神隠しの洞窟
ピペットと別れてから数分後、シリンダーは一番隊団長マントルの部屋の前に辿り着いた。
「ランプ!お前はここで待機だ!」
「わかりました・・・」
シリンダーはランプの顔を見ないでドアを見つめたまま命令を出し、ランプはシリンダーの背中に敬礼をした。
コンコンコン・・・。
「だれだ!?」
ドアの向こうから渋い男性の声が聞こえた。
「マントル、私だっ!」
「その声はシリンダーか・・・。入れ!」
「失礼します!」
シリンダーはハキハキと返事をして、ドアをできるだけ音を出さないようにゆっくり開けた。
「やぁ、シリンダー」
ドアから一直線上にある席に座っている鼻下と顎に立派な髭を生やして、髪が白髪混じりのウェーブがかかった肩までの男性がレベル100のマントルであるが、シリンダーに挨拶したのは彼ではなかった。
彼の横にビシッと棒のように立って、両手を後ろに休めをしている男性。
茶髪と金髪の中間の少し長めの髪をオールバックにしている30代くらいの男性、ボンベであった。
シリンダーは何も言わず、ボンベに丁寧に一礼した。
「今日は何の用だ?」
シリンダーは早く話を終わらせたいのだろう。近くにあった椅子にマントルが『座りなさい』とジェスチャーしたが、座らずに訪ねた。
「うむ・・・。実はだな。数十年前のある極秘になっている任務の紙を見つけたのだが・・・」
マントルはそう言うと、隣に立っていたボンベがシリンダーの元へ歩き出し、一枚の文字と図が書かれた紙を差し出した。
「数十年前の極秘の任務の紙だと!?何故そのようなものがある?極秘のは確認したら処分することになっているだろ?」
シリンダーがそう言いながら紙を受け取り目を通すと、文字より先に図に目が行く。
「何の地図だ?この中央のがここ、王国だな・・・。ん?こんなところに洞窟があったか?」
シリンダーが独り言を言って、次に図の上と下にある文字を読む。
「隠し洞窟だそうだ」
シリンダーが読むと同時に、シリンダーが読んでいる文字を声に出すかのようにマントルが話し出した。
「この王国の北西の迷いの森に隠し洞窟があるそうだ。その図はこの周辺の地図と迷いの森の洞窟に行くためのルートが記されている。数十年前といったが、24年前の紙だ。ここにとある騎士団の団長が調査に行ったらしいが、その後どうなったのかは分からない」
「成功したのか、失敗したのかということか?」
「恐らく、任務を実行した人物は任務が終わってから処分するはずだったのだろう。ワシには任務は失敗したと思うのだが・・・」
マントルは顎髭を触りながら深刻な顔つきで自分の意見を述べた。
「「「・・・・・・・」」」
しばらく三人は言葉が見つからずに沈黙していた。
「・・・ところで・・・」
沈黙を打ち破り、最初に話始めたのはシリンダーであった。二人の視線がシリンダーに集まる。
「私を呼び出したのはこれと何の関係があるのだ?何故、私にこれを見せる?」
シリンダーは極秘任務の紙の端を持ち、ヒラヒラと紙が漂うように手首を上下に動かした。
「実はだな・・・」
マントルは勿体ぶるかのようにしばらく間を開け、目を閉じた。
「君にこの洞窟の調査をしてほしいのだ」
ゆっくりと閉じた目を開け、ゆっくりとした口調で言う。
「何故、私なのだ?お前がいるだろ?それに、他の隊長や副隊長もいる!」
シリンダーは、何か嫌な予感がしたので遠回しに『自分で見つけたのだから自分で行けばいいじゃないか』と言う。
「ワシやボンベが行くのが本当はいいのだが、我々は今からこの世界の反対側の国へ行かないといけないのでな・・・」
ここでマントルはシリンダーを見つめる。
「私を除いて君がレベル100だから、君に頼もうと思ったのだよ。前の極秘任務をした者がレベル何だったかは知らないが、100の君ならたぶん大丈夫と思ったのだよ」
そこまでマントルが言い終わると、ボンベが両手を後で組んだまま一歩前に出てきた。
「第2番隊団長、シリンダー。女性。レベル100。
副団長、ランプ。レベル82。
第3番隊団長、フラスト。男性。レベル99。
副団長、ケンカン。男性。レベル88。
第4番隊団長、ピンセト。女性。レベル91。
副団長、テンビン。女性。推定レベル85。
第5番隊団長、ピペット。男性。レベル97。
副団長、クーゲル。女性。レベル81」
っとたんたんとした口調で、ボンベは全員の名前と性別、レベルを表情一つ変えずに言った。
それが終わったあと、シリンダーは気付かれないように二人に向かって『サーチ』をかけた。
『ボンベ 85』
『ιθωρρЗ ヶゐ◯ΒΑゎ』
ボンベはちゃんと表示されるのだが、マントルだけは表示されなかった。
しかし、レベル100なのは確かだ。何故ならマントルはシリンダーと本気の模擬戦をして、少しの差でシリンダーが負けたのだ。
レベル100のシリンダーが少しの差で負けたのなら、マントルはレベル100だといっているものである。
「わかったわ・・・」
シリンダーは観念したかのように目を閉じ、その極秘任務を受けることにした。
「この任務の紙、誰にも見せないから持っていっていいか?私の頭では、こんな複雑な地図は入らない!」
「いいさ、後で処分するなら好きにすればいい!」
シリンダーはマントルの言葉を聞くと、ドアを強く開け帰ろうとしていた。
