選抜方法
試験初日が終わったその日の晩、俺たちは今日の試験を耐え抜いた志願者たちが野営する様子を、離れた場所から野営をしながら見つめ、俺含む小隊長以上の者たちだけで円陣を組んで語り合う。
「思っていたより、根性のある奴が多かったな」
「とりあえず、一日であれだけ歩ければ十分でしょう」
セリが意外そうな顔で評価し、タナソが太鼓判を押した。
ブヤが仏頂面で今後のことを議題に挙げた。
「問題は、明日以降の試験内容をどうすべきか、だが」
「やはり、戦えないと意味ないでしょう。遠投げは覚えやすいから後回しにするとして、体術や槍が最低限使えないと、この先困ることになります」
「僕としては読み書きのできる人が二、三人増えてくれれば助かるけどね」
コウが必要な事を挙げ、モズは文官の手伝いができる人を欲しがった。
「それはそれとして、百三十人選んだら、部隊をどうやって編成します? 二百人の大所帯となりますから、今現在、一人当たり三十人の三つの部隊を倍に増やしますか? そうなった場合、新たに兵の中から使える者を小隊長に抜擢したらどうでしょうか? 残りは偵察隊に入れます」
「部隊が増えすぎると、指揮に混乱が生じないか? それではいざという時、命令が届きにくいだろう」
俺は志願者たちの振り分け方を提案してみると、ブヤに問題点を指摘される。
タナソが別の提案をする。
「モズ隊長やブヤ副隊長もそれぞれ兵を持った方が良いと思いますけど」
「僕たちがかい?」
「隊長は全体を指揮する役目で、俺は代理とか、何かあった時の補佐役だから、決まった兵がいない方が動きやすいと考えているが?」
モズが首を傾げる。ブヤは流動性を重視しているようだ。
「そうですか。……では、小隊の人数を倍の六十人に増やすというのは?」
「というと、一小隊六十人、それが三つに、残りの二十人が偵察隊になりますかね?」
「そうだな、小隊長の数はそのままにした方が良いだろう。ただ、隊員の数が増えすぎるから、小隊を分けた方が良いんじゃないか?」
タナソがもう一つ提案し、コウが内容を整理する。それをブヤが助言して案を補強した。
モズがその案をはっきりとした形にする。
「なら、小隊の下に分隊を二つ作ったらどうだい? 分隊長をそれぞれ小隊長が兵から選ぶということで。指揮を執る僕の負担が減るから良いんじゃないかな」
『賛成』
特に異論が出なかったので俺たちは声を揃えて快諾した。
「決まりだな」
「偵察隊隊長は俺だな」
議題が一つ片付いたことに、ブヤが安堵した。
セリが引き続き隊長を続けることを宣言するが、俺は体調を心配して声をかける。
「偵察隊に副隊長を就けたらどう? 朝から晩まで一人で指揮するの大変じゃない?」
「……そうだなあ、今回の騒動で俺も皆も疲れてたからなあ。……分かった、適当な奴を選ぶわ」
ときどき、セリが日中に舟を漕いでいたのを見てたからな。
睡眠不足が解消すると良いが。
「そういえば、カゼ、あのお姫様とはあの後どうなったんだ?」
「あ、それ俺も訊きたい」
コウが話題を変え、タナソがそのことに追従する。
特に隠す必要も無いのでぶっちゃける事にした。
「ああ、そのことなんですが、王様の命令であの娘も一緒に行くことになりまして」
『はあ?』
全員から疑いの声が上がる。
「そりゃあ無茶じゃねえか? 第一、その娘歩けるのかよ?」
「そうなんだよねえ。ついていけるわけないと思うんだけど」
当然の皆の疑問を代表してセリが言い、俺は頷いて予想を口にした。
その時、俺たちの所に誰かが近づいて来た。
「あたしが何だって?」
「うお!?」
近付いてきた人物はセリの背後に立ってから言ったので、話に夢中になっていた彼は吃驚した。
その人物の声を聞いて俺はまさかと思いつつ、確認のため名前を呼ぶ。
「モミ?」
「誰か来るのは分かったけど、君か」
「お前、その恰好……」
あらゆる事態に備えられるよう、腰を浮かしていたモズが、不審人物の正体を知って力を抜いた。
セリが少女を指差して彼女の服装について尋ねる。
都の中を歩き回っている時と違い、動きやすい村人の服を着ていた。簪も外して髪を首の後ろ辺りで紐で縛っている。
「あいつらの中に紛れ込むために村人を装ってたの。それで、あたしが何?」
彼女の言葉に、皆、数秒ほど沈黙する。
「と、いうことは……」
「今日の試験に参加してたって事か!?」
「お姫様があの距離を歩いたってことかよ? 信じられねえ」
ブヤが恐る恐る口に出すと、その後を引き継いだタナソが彼女に確認をとる。セリはまだ疑っていたが、彼の言葉に彼女が首を傾げる。
「んん? あたし以外にも歩き通した女、結構いるよ?」
「まじか」
「これは男としても負けてられんな」
「いや、勝負しなくていいから」
コウが信じられないと呆然とし、ブヤが見当違いな方へ意気込むのをモズに突っ込まれた。
「でも、何でそんなに歩けるのさ?」
「ふっふーん。お姫様だから籠の鳥だと思ってた? 実は人目を盗んでちょくちょく都の外へ遊びに行っていたのさ!」
皆の疑問を代表して俺が質問すると、彼女は胸を張って自慢した。
俺の予想通りお転婆だ。それもかなりの。
「何と、まあ」
「良く門番の目に付かずに通り抜けられたな。……ああ、それで変装か」
タナソが感心してるのか呆れてるのか区別がつかない声を上げる。ブヤが疑問を口に出し、自己解決していた。
「これであたしがついていけると分かったでしょ?」
「いやいや、まだ試験は終わってないから」
彼女が勢い込んで訊いてくるが、俺はやんわりと否定する。
俺の否定的な言葉を聞いたセリが案を出す。
「ん? お姫様なんだから、試験免除で良くね?」
「そんなことしたら、他の志願者たちに怪しまれるから駄目だよ」
「特別扱いというのもな」
セリの解決策にモズとブヤが駄目出しした。
そんなことをしたら、確実に揉めるだろう。その展開は避けたい。
「まあ、部隊での女の役割は飯炊きって言われてるから、甘い採点をしても良いんじゃないかって思うけど」
「それなら、女性は実際に飯炊きができるかどうかと、ケガをしたときの応急手当ができるかの試験をしてみようか」
タナソの発言に、モズが妥協案を提示した。
この時代の女性にしてみれば、持っていて当たり前の技能だ。
俺は一応、モミに確認を取ってみる。
「モミ、できる?」
「森で狩りや採集をしてたからお手の物よ」
「逞しいなあ」
彼女は自信満々に答えたのを見て、タナソが苦