裁き
お待たせしました。
「はあ、死刑ですか」
「なるべくしてなった、という事ですね」
一仕事終えた新兵たちが村の片隅で思い思いの姿勢で休んで駄弁っていた。
彼らにしてみれば、事件は解決し、一件落着したように思えるのだろう。
でも、まだ終わりじゃないんだ、これが。
「カゼ小隊長、ところで、俺たちに何の用ですか?」
「うん、その処刑を君たちの手でやってもらいたいんだ」
「……え?」
「はい? え、何で?」
俺が用向きを伝えると、彼らは一様にきょとんとした顔で聞き返す。
「新入りの君たちは大きな生き物を殺したことはある?」
「はあ、まあ、飼っている豚を食べるために殺したことはありますが」
実はこの時代、すでに養豚が盛んで、足りない肉類は豚で補っていることが分かっている。
当然、その豚を絞めるのも若者たちの役目だ。
「じゃあ、人も殺せるよね」
「何故そうなるんです!?」
俺の確認に新兵の一人が悲鳴を上げる。
「今のうちに経験させておいた方が良いと思ってね」
「いえ、それは、俺たち兵になったんですし、いつかはそうしなくてはいけないと思っていますが……」
「何も今じゃなくても」
新兵たちが青い顔で嫌がるが、今後もこういった場面に出くわす可能性が高いだろう。
だから強制させる。
「僕の今の立場は何?」
「小隊長?」
「君たちの立場は?」
「……兵です。一番下の」
もごもごと答える新兵たちに笑顔で伝える。
「じゃあやってね」
彼らは誰も答えない。なので、笑顔に圧を込めて再度命令する。
「やれ」
「……はい」
「うう、酷い」
「横暴だ……」
処刑当日、兵たちに引っ立てられて縄で後ろ手に両手を縛られた山賊たちが人前に姿を現した。
突貫で作られた処刑台前まで大人しく連れて行かれる。
「では、ただ今より処刑を執り行う。……だが、その前に今一度、今回の件を説明したいと思う」
村長が処刑台に立ち、近隣の村から押し掛けた人々の前で演説する。
「発端ははるか昔、一人の子供が他の子どもたちから虐めを受けた。その者は彼を助けようとしなかった村人たちを恨み、今現在、村で暴れる悪ガキどもに入れ知恵をした。彼らはその情報を元に商人を襲い、女たちを攫い、殺めた。そして今日、その者たちは異国からやって来た兵隊に捕らえられ、こうして目の前にいる」
長々と話した村長は息を吐くと、宣言する。
「話は以上じゃ。処刑方法は今儂がいるこの台で首を斬る事にした。処刑役は異国の兵隊にやってもらう」
その方が良い。
彼らの手で処刑すると、身内を殺したのどうだので要らぬ恨みを買いやすい。その点、よそ者の俺たちなら大丈夫だ。
村長が台から降りると、代わりにブヤと二人の新兵に引っ張られた山賊の一人が台に上げられる。
「跪け! 頭を下げろ!」
衆人環視の中、ブヤの声が響く。山賊が両膝をつき、頭を下げる。
これで斬首の形は整った。
一人の新兵が跪いた山賊の後ろで縄を持ち、もう一人が震える手で銅剣を抜くと頭上へ振りかぶる。
新兵たちには斬首のやり方を教えている。後はそれを実行できるか、だが。
一応、失敗した時のことも考えて、側にいるブヤが苦しむ犯罪者に止めを刺す役を買って出ている。
新兵は歯を食いしばって涙目で剣を振り下ろした。
失敗。刃は山賊の頸椎に遮られた。
やっぱ素人に骨と骨の隙間を斬らせるのは無茶だったか?
人間の首の筋肉と同程度の強靭さを持つ狼の首で、何度か練習させれば良かったかな?
