山狩り
よ、ようやく帰宅できた。
というわけで投稿します。
「さあ、山狩りを始めよう」
「俺たちの出番ってわけだ」
モズが俺たちに呼びかけ、セリが意気込む。
「幸いにも山は大して大きくはない。そう遠からず発見することになるだろう」
「ところで、生かして捕らえるとは言いましたけれども、具体的にはどうやるんです?」
「そこは懐柔するなり脅すなり好きなようにしてくれ。多少怪我させても構わないが、殺すなよ」
「了解しました」
ブヤの所見に具体的な方策を訊き出す偵察隊副隊長のムゼキ。自慢の弓の腕で山賊を抑え込むつもりなのだろう。
間違っても急所を狙ったりするんじゃないぞ?
俺たちは問題の山の麓まで行くとブヤの指示で分隊単位に分け、それをさらに十人で一班に分けられた。
木の実の採集は行われていたためか、山の木々は現代とはいかなくとも比較的整っていた。下草は結構生い茂っているが、枝が邪魔をしているわけでもない。
これなら捜索がしやすい。
十人一組の班で、それぞれ別の箇所から山の中に分け入ることになった。
「山賊はいますかね」
「俺たちを見てとっくに逃げ出していたりしてな」
「それはあり得るが、どうなんだろう?」
イシカとナテ、トマリ各分隊長が雑談し、そこにセリや俺が加わる。
「ぱっと見た限り、見張りのようなものはいなかったな。特に見られていると言う視線も感じなかったし」
「いや、それはおかしいでしょ。見張りが通りかかる人を見つけては襲うわけだし、いないわけがない」
「ま、探せば理由がはっきりするだろう。無駄話は止めにして仕事をするぞ。各自、持ち場につけ!」
雑談をブヤが締めて各所に散らばり、捜索が始まった。
俺のいる班は一人一人が四mくらい間隔を開けて山林のなだらかな傾斜をゆっくりと登る。
「山賊の姿が見えませんね」
「そうだね」
日が傾いてもうすぐ夕日となる頃、偵察隊に所属している兵が駆けてきた。
「伝令、ムゼキのいる班が山賊の塒らしき物を見つけた模様。至急集まって欲しいとモズ中隊長の知らせです」
偵察兵が大声で言わず、やや小さめの声で話しかけてきたのは誰が聞いているか分からないからだろう。俺も幾分声を抑えて返答する。
「分かった。付近で捜索中の兵を集めて。それから君は現場に案内してくれ」
「はっ」
俺は隣にいた兵に仲間を呼ぶよう指示すると、偵察兵に頼んだ。
程なくして集まった班が小隊規模になり、偵察兵を先頭に俺たちは駆ける。
「現場まで間もなくです。足音を聞かれるとまずいので、ここからは歩いて下さい」
偵察兵の注意に俺たちは徒歩に切り替え、隊列を組み直し、薄暗い木々の中を進む。
その先に見知った者たちが木や岩陰に隠れているのが見えてきた。
「モズ中隊長、今来たよ、……塒ってあれ?」
俺たちに背中を向けているモズたちに小さな声で呼びかけると、モズが上半身を捩じって頷いた。
川の両側が河原となっているその先の崖、俺が指差した所に、洞穴が上から垂れ下がる蔦で大部分が隠れているのが見えた。
「そうだよ。ムゼキたちが見つけてくれた」
洞穴はじっと観察しないと見つけ難かった。
「……随分と巧妙に入口を隠してありますね」
「僕たちは気づかず通り過ぎたけどね。山賊が見つからなくて来た道を引き返して再度捜索し直したら、というわけだ」
「え、中隊長たちの方もいないんですか?」
「ん、カゼたちもかい?」
「ええ、人っ子一人、不審な影さえありませんでした」
モズと話していると、ブヤ他、各分隊長以上が兵を引き連れて続々と到着した。
皆で声を抑えた会話を交わす。
「やっぱり皆も山賊を見なかったんだ」
「ということは、奴らあの中にいるってことか」
「誰が様子を見に行くんだ?」
兵たちが話し合っていると、セリが声を上げる。
「俺が行くよ」
「いや、セリ隊長、ここは俺に行かせてくれ。偶には俺にも良いとこ見せたい」
ムゼキが進み出る。
「そうか? なら任せる」
「おう」
まあ、何でもかんでも隊長にやらせるのもどうかと思うし、部下にも見せ場を作らないといけないな。
俺たちはムゼキが河原にある岩などを利用してなるべく姿を見せないようにして、洞穴にゆっくりと接近していく様子を見守る。
ムゼキが洞穴入り口脇に張り付くと、そうっと上下左右、そして内部を観察する。少ししてから彼は大胆にも中へ足を踏み入れ、暗闇へと紛れ込んで行った。
「おい、大丈夫か」
「勇気あるなあ」
様子を見ていた兵たちがこそこそと会話する。
待つことしばし、暗闇から姿を現したムゼキが叫んだ。
「誰もいないぞ!」
「は?」
「え?」
拍子抜けする言葉に戸惑う兵たち。
「全周警戒!」
ブヤが突然怒鳴る。
俺は洞穴から背を向け、山林の中へ槍を構える。
「え、え?」
「何、何!?」
「罠だ罠!」
「とっとと周りを見ろ!」
「武器を構えろ!」
戸惑う新兵たちを尻目に、経験者たちは武器を構えて戦闘態勢を取りながら、未経験者たちを怒鳴りつける。
周囲に目を配り、敵が隠れていないか探す。
緊張感をはらんだまま時間が経過してゆく。
「……襲って来ないね」
「むう、俺だったら背後から襲うと思っていたんだが、取り越し苦労か……。警戒解除!」
俺がぽつりと呟いたのを聞いたブヤが首をひねりながら兵たちに命令する。
慎重に歩みを進め、俺たちの下に戻ってきたムゼキがモズに報告する。
「ただいま戻りました」
「ご苦労様、内部はどうだった?」
「中は結構広く、誰もいませんでしたが、罠だらけです」
ムゼキは苦々しい表情で語る。
「罠」
「ええ。入り口にも仕掛けがあって、脛の高さに張られていた糸に引っかかると上から岩が落ちてくるようになっています」
「それは、凶悪だね」
モズの顔が引きつる。下手に突入していれば死人が出ていただろう。
「罠の出来具合からして、かなり手慣れているようです。また、内部につい最近まで焚き火をした跡が残されていたことから、そう遠くないところに潜んでいるのかもしれません」
「ありがとう。……とすると、山賊の足取りだけど、どうしようか」
「そのことなんですが、我々がこの山に入ったせいで踏み荒らしてしまい、追跡は不可能かと思われます」
ムゼキの推測を聞き、俺たちは一様にあ、と声が漏れる。
「ああ、しまったな」
「いえ、俺が悪いんです。そこまで考えていませんでした」
モズが片手で顔を覆いながら言うと、ブヤが困った様子で謝る。
「それならしょうがない、もう日が暮れるし、一旦村に戻ろう」
「追いかけるのは困難ですし、それがよろしいかと」
モズの指示にブヤが同意。俺たちも特に反対する者はおらず、引き上げることにした。
こうして山狩りは空振りに終わった。