「待ちたまえ!」
ふとマントルが思い出した化のようにシリンダーを止める。しかしシリンダーは開けた扉だけ見ており振り向きはしなかった。
「ワシが留守の間、シリンダー、お前に騎士団を任せる」
マントルの話が終わると、シリンダーは『了解』というように右手を上げてその場を去っていった。
ー(幕間)ー
「あの~・・・。マントル団長の話ってなんだったんですか・・・」
早足で歩いているシリンダーの後ろを、ランプがちょろちょろとシリンダーの様子を伺うかのように話しかけてきた。
「極秘任務だそうだ。悪いが言えない」
シリンダーは振り向くことなく答えた。
「極秘任務といったら、知ってますか?騎士団の都市伝説」
ランプは何かを思い出したかのように突如話始めた。シリンダーは都市伝説や幽霊などを信じないので聞かないふりして早足で歩いている。
「僕が入団したばかりの時にたくさんの団員が噂をしていたんですけどね。どうやら王国の近くの複雑な迷いの森に洞窟があるみたいなんですよ」
その言葉を聞いたとき、シリンダーの足はピタッと止まった。
「団長もこの話気になりますか?」
シリンダーはその洞窟が極秘任務の場所ではないかと気になり足を止めたのだが、ランプにはそれが自分の話に興味を持ち、足を止めたのだと勘違いをしてニヤニヤ笑っている。
(いや、まさかな・・・・。だが・・・)
シリンダーは何度も心の中で否定をしようとしたが、『迷いの森の洞窟』の話が気になって仕方なかった。
「続きを早く!」
シリンダーはランプを急かすかのように睨み付けた。
「え、えっと・・・、団長、顔が恐いですよ?・・・こほん。数十年前の話みたいなんですけど、女性のレベル100の団長が極秘任務で森の中の洞窟を検索したみたいなんですよ!」
シリンダーはランプの話を真剣に聞いていた。
(なにが極秘任務だ!こんな噂になっていたら極秘も何もないだろ・・・。それにこれが本当の話なら、新たな情報だな。探索に行ったのは女性の団長なのか・・・)
シリンダーはランプの話を本当かどうか分析していた。
「その団長は探索から帰ってこなかったみたいで、気になった騎士団数名がその洞窟に探しに行ったら、な、なんと!身に付けていた服や武器だけが洞窟の中部に落ちていて、肝心の女性団長の姿は何処にもなかったらしい・・・」
ランプは怖い話をするかのように、できるだけ怖い顔を作って声を低くして言った。
「なんだ、その団長はモンスターに喰われたのか!?」
シリンダーは驚いてランプの両肩を力一杯がっしりと掴んで大声を出していた。
もし、その洞窟がこれからシリンダーが調べる洞窟なら、レベル100の団長をも倒してしまう恐ろしいモンスターが存在している事になるからだ。
「いたたた・・・。ま、待ってください!だんちょ~・・・」
ランプの痛がっている声にシリンダーは我に返り、ランプの肩から手を離した。
「それで、そのようなモンスターがいたのか?」
シリンダーはしばらく目を閉じ、落ち着いてから再びランプに訪ねた。
「それが、おかしいんですよ・・・。なんていうか、身に付けているものはそのままで、まるで体だけ消えた感じなんですよ・・・」
「体だけ消えた?」
シリンダーは言っている意味がわからず、復唱してランプに聞いた。
「はい。ええっと何て言えばいいか、鎧、その中にきている下着などは普段身に付けている部分に残っていたのですが、突然その服を身に付けている団長が全裸のまま姿を消したみたいな感じ・・・。って言えば分かりますか?」
「えっと・・・。たとえば、靴の中に靴下が履いたような状態でそこに捨てられていたみたいな感じか?」
「まぁ、そんな感じです。ね、不思議でしょ?・・・・でっ、その洞窟は『神隠しの洞窟』と言われているみたいなんですよ・・・」
再びランプは怖い話をするかのように低い声で言った。
「・・・・・」
シリンダーは無表情のまま、なにも言わずに固まっていた。
「・・・あれ?さすがの団長も今の話は怖かっ━━━━━━」
「あっはははは!!」
「うわっ!」
心配になったランプがシリンダーに近付いたとき、シリンダーがいきなり大声で笑うので、ランプはびっくりして後ろに数歩後退りをした。
「ランプ!やっぱりそれはデマだ!」
シリンダーはお腹を抱えてながら言った。
「何故、極秘任務なのに数名の騎士団が探しに行けるのだ?それに服が着たままで団長が消えるのをあり得ない話だ!」
シリンダーの話を聞いて、ランプは深く考え込んだ。
「確かに・・・それもそうですね・・・」
そしてあっさりと納得してしまった。
「全く・・・」
シリンダーは呆れたように一つ溜め息をつくと、またスタスタと歩いていった。
「ランプ!今から私は極秘任務準備の為、一旦部屋に戻る!」
シリンダーは心の中で『なんだ・・・。嘘から出た真実か・・・』と思い、フッと鼻で笑ったあと、ランプの方を振り向いてハキハキとした言葉で言ったあと部屋へと入っていった。
その間、ランプはシリンダーの部屋が閉まるまで敬礼をしていた。
その話を陰から聞いていた者がいた。それはずっと子供体型のテンビンである。
「都市伝説・・・・・消えた団長・・・・・神隠し洞窟・・・・・」
テンビンはその言葉を口にして、シリンダーとランプがいた場所を背筋が凍るような目で見ていた。