痛みにのたうつ山賊を見て顔を真っ青にして震える新兵に代わり、ブヤが山賊の背中に剣を突き刺した。
山賊はびくんと体を震わせると、ぐったりとして動かなくなった。
「連れて行け」
「は、はい」
「次!」
ブヤの命令に二人の新兵が事切れた山賊を抱えて台から降りる。代わりに次の山賊が別の二人の新兵に連行されて登って来る。
後はその繰り返しだ。
斬首に失敗した者たちの方が多かったが、上手く斬り落とす寸前までいった新兵もいた。その際は血煙がぶわっと上がり、斬った本人がたまげて腰を抜かす場面もあった。
処刑後、血塗れの剣をがたがたと震わせている新兵たちを俺たち古参兵が宥めながら、良くやったと肩を叩いていく。
こうでもしないと、いざ戦となった場合、敵に止めを刺すのに躊躇いが生まれ、その隙を突かれて逆に殺されるからだ。
死にたくないと暴れる山賊もおり、中でも内通者だった男が呪詛を吐いていたので、銅剣で顎を砕いて強制的に黙らせ執行した。多少予定が遅れたがほぼ順調に進み、とうとう最後、サワジの番になった。
彼の処刑は俺にやらせてくれと皆に頼み込み、モズ中隊長から許可をもらった。
処刑台に上がる前、サワジが俺に尋ねてくる。
「俺は何を間違えたんだろうな」
「王様になりたかったんだろう? 手順を間違えたんだよ」
「手順?」
首を傾げるサワジに俺が説明してやる。
「何でのし上がるのに村人たちを恐怖に陥れてるんだよ。そこは人々のために働いて感謝されつつ、味方を増やしていって、最終的に王様に相応しいのはこの俺だと名乗りを上げれば良かったんだ」
少し考え込んだサワジは俺に訊いてくる。
「……なあ、今回は失敗したけど、来世はもっと上手くやれるかね?」
「それは、神様次第としか言いようがないかな」
俺は実際に神に会ったことはあるけど、複数いるのでは考え方も違うだろうから、転生させてくれるかどうかは胸先三寸と言ったところだろうか。
「神、神か。本当に神様っているのかね。こんな世の中にしておいてさ」
「ううん、神様だって、こんなに人の数が多くちゃ、面倒を見切れないんじゃないかな」
「そうか、次は人の数を減らせば良いのか」
こいつはスターリンにでもなるつもりか。
「いや、だから何でそうなる。曲解するな!」
「曲解とは何だ」
「解釈を捻じ曲げるって意味だよ」
「解釈とは何だ」
そうか、そこからか。
「解釈の違いっていうのはな、……例えば君の親が畑の作物を採ってきなさいと言う。それを聞いた君が自分たちの畑から採って来るのが正しくて、よその畑から盗って来ればいいやと考えるのが解釈を捻じ曲げるという事だ」
「なるほど、その手があったか」
「いや、違うから。何でそういう考えになる?」
教育か、教育の問題なのか。
「サワジ、君に足りないのは知識と礼節、思いやりだ。もし来世というものがあるのなら、先ずは頭の良い人に教えを乞うて勉強して、どうしたら偉くなれるのか探しなよ」
「そうか、ためになった。感謝する」
本当に大丈夫なのか。たとえ記憶を持ち越したとしても悪い結果になるとしか思えない。
「カゼ」
ブヤに呼ばれる。これ以上の会話は無理だな。
「それでは、さらばだ」
サワジの処刑はずばっと一振りで終わった。
その夜は処刑役を担当した新兵たちに村から提供された酒を優先的に振舞った。
この時代のストレス発散は寝るか、異性と遊ぶか、酒を飲んで気を紛らわせるかの娯楽しかない。いや、いつの時代でもそうかもしれない。
新兵たちには一刻も早く今の状況に慣れてもらわなくてはならない。
俺は皆から離れて、月を肴に一人酒を飲んでいる。
例によって口嚙み酒だ。苦手なんだけど、今日という日は飲まないとやっていられない。
ちびちびと飲んでいると、誰か一人近づいてくる気配がしたので振り返る。
この村の村長だ。
「なあ、若いの。儂の孫は最後に何と言っておった」
俺がサワジと話しているのを見ていたのか。
「今度こそ偉い奴になって、王様になってやると言ってました」
「やれやれ、あ奴は最後の最後まで変わらんかったの」
肩を落とす村長に訊いてみる。
「小さな頃からああだったのですか?」
「うむ」
「今度は正しく、人を困らせないように生きることを約束させましたから、安心してください」
「それならば良いがのう」
「今は飲みましょう。死んでいった者たちへの弔い酒です」
「……そうじゃな」
村長が俺の隣に座り、持って来ていた椀に小さな壺に入った酒を注ぐ。
俺たち二人は無言で酒を酌み交わした。
夜空に浮かぶ月はただ黙って俺たちを見下ろしていた。
これで今回のエピソードは終了となります。いえ、おまけの一、二話を投稿する予定ですが今のところ未定です。
明日からリアルで残業続きで執筆時間が削られるため、というのが理由です。
その間もちまちま書き、おまけが完成したら投稿します。




