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一から始める日本創生  作者: 塚山 泰乃(旧名:なまけもの)
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七五三

七五三。

端午の節句というもので、女の子は三才と七才を、男の子は五才を迎えられたことに祝う儀式である。

二千年代になってからの日本では単なる行事だが、第二次世界大戦前では文字通りの試練となる。

病気にかかりやすく死にやすいという話だ。

江戸時代までは十五才の元服までに病気、災害、事故、戦などで半数が命を落とすとか聞いたことがある。

ちなみに、俺はこの間三才になったばかりだから、当分先の話になる。といっても、七五三の行事は江戸時代かららしいので、祝う人は誰もいません。


どうしてこんな話をしているかといえば。

現在の家族がどこそこの誰それが病気で亡くなったという話が、事あるごとに食事中に飛び出すのである。しかも成人前の子供の死亡率がやたらと高い。

前世でも似たような話が無かったといえば嘘になるが、医療の発達した二千年代では老人の割合の方が多かった。老人との茶飲み話では、どこの人がどんな病気でなくなったのとか死人の話題ばかりだったり。

そのおかげで、五十代くらいからガンによる死亡率が跳ね上がったり、当たり前だが、がん検診を欠かさず受けてたりする方が生存率が高かったり、ある日突然体に痛みが一時間も走ったら病院で検査してもらえとか、肝心な知識を授かった。

これは大切なことで、仕事の都合で医者にかかれないという理由で行かずに命取りになった例もあるので馬鹿にできない。

そういえば、他の地域ではどうか分からないが、大人たち、特に多くの男性はタバコが好きなようで、ときたまキセルで吸っている光景を見る。タバコにしてはやけに気持ち良さそうな、落ち着いた表情になるのが気になる。まさか良からぬ成分が入った葉っぱが混じっていたりして。

俺は前世で、他人に強制するつもりはないが、体に悪いと考えていたので吸わなかった。今世でも吸わない。病気耐性があるのだから大丈夫だろうとは思うんだけど、念のため。


話がそれた。

この時代の子供達の死因の大半は何と風邪。怪我が元でというのもあるが、病気に対しての薬が無いのだ。あるのは祈祷で運を天に任せるという無茶苦茶なものだった。

いや、精をつけるために栄養のある蛇や鯉を食べるのは薬の範疇に入るかもしれない。

家族の話では集落の東の沼の向こう、そう遠くない場所に海があって、貝がとれると聞いたが、それが薬になるのかどうかは俺には分からない。

とりあえず、食事は欠かしてはいけないと思い、目の前の雑穀に取りかかる。


「その点、私の坊やなら安心だよ。病気らしい病気したことない」

「まあ、坊はひとりで丘に登るくらい元気だからね」


近所の子の死で、俺の事を心配する家族に母が自信をもって否定し、祖母が同意した。

罪悪感を覚える。

神様から病気耐性の力を受け取っているので、俺はずるをしているのだ。言葉を早く覚えることだって、前世があるからこそ役立っている。

そんな悩みを他所に、家族は別の話題に移っていた。


「ハナさんの所のサヨちゃんが神隠しにあったんだって?」

「そうそう。昨日、沼でタニシを取っていたらいつの間にかいなくなっていたんだって。家にも帰ってないらしいよ。いなくなった所を中心に村の男衆が探すことになってるの」


祖母の問いに母が答える。

集落の東にある沼は広大だ。東西と南北それぞれで何キロあるか分からないくらいだ。いつか外周を回ってみたい。


「今日は俺も捜索に加わる。あの辺りは(よし)が多いからな、見失いやすい」


滅多に口を開かない父が喋った。


「おぼれたの?」

「いや、今の時期、水は膝下までしかないから溺れるなんてことはないはずだ」


俺の質問を父は否定した。


「今?」

「今は春で雪解け水は来てるが、夏前だから嵐がまだ来ないんだ。嵐が来ると腰まで浸かる」

「そうなんだ」

「見つかるといいね」

「ああ」


食後、父は槍を手にして、叔父と一緒に男衆たちと沼へ向かった。

二人は日が落ちて少しした頃、肩を落として帰ってきた。


「どうだった?」

「見つかった。ただ、死んでいた」


何を言うべきか分からない。


「どこで見つかったの?」

「いなくなった沼からそう遠くない場所で水の中に沈んでいた」


母の言葉に父が説明した。


「残念だったね」

「いや、まだだ」


首を傾げる俺ら家族に父は断言した。


「殺された可能性がある」

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