試食
女性たちがあちこちで調理した鍋を俺たち部隊と志願者たちがつついて回る。
「どうだ?」
「美味いです。この娘は合格ですね」
「塩加減が良いですね」
ブヤが器の中の汁を啜って頷いた後、同じ鍋を味見していたタナソたちに訊くと、色よい返事が返ってくる。
「こっちも美味いですよ」
「これは……、不味くはありませんが、美味くもありませんね」
「不味くないだけでも十分では?」
別の鍋をつついていた兵が喜ぶ。
これまた他の鍋の汁を味見していたコウが辛めの批評をし、隣にいた兵が料理とはこんなものだと言う。
「戦に明け暮れると、唯一の楽しみが食い物くらいになるんだよな。妥協しちゃ駄目だぜ?」
「そうそう」
そんな妥協した兵にセリと彼の側にいた兵が駄目出しをした。
モズが食事中の俺たちに注意して回る。
「今回の試験は予め食材が用意されたけど、旅先では満足な食事ができないのがほとんどだから、例え不味くても残さず食べるように」
わいわいと皆が美味いだの、微妙だの騒ぐ中、セリが俺に小声で話しかけてきた。
「カゼ、そういえば、あの娘の料理はどうなった?」
彼が言っているのは、多分モミの事だろう。
「一言で言うなら、豪快」
「……何だそりゃ?」
「狩って来た鳥の羽を毟った後、丸焼きにした物を出された」
「野性味に溢れてんな」
セリがけらけらと笑う。
「まあ、塩が程好く塗されていて美味かったから良し」
「そんなら旅先でも期待できそうだ」
俺の評価にセリは好意的だ。
食事が終わった後、皆でこの娘の応急手当の腕が良い、あの娘の料理は合格などと話し合い、合格者を決めた。
最終的に、志願者たちの中から男性百十八名、女性十三名の計百三十一人が合格した。
これで今現在の俺たちの部隊を合わせると、総勢二百人になる。
女性たちは一か所にまとめず、均等に小隊に振り分けられることになった。
一応、彼女たちにはモミの事を『都育ちで王の近くで働いていた女官が、俺たちのお目付け役として同行する』という風に紹介しておいた。姿は誤魔化せても、教育を受けて染みついた礼儀作法や気品は隠し通せないと判断したからだ。
序に、彼女たちには世間知らずなモミに、村社会での一般常識を教えるよう頼んでおいた。
モミは新しく知識を学ぶのを嫌がるかと思えば、学んだうえに、彼女たちと仲良くできることを喜んでいた。
馴染めず、独りぼっちになることを危惧していたが、これなら大丈夫そうだ。
一通りの仕事を終えた俺たちは、小隊長以上の者たちだけで焚き火を囲み、話し合う。
「ところで、西の国へはいつ出発するんですか?」
「合格者たちの武器や鎧が出来上がるまでの間だな。それまでの間は訓練に費やすぞ」
「分かりました」
タナソはブヤに尋ね、これからの方針を示されたので頷いた。
「せめて、雑魚を一対一で何とかできる程度にはなってもらわないと困るからね」
「槍を持たせて、賊一人に対して、二人でかかればいけると思いますが」
「常にこちらの数が勝っている場合のみ、通用する戦術ですよ。一度にわっと襲い掛かられたら崩壊するかもしれません」
「付け焼刃は駄目ですか」
モズの見解にコウが手っ取り早く戦力化を求めるが、俺は否定する。
「ひたすら訓練あるのみだな」
ブヤが一人頷き、焚き火に枯れ枝を放り込む。
「問題は女性たちなんだけど、戦の時は後ろに控えてもらった方が良いのかな?」
「何もしないでいられるのも困るから、最低限の事は覚えてもらおうと思ってます」
「飯炊きと応急手当だけで十分では?」
モズの判断に俺は意見するもコウが反論する。
「もしもの時、彼女たちが危険に晒された場合、身を守る術くらい無いと悲惨な目に遭うよ? カダの港町で見たでしょ?」
「……ああ、そうだった」
俺は首を横に振って説明すると、コウが頭を掻きながら言った。
「で、誰が女たちに訓練を指導するんです?」
「素手と短刀についてはモミが詳しいそうなんで、彼女たちのまとめ役をさせたいと考えてます。僕は遠投げを教えたいですね。後方支援があると無いとでは大違いですし」
タナソの質問に俺はモミを推した。王族出身だけの事はあり、小さい頃から護身術を学ばされていたと彼女自身から聞いている。
「弓は教えないのか?」
「矢を放つとき、弦が胸に当たるんですよ。下手をすれば抉れます」
「そうなのか、痛そうだな」
タナソの疑問に俺が理由を言うと、コウが素直な感想を言った。皆も納得した顔になる。
そういえばと、俺は前世で聞いた話を豆知識として披露することにした。
中国の奥地に住む女性優位の部族の話だったかな。通称アマゾネスとか言う。
「誰かから聞いたのか忘れましたけど、ある部族は女性も弓を使うんですが、弦を引く側の胸が邪魔だからと言う理由で片方を切り落としてしまうとか」
「ええ……」
「まじかよ」
「そこまでするのかい? 女性が? 信じられない……」
「あくまでも海の向こうのとある国の噂だそうですけどね」
コウとセリが目を見開き、モズが疑わしそうに言った。
僕も前世の日本の大学教授からたまたま聞いただけの話なので、これ以上は分からない。
「それはそれとして、後は槍か」
「それはお前とコウに任せたい。俺は兵たちと一緒に男どもの指導に当たる」
タナソが槍の担当を誰にするのか言うと、ブヤが彼とコウを推薦した。
いきなり指名された二人は戸惑う。
「え」
「俺たちですか?」
「そうだ。不満か?」
「い、いえいえ、光栄です」
「でも、どうして?」
「お前たち、独り身なんだろう? これを機会に彼女たちの誰かと仲良くなると良い」
「お、おお……」
「貴方が神か」
コウとタナソが両膝をついて頭を下げながら、ブヤを拝みだした。
「ははは、人だよ、俺は」
ブヤは苦笑いしながらやんわりと訂正した。
二人の様子が可笑しくて、俺たちは誰かからともなく笑いだした。




