったけど、捨て子だった俺を育ててくれた恩人だ。でかくなってようやく恩返しできると思ってたのにあのクソジジイ……ぽっくり逝きやがった。

 心筋梗塞。町から医者に来てもらったらそう言われた。見た目以上に歳食ってたから他にも悪いとこがあったらしい。

 体調が悪そうにしていたことはなかったかね?なんて聞かれたが……あの日はいつも通り魔物を素手で倒してたし、体調悪そうには見えなかった。

 飯だって俺の分まで手を出してきて、酒だってガバガバ飲んでた……そういうとこが駄目だったんだろうな。


「俺はちゃんとした生活をしよう」


 思わず声に出してしまった。まあそれだけ爺さんの生活習慣はひどかったってことだろう。

 さて、そろそろ行くかな。荷物は持ったし髪も結った。しかし随分伸びたな。爺さんを真似して伸ばし始めたんだっけか。男が髪を伸ばすのはどうかと思ってたが……切るのも面倒だしこのままで良いか。

 台所に残っていたリンゴを手に取り丸かじりする。小腹が空いたんだしょうがない。これで我が家最後の食料がなくなったことになる。

 家を出ると日が真上にあった。暑い中裏手の坂道を登り拓けた場所まで歩く。

 結構高いとこにあるから時間がかかるが、森を一望できる丘だ。あの爺さん厳つい見た目のくせして、ここからの眺めが好きだったんだ。だからここに墓を作った。

 墓石代わりに棒を突き立てただけで飾り気はないが、俺も爺さんもそういうとこは無頓着。俺が気にならないんだから爺さんもそうだろ。

 家から持ってきた酒を空けて棒にかける。


「美味いか? これ、あんたが大切にチビチビ飲んでた酒だ。 俺はまだ味がわからないけど、今度会う時にはわかるようになってるだろ。 その時は一緒に飲ませてもらえるか?」


 当然返事はない。酒が土に染み込んでいくのを見ると土の下で飲んでるんじゃないかと思えてくるから不思議だ。


「爺さん、俺旅に出るよ。 あんたがいつも言ってた広い世界を俺も見てみたい。 勝手で悪いけど剣貰ってくな」


 酒が切れた。瓶に少しはねたのを舐めてみると、それだけで咳き込んじまった。二十にもなって情けないが飲めないものは飲めない。爺さんと飲めるようになるのはだいぶ先になりそうだ。

 ん?雨が降ってきたか?いや、雨雲なんてどこにもないな。あぁそうか、酒がきつすぎたんだな……じゃなきゃこんなに涙なんて出ないだろ。

 ははは……ガキかっての、情けねえな。


「安物になるだろうけどたまには酒を届けにくるよ……家もそのままにしておく。 ボロボロになるだろうけど、壊したくはないからな。」


 俺は笑えてるだろうか?情けない顔をしてないだろうか?いっそ爺さんに喝を入れてもらいたいって気持ちがわいてくるが、そんな事は無理だとわかってる。


「またな……爺さん」


 だから別れの言葉を口にしたんだと思う。でないとここを離れられそうになかったから。それは正解だった。涙は止まらなかったが、振り返らずに坂道を下る事ができた。

 家には爺さんと過ごした思い出が詰まってる。だからもう寄らなかった。決別というわけじゃない。区切りをつけれたんだと思う。

 さっきから自分の感情がうまく表現できていない気がするけど不思議と嫌な気持ちじゃない。悲しいし辛い、それは間違いないが……心のどこかに一人で生きていく事に対する高揚感もある。

 俺は逸る気持ちを抑えて無言で歩き続けた。途中で見つけた果物をかじりながら結構な距離を歩くとようやく森を抜けた。もう涙は出ていない。


「うっし、のんびり行きますか」


 目の前には見渡す限りの平原が広がっている。俺はそこに一歩を踏み込んだ。旅の記念すべき一歩目だ。

 俺の名前はレックス、今日から旅人だ。

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