極秘任務
シリンダーは鎧の手入れをして剣を抜き、錆びなどがないか念入りに点検していた。
別にビビっているわけではない。が、あの話を聞いた後だ。念には念を入れて、シリンダーは隅々まで点検していた。
「これなら大丈夫だな・・・」
シリンダーは剣の先を見つめて何度か頷いた。
コンコンコン・・・。
偶然にも点検が終わったと同時に、誰かが部屋をノックする。
「誰だ!?」
静寂を保っていた部屋にいたシリンダーは、なんの前触れもなく聞こえてきたノックに驚いて、少し早口で訪ねた。
「ぼ、僕ですよ・・・。ランプです!」
ドアの向こうから頼りなさそうな声が聞こえてきた。
ガチャとシリンダーがドアを開けると、ランプはドアが開くとは思わなかったか「わっ!」と驚いた。
「何故、驚く?お前がノックしたからドアが開くのは当たり前だろ?」
シリンダーは彼が驚いた事に疑問に思った。
「い、いえ。てっきり『入れ!』というかと思ったから・・・」
ランプは「えへへ」と頭の後ろを掻きながら苦笑いをして言った。
「ところで、何のようだ?私は忙しいのだ!」
「実は団長にこれを作ってきたんですよ!」
ランプはそう言うと、青い台形の布を広げて自慢げであった。
「なんだ、この布は?」
シリンダーはそれを見ただけでは何なのか分からずに、腕を組んで首を斜めに傾けた。
「これはマントですよぉ!」
ランプは涙目で叫んだ。
「マントだと!?」
ランプの言葉に、シリンダーはランプ以上に大きな声を出してしまった。
シリンダーはマントを複雑な顔をして見つめていた。
「これは極秘任務をする団長へのお守りです!身に付けてください!」
「そ、そうか・・・」
シリンダーはマントは好きではなかった。
見た目が格好いいからと身に付ける人もいるみたいだが、シリンダーにしては邪魔でしょうがないのだ。
しかし、ここで要らないとは言えない。ランプの目がとても輝いている。
「あ、ありがとう!有り難く受け取るぞ!」
シリンダーはマントを受け取り、タンスに仕舞おうと思ったのだが。
「そうですか!嬉しいです!では・・・。早速、失礼します!」
ランプは喜ぶとシリンダーの後ろに周り、手早くマントを取り付けてしまったのだ。
「これでよしっ!行ってらっしゃい!」
シリンダーは何かを言いたかったのだが、ランプの笑顔に負け、しぶしぶそのマントを付けたまま部屋を出ていってしまった。
ー(幕間)ー
「ふぉっふぉっふぉっ・・・。ああ!解剖したい。解剖したい・・・」
シリンダーが廊下を歩いていると、レベル99で三番隊団長の男性、フラストがブツブツ言いながら廊下を行ったり来たりしていた。
どうやらシリンダーは眼中に入ってないようだ。
「やあ、フラスト!」
「おやおや、これはこれはシリンダーではないか・・・」
フラストと呼ばれた若くて白髪の男性は、シリンダーに名前を呼ばれて初めてシリンダーの存在に気づき、モノクルを光らせてシリンダーの元へと寄ってきた。
「今から何か任務ですか?」
フラストは、まるで詐欺師のように怪しい笑みを浮かべて、シリンダーの顔から目を逸らさないように軽くお辞儀をした。
「ああ!少し極秘任務を任されてな。今日一日だけ留守にする!」
「そうですか・・・。ならすまないが、頼みたいことがあるのですが・・・」
フラストは『すまない』と言いながらも、全然詫びるような顔をせずにたんたんと用件をいう。
「ここら辺の小さなゴブリンを生きたまま捕獲して欲しいのですが、よろしいですかな?」
「何故、ゴブリンを生きたまま捕獲して欲しいのだ?」
シリンダーはフラストのお願いが気になり、返事をする前に質問した。
「いや・・・。ここら辺のゴブリンは、子供の姿でも大人と同じくらいに強いではないですか。それを解剖して解析したいのです」
フラストは団長をしていると同時に、いろんな事を研究している化学者でもあるのだ。
「それならフラストでも出来るだろ?それに、解剖するなら死んだゴブリンでもいいじゃないか。先程、我々が草原でゴブリンを倒したから、死体なら転がっているぞ?」
「いやいや・・・」
フラストは首を横に振り、シリンダーの耳元で囁いた。
「生きたままなら、解剖するときに悲鳴も聞けるじゃないですか。それに、私だとついつい殺してしまうのですよ・・・」
フラストは残念そうに、本当に残念そうに少し下を向いて言った。
「その話を聞いて生きたまま捕獲するのは気が引ける。他を当たってくれ・・・」
シリンダーはその話を聞いて気分が悪くなり、すぐにフラストから離れていった。
「ふぉっふぉっふぉっ・・・。そのマント、お似合いですよ?」
という声が聞こえたが、シリンダーは無視をした。
途中、山積みの書類を持って前が見えてない、レベル88の気の弱そうな男性、三番隊副団長のケンカンとぶつかりそうになったが、シリンダーは華麗に避けて「悪い!」と一言で済ませた。
ー(幕間)ー
お城を出ようとしたとき、シリンダーはあることに気付いた。
一番隊の団長、副団長。二番隊の副団長。三番隊の団長、副団長。四番隊の副団長。五番隊の団長、副団長に出会っているのだ。
「四番隊の団長以外に会うって、珍しいこともあるものだな・・・」
シリンダーがそう言うのも仕方ない。
例えば、一番隊から五番隊の全員が何の任務もなく非番だとして城内をうろうろしていても、出会う団長、副団長はせいぜい2、3人くらいだ。
「まぁ、四番隊の団長に会ったら、全員と会ったことになるのだが、そうはないか・・・」
シリンダーが独り言を言って苦笑いをしたときである。
「ウチがなんやて?」
その言葉にビックリしたシリンダーが恐る恐る振り返る。
そこには、レベル91の黒髪でショートヘアーの女性、四番隊団長のピンセトが武器にしている鉄扇で扇ぎながら立っていた。
ピンセトの後ろには、見た目幼女のテンビンがこっちを睨み付けているかのようにシリンダーを見ている。