レベル100の団長
こんにちは。
新しい生命を投稿します。
よろしくお願いします。
王国から少し離れた草原で銀色の鎧を纏った20代半ばくらいの可憐な女性が、風に靡いている黒い髪をかき分けて、王国の反対側にある森を見つめていた。
彼女の名は『シリンダー』。彼女の後ろにそびえ立つ王国、『リサンエン王国』に暮らしている騎士団の第二番隊団長である。
「だんちょ~!」
シリンダーの後ろから男性の頼りない声が聞こえる。シリンダーが振り向くと、そこには金髪の今にも泣き出しそうなイケメンを先頭に、鎧を纏った兵士が数十人くらい立っていた。
「何故団長が先頭に立っているのですか!?僕と団長は後ろで指揮を取りましょうよぉ・・・」
20代前半の金髪の男性は脚をガクガクと震えさせて大声でシリンダーに訴えている。
「甘えるな、ランプ!!お前はそれでも私の下に着く副団長か!?」
シリンダーは金髪のイケメン男性、騎士団の第二番隊副団長『ランプ』の方を見て強い口調で怒鳴った。
「相手はゴブリンの群だ!私一人で充分だ!!」
ランプを怒鳴ったあと森の方を眺めながらシリンダーは言った。彼女の口元はわくわくしているのか、僅かにニヤけている。
彼女らは偵察部隊からゴブリンの大群が向かっているという情報が入り、王国近くの草原で待ち伏せをしていたのだ。
「し、しかしだんちょ~・・・」
ランプが何かを言おうとした時、肉眼で森の方に土煙を発見する。
「ゴブリン!ゴブリンです!!数はおよそ12、3体です!し、しかも、まだ小さなゴブリンです!!」
「12、3!?大群と聞いたから数十体いるのかと思ったぞ!」
シリンダーはがっかりした表情で剣を抜いた。
「だ、だだ、だんちょ~!気を付けてください!ここら辺のモンスターは幼少期でも大人と同じくらいの強さがあります!」
「そのくらい分かってる!」
シリンダーはランプの言葉に振り向かずに答えると、剣を両手で持ちゴブリンの群に走っていった。
「はあああっ!!」
シュパッ!
「ガアアアアっ!!」
シリンダーは先頭にいたゴブリンに斬りかかり、斬られたゴブリンは悲鳴をあげてその場に倒れる。
斬られた奴の周囲にいたゴブリンは王国への進行を止め、シリンダーを見て襲いかかってきた。
「フンッ!大勢でかかってきても、負ける私ではないわっ!!」
シリンダーは自分に迫ってきているゴブリンの群れに一閃をお見舞いする。
その一閃で数体のゴブリンを一気に倒す事が出来た。
「だ、だんちょ~・・・」
シリンダーの後ろから頼りない男性の声が聞こえる。シリンダーは横目で声のした方を見ると、ランプはフラフラとよろけながら腰を抜かしたようにその場に倒れ込んだ。
(戦ってもいないのに情けない!何故、彼のような者が副団長をやっているのだ?)
そう考えながらシリンダーは、最後のゴブリンにとても深い一閃をお見舞いした。
「終わったぞ、ランプ!さぁ、帰るぞ!」
顔や鎧にゴブリンの返り血を浴びたシリンダーは、それを拭うこともなくランプの方を見て吐き捨てるように冷たく言うと、一人でさっさと帰っていった。
「まっ、待ってくださいだんちょ~・・・。皆のもの、撤退!てったーーーい!!」
ランプは部下に命令を下すと、スタスタと早足で帰っていくシリンダーに追い付こうと少し駆け足で帰る。
上司が駆け足で帰るものだから、部下たちも渋々駆け足で帰っていった。
ー(幕間)ー
「やぁ!すごいねぇ・・・。たった一人でゴブリンの群を倒したんだってぇ?惚れ惚れするねぇ・・・。今夜、一緒に食事でもどうだい?」
「ふん!なんだ、ピペット。またナンパのつもりか?ゴブリンの群といってもたった十数匹だったぞ?あんなのが三十匹出ても我々団長、副団長クラスは一人で倒せるくらいの実力があるだろ?」
「おやぁ、フラれちまったか。はっはっはっ・・・。確かにそうだな!」
ピペットっという20代後半の男性は、右手で男性にしては長めの黄土色の髪を掻いたあと、片目を瞑り次は少しだけ伸びた顎髭を人差し指と親指で擦るように触った。
「すごいなぁ・・・。ボ、ボクなんかそんなゴブリンの大群を倒せないですよぉ・・・」
シリンダーの後ろから頼りない男性の声がする。シリンダーとピペットはその声のした方向を見てみると、ランプが二人を羨ましそうに見ていた。
その言葉を聞いて、シリンダーとピペットは呆れ顔である。
「ああ。そうだね・・・。ええっと・・・ランプ・・くん?・・・はとても運がいい人だったね・・・」
そう。彼、ランプはとても運が良く、その運のお陰で副団長の位まで上がったのだ。
この王国では『レベル制』という制度がある。
レベル1~30が一般市民であり、騎士団になりたい人は努力をして31~60に上げる。
レベル61~70になると騎士団の隊長クラスになり、71~85が副団長。86~100が団長となっている。
ランプは戦闘が苦手なのだが、運良く戦っている敵が老化して倒れてきた木の下敷きになってしまったり、落雷で敵の軍が全滅したり等々。強運のお陰でランプのレベルは82と副団長クラスを指していたのであった。
ちなみにピペットはレベル97で五番隊団長であり、シリンダーのレベルは100を指していた。