戦闘力
お待たせしました。
それはある日の昼食中、分隊長以上の者が集まって今後の予定を話し合っている時に起きた。
ブヤがトウヤに話しかけたのがはじまりである。
「もう一度言ってくれないか?」
「トウヤがどれくらい戦えるのか興味がある。とりあえずカゼよりは弱い事は分かっているから……」
「失礼な。あの時は油断していただけだ。もう一度戦わせてもらえれば俺の方が強いとはっきりするだろう」
「なら先まずはカゼと戦ってもらって、次に俺とやろう」
「いいだろう」
何、本人が側にいるのに同意無しに話を進めてるのか。
特に断る理由も無いから引き受けるけど。
「カゼ、そんな訳でトウヤと戦ってくれないか?」
「何度だって良いですよ。最近、新兵の訓練にかかりきりで、模擬戦をしていないんです。それに、あまり俺の相手をしてもらえない人増えたから、暇で暇で」
俺が愚痴を言うと、周りで食事をとっていた兵たちが答えてくれる。
「だってカゼさん、容赦してくれないじゃないですか」
「訓練時間は短いけれど、結構濃いめの内容だし」
何が不満なのだろうか。生き残りやすくなるためにあえて厳しくしているんだけれども。
「その分、強くなっている実感はあるでしょ?」
「いや、まあ、それを言われると……」
「でも、もう少し手加減というものをしてほしい気もする……」
ぼやく兵たちに聞いてみると要領を得ない返事が返ってきた。
兵たちを無理やり納得させたあと、トウヤに顔を向ける。
「格の違いを教えてやる」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ」
俺を地につける気満々でトウヤが俺に喧嘩を売ってきたので、受けて立つことにした。
俺とトウヤは互いに睨にらみ合う。
「では食事の後、木剣で模擬戦をするとしよう。二人ともそれでいいな?」
「おう」
「良いよ」
ブヤがまとめてトウヤと俺が頷いた。
皆が食事を食べ終えた時、モミが話しかけてきた。
「大丈夫? あいつ、腕の立つ師から手ほどきを受けてきたから結構強いわよ?」
「それは楽しみだ」
正直な感想を口にしたら、彼女はあからさまに肩を落として半眼になった。どうやら彼女が望む答えではないらしい。
「いや、楽しみじゃなくて、……ねえ、カゼってこの中でどのくらい強いの?」
「この中隊の中でならダントツの一位だぞ」
モミの質問にセリが答えた。
「はい? いやいやいや、確かにミマツ騒乱の時に活躍していたとは聞いてはいるけれど、そんなちっちゃい形で大の大人と渡り合えるの?」
「ちっちゃい言うな」
失礼なことを言われたので即座に言い返す。言われた通りなんだけどね。
「ま、普通そう思うよなあ」
「ちなみに俺が二位だが、俺でも歯が立たん」
「嘘だあ」
セリとブヤの発言にモミが半信半疑だ。
「実際に見てもらった方が早いね、これは」
モズがそう締めくくった。
で、そこらに落ちていた木の枝で円を描き、その中で模擬戦をすることになった。
円の外側には俺たちがどんな戦いをするのか興味津々な兵たちが連なる。
「俺を本気にさせたこと、後悔するなよ」
「御託はいいからとっととかかってこい」
まずはトウヤの初太刀をわざと木剣の根元近くで受けてみる。
ゴッという音と共に腕だけでなく身体全体が沈み込むような感覚が来た。
感想はと言えば、子供の俺にない力を持っているので、正直羨ましい。
「耐えた、だと」
「なかなか良い線いってるじゃない」
今度はすれすれで回避する。
本当に遠慮というものがない。様々な技を惜しみなく使ってくる。
とはいえ、生まれ育った村で鍛えられた時、先輩たちから教えられた技とだいたい似通っていたので難なく回避することができた。
「くっ、なぜ当たらん!?」
トウヤが学んだ剣術は殴る蹴る投げる極めるといった武術だ。技を食らっていなくても次にどういう動きをするのかが分かる。姫様直属の護衛というだけあって、ちゃんとした師から学んだらしい。
こいつ、ブヤと張り合うくらいの強さを持っているんじゃないのか?
トウヤから繰り出される技を一通り見たので、こちらから反撃に出る。
「今度はこっちの番だよ!」
「うおっ!?」
俺の軽い一撃をすんでのところで躱したトウヤが動揺する。
へえ、今のを初撃で避けるか。
トウヤが落ち着くのを待ってから再び攻撃を始める。上下左右斜めと単調だが、徐々に速度を早めていく。
「くっ!?」
当初は俺の攻撃を避けたり受け流したり、していたが、最終的にはそれもできなくなり、防御に専念することになった。
さすがにこのまま押し切るのも可哀想だと思い、わざと攻めの手を緩めて隙を見せる。
「このっ!」
俺はトウヤの上段からの斬り下ろしに後方へ下がることで回避したところ、振り下ろした木剣を俺の胸めがけて突きに転じた。
トウヤの顔に勝利の笑みが浮かぶ。
甘い。
俺は武器を上段に振り上げながら彼の右側に体を捌くと、トウヤの木剣の柄に近い方に振り下ろした。叩きつけられたそれは彼の手を離れ、武器を失う。
「ぅ?」
手に走るしびれと武器の喪失に思考停止した彼は、続けざまに俺が斬り上げた木剣で顎下から首の裏まで切断する軌道を描く。まあ、実際は斬らずに掠めるよう振り抜くんだけどね。
「それまで! 勝者、カゼ!」
ブヤの宣言で兵たちが湧く。トウヤが尻餅をつき、震える手でしきりに己の首を触っている。
「……生きてる? 死んでいない?」
「殺気をのせて斬ったふりをしたんだ。死んだって思ったろ?」
トウヤは呆然と俺を見上げ、次に悔しげな表情で反論する。
「いいや、今のは認めない」
「どのへんが?」
「最後の剣に剣を叩きつけた行為だ! 本物の剣なら折れて使い物にならなくなっている! それでは俺の首を斬れない!」
「模擬戦だからああやっただけで、実戦なら相手の手を斬るのが本来の使い方だよ」
「くうう」
トウヤは歯軋りしていたが、ため息を吐きながら肩を落とした。
「……俺の負けだ」
「いや、威張るだけのことはあるよ。この部隊の中でも二番目に強いブヤとなかなか良い勝負になるんじゃないかな」
「だが、お前に負けた」
「というかさ、何で僕にこだわるのさ、モミのことについてなの?」
「当然だ。お前とモミが許嫁になるのが気に食わない。武力については申し分ないと理解させられたが……」
「が?」
「……そうだ、知力だ、知力が伴っていないと駄目だ」
今、思いついたろ。というか、知力とは何ぞや。
「読み書き計算ができないと駄目だ。ふはは、田舎育ちの貴様には難しかろう」
「ちなみに、トウヤはできるの?」
「ふふん、できるぞ。まあ、文官ほどではないがな」
モズ、三人目確保したよ。
「残念だけど、僕もできるんだよね」
「……何だと」
「信じられない?」
「……試してやる。三掛ける八は?」
「二十四」
「九掛ける七!」
「六十三」
「八十割る六!」
「十三と余り二」
「馬鹿な。馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁぁあああああ!」
「勝った……虚しい」
「何の勝負をしているんですか……」
俺の隊の第二分隊長を任されているカヤオからの突っ込みが入ったが、誰に聞かれることもなく空に溶けて消えていった。
ちなみに、ブヤとの模擬戦ではブヤが僅差で勝利。めでたくトウヤは戦闘力では中隊第三位の地位を獲得した。




