せせらぎの中で
予定通り投稿します。
奇襲は選択肢になかった。強襲もだ。
洞穴の広さからして、山賊は大した規模ではないだろうと判断した上で、数の暴力で押し切るという簡単な仕事だったはずだ。
それが一転。罠にはまって身動きがとれなくなった所で、山賊に反撃されるのは想定外だった。
一応、洞穴に向けて矢を射かけられる事を想定していたのか、山賊は竹で出来た束を抱えて出て来た。
「ふん。俺たちだけのために随分な大人数だな」
山賊の頭らしき少年が鼻を鳴らして毒づいた。というか、姿を見せた者たちが皆若い。恐らく成人すらしていないのではないだろうか。
「ガキじゃないか……」
「だからどうした」
兵の一人が言った言葉に返す頭らしき男。
先ほどまで見張りに立っていた生真面目な少年が、頭の登場により立ち直り、槍を構えてこちらを睨んでいる。立ち振る舞いからしてそこそこできるようだが、それだけだ。
「いつまで寝てる、起きろ!」
一方、見張りのくせに寝てしまった少年は頭に胴を強かに蹴られ、呻き声を上げながら起き上がる。
「お前たちは包囲されているぞ、降参しろ!」
コウの呼びかけに頭は眉をひそめた。
「罠にかかっておいて、まだ自身の立場が分かっていないように見える。あれを見てもまだ同じ事が言えるか?」
頭が手を頭上に挙げると、崖の上の木々の中から複数の人間が姿を現した。頭と同様に皆少年ばかりで構成され、弓を構えて俺たちを狙い始めている。
「貴様らがここに来ることは想定済みよ」
一応、こちらも弓を構えたり、遠投げの準備に入っている兵がそこかしこにいる。
数では相変わらずこちらが圧倒的優勢だが、まともにやり合えば少なからず死人が出るのは必至。
迂闊に動けない俺たちに彼らは優位に立った。
とでも、奴らは思ったか?
「ただでは逃がさん」
頭の演説は続く。
声色からして、もう勝った気でいるんじゃなかろうか。
起き上がりながら遠投げ用の布を懐から取り出した俺は、丸石を退け、その下にある砂利を握れるだけ掴み、布の中へ放り込む。
試したことは一度もないが、やってみる価値はある。
周囲の兵と同様、俺は布を振り回し始める。
「うん? 貴様ら、何をしている? 見慣れぬ物だが、武器かそれは?」
遠投げの情報自体、こちらまでは伝わっていないらしい。これは好機。
「……貴様ら、今すぐその動きを止めろ!」
ただ、頭も俺たちがそこらにある石ころを使っていることから、何かやばいと感づいたのだろう、俺たち全体に聞こえるように大声を上げた。
だが、もう遅い。回転速度は十分、狙いも良し。
「りゃ!」
「……やれ!」
俺は布の一端を放し、掛け声を上げながら小石をぶちまける。
即席の散弾だ、喰らえ!
俺が小石を投げつけてから半秒ほど遅れて頭が合図すると、崖の上から矢が放たれようとする。
だが、それよりも早く、能力で誘導された小石は、崖の上に陣取っている山賊の顔に悉く命中した。
「ぶっ!?」
「うわ、何だ!?」
「目、目が!?」
山賊が咄嗟に顔を覆ったため、手から外れた矢があらぬ方向へ飛んでいく。
「おい、お前たち、どうした!?」
「今だ、投石!」
「おう!」
狼狽えた頭に好機と判断したブヤが遠投げ寸前の兵に命令し、兵たちが一斉に投石する。
外れていく石もあったが、訓練のおかげか大部分が山賊の手や足、中には胴体に当たるやつもあった。
「ひいい」
「痛え、痛えよお」
あっと言う間に崖の上の山賊が無力化されたのを見た頭が呆然とする。
「ば、馬鹿な」
「足元の糸に注意しながら前進!」
俺たちは慎重に、ゆっくりと歩みを進める。
「来るな、来るなぁ!」
「抵抗しても無駄だ!」
「降参しろ!」
二人の見張りと竹束を抱えた山賊共々、頭が逃げ腰になる。
時折投げつけられる石を竹束で防いでいるが、それだけで抵抗する者は無い。
その内の一人が竹束を捨てて両手を上げた。
「降参する、攻撃しないでくれ!」
「おい、タキ、何を勝手なことをしている!?」
「頭、もう諦めましょう!」
「ふ、ふざけるな!」
山賊同士で内輪揉めが始まり、その間にとうとう接敵した俺たちは山賊を殴って蹴って、地面に転がして両手を後ろで縛る。
崖の上にいた山賊も投石の痛みで逃げ出すことも叶わず、坂道を登って行った兵たちに捕らえられた。
頭は最後まで銅剣を振り回して抵抗していたが、多勢に無勢、背後から背中に蹴りを入れられ、もんどりうって倒れたところを取り押さえられた。
「畜生!」
洞穴の中へと再びムゼキ他一班十人が入って行く。しばらくして、山賊に攫われたらしい女性二人が連れ出されてきた。暴行されていたようで、体のあちこちに青あざが見える。
「中にいたのはこの二人だけです」
「攫われたのか? 他にはいなかったか?」
「いませんでした」
ムゼキの報告を聞き、二人の女にざっと事情を聞くモズとブヤ。
薬草の採集に二人でいたところを囲まれ、武器で脅されて連れ去られたって言っている。
「この辺りの目に見える罠は解除したぞ。ただし、まだ見つかっていない罠もあるかもしれないから、ここから離れない方が良いと思う」
セリの報告にモズが労う。
「お疲れ。それで、損害は?」
兵たちからの報告をまとめた各分隊長が集まり、集計した内容をブヤが告げる。
「矢に毒は塗られていませんでしたが、古参兵が一人と新兵が三人死にました。怪我はしましたがいずれも新兵で、七人いますが命に別状はありません」
「死にすぎだ……。僕のせいだ」
モズが目に見えて気落ちする。
「良い方に考えましょう。仕掛け矢はどれも粗末なもので、当たり所さえ悪くなければ死なずに済む程度の威力です」
「この被害で軽い方なのか……」
「頭に当たっちゃ、どうしようもないですよ」
ブヤの励ましにため息をつくモズを慰めると、俺は右腕を負傷し、女性兵に手当てされている兵へと振り返った。
「ごめん、僕が避けたばっかりに……」
「気にせんでください。幸いにも軽い怪我で済みました」
兵は笑顔で返すも、どちらかといえばにやけているように見える。
隣に女性がいるからなんだな? 羨ましくないぞ。
明日は午後八時半頃投稿予定です。
それでは。




