百年も生きた魔女
レベル100になった人物は、騎士団の中でも二人しかいない。
一人はシリンダーであり、もう一人はマントルという一番隊団長の男性である。
レベルと名前は誰でも使える『サーチ』をすれば、サーチを使った人物だけ、その人の名前とレベルを知ることができる。
しかし、例外もあるようだ。
全世界共通のサーチをしても何の文字か分からない時がある。それはなんなのかいまだに分かっていない。
「おっ!あれは・・・。テンビンちゃんじゃないか!」
ピペットはシリンダー、ランプの後ろに視線をやり大声で言った。
どうやらシリンダーを口説くのは諦めて他の女性にターゲットを変えたようだ。
シリンダーとランプもピペットの視線につられて後ろを見た。
水色の髪が腰近くまであるジト目10歳くらいの少女がこちらに近づいてきた。
「やぁ!テンビンちゃーん!もしかして俺に会いに来たのかい?」
「はぁ?何言ってるの?この先に用事があるから通っただけだわ。あんた達こそ廊下でペラペラと喋って邪魔よ!」
テンビンという少女は目を細めてピペットを睨み付けた。
「ピペット団長!やめてください!周りから見たら犯罪ですよ?」
ピペットの後ろをずっと付いていたレベル81の五番隊副団長の黒髪ショートの女性、クーゲルは四角い眼鏡を光らせて監視している。
「そんなこと言わないでよ、クーゲルちゃん。彼女はもうずっとあのままの姿なんだよ?きっと大人なレディーさ!」
ピペットがそう言いたい気持ちはよくわかる。
テンビンという少女はシリンダーが入隊した約10年前も同じ姿であった。
彼女はその姿で百年くらい生きているのではないかという噂が流れ、ついた二つ名が『百年生きてる魔女』である。
シリンダーはテンビンに『サーチ』を使ってみた。
『▽▼◎○▲↑◇∋#£ Å∧∃∨∪』
シリンダーはテンビンに近付くたびにサーチを使うのだが、名前とレベルが変な文字で表示されて見ることができない。
「ねぇ、テンビンちゃん。俺と一緒にお茶でもどうだい?」
「ふざけないで!何であんたと一緒にお茶をしなければいけないの?気持ち悪い!ああっ!あなたの細胞一つ残らず消滅しないかしら?マジでそう思うわ!もう、自分の剣で自分を刺すか、どこか高い場所から飛び降りなさい!それはそれで面白そうだわ!」
「あ、相変わらず厳しいねぇ。テンビンちゃん・・・」
テンビンはピペットを嫌そうな目で睨み付けたあと、シリンダー、ランプ、クーゲルなどまるで存在していないかのように見向きもしないで去っていった。
「あんなのが副団長だと、団長も大変だねえ・・・」
「いいえ。ピンセト団長とはうまくいってるみたいですよ?」
真っ青な顔でテンビンを見送ったピペットの言葉に、眼鏡を光らせたクーゲルがすぐに答えた。
そう、テンビンは四番隊副団長であり、レベルは85らしい。サーチでも分からないに何故副団長の最高レベルの85になったかというと、彼女は入団する前にたった一人で団長クラスでしか倒せないはずのレッドドラゴンを倒したというのだ。
その事が評価され騎士団にスカウトされ、レッドドラゴンを倒したのがまぐれ(まぐれでは倒せない)だの本物だの審議が続き、結果副団長の最高レベルの85が言い渡された。
理由は見た目が少女だから団長の仕事は無理だろうということで、せめて団長の手伝いの副団長ということらしい。
彼女はその結果に不満をいうかと思いきや、あっさりと受け入れたみたいだ。
普通の騎士達からはテンビンは人気がある。
女王樣みたいな性格だから特にMの人達から人気がヤバイ。
「俺の男の大切なところを足でしてほしい・・・」
「罵倒されながらしてほしい」
「鞭で打たれたい(テンビンは本来鞭を持つキャラではない)」
などという変態発言が多く聞かれる。
ちなみに気が強いからという理由でシリンダーも人気がある。
話を戻すが四番隊は団長も女性である。
四番隊団長のピンセトは副団長のテンビンを凄く可愛がっている。
理由は分からない。
他の団長だと、厳しい性格のテンビンを自分の下に置こうとはしないから、自分の下に置いているピンセトは変り者だとみんなが思っている。
「だんちょ~・・・。忘れていましたが、マントル団長が呼んでるみたいですよ?」
「そんなことは早く言わんか!用事があるなら、こんな変な男と無駄話をしなくてよかったじゃないか!」
「おいおい。シリンダーちゃん、酷いじゃないか・・・」
落ち込んでいるピペットを無視して、シリンダーはピペットとクーゲルの間をすり抜けて、まるでその場から逃げ出すかのように少し早足で歩いていった。
「あっ!だ、団長!待ってくださ~い!」
シリンダーに追い付こうと、ランプは少し遅れて走っていく。
(テンビンを下に置いているピンセトを変り者と思っているが、あんな男を下に置いている私も変り者だな・・・)
シリンダーはランプに対して失礼なことを思いながら、一番隊団長のマントルがいる一番隊の間まで向かっていった。