無詠唱の難しさ
この世界では魔法使いが存在し、魔法を発動させるには詠唱が必要である。
昔、魔法学校を首席で卒業した男性がいた。
彼は10代の頃から無詠唱魔法の研究をしていたが、無詠唱に辿り着くことなく寿命を終えてしまった。
その後、彼の友人の孫がやはり、10代の頃から無詠唱魔法の研究を始め、無詠唱に辿り着いた頃には歩くのもやっとな老人になった時であった。
それから、何人かの者が無詠唱に挑んだのだが、誰も無詠唱に辿り着いた者はいなかった。
誰もが無詠唱に諦めかけていた時、これまでにない天才が現れた。
その人物は、シリンダーが入団する前に団長を勤めていた女性である。
彼女は、20代後半という若さでなんと、無詠唱に成功したのだ。
彼女いわく、『コツを掴めば簡単!』らしいが、誰も理解できない。
その無詠唱の彼女なのだが、とある任務に行ったきり帰って来なかった。
「ありえない・・・」
地面に倒れた状態でシリンダーは呟いた。
目の前の小さな女の子が無詠唱に辿り着く事は、ほぼ100%ありえない。
なら何故、少女は無詠唱で魔法を発動させてるのか。
「100年生きた魔女・・・」
考えに考えて出した答え。テンビンは、見た目は小さな女の子だが、周囲の人が言うように、本当に100年生きているのではないか?という答えに辿り着く。
「避けるのは分かっていたわ!」
その言葉で、シリンダーはハッと我に返る。
テンビンの方を見ると、杖はシリンダーに向いていた。
「地図を燃やしてしまうのは困るし、だからといってあなたは強いから攻撃も受けたくないわ。だから、わざと魔法を右寄りに発動してバランスをくずしながら左に避けるのを狙っていたの」
テンビンの杖が次は水色に光ってる。
「しまっ・・・」
シリンダーが気づいた頃にはもう遅い。普通の魔法使い相手なら詠唱があるから立て直せるが、相手は魔法を無詠唱で発動する。
逃げる事も反撃も出来ない。
「以下略・・・」
テンビンの目が力を入れて更に細くなり、杖を持ってる手に力が入る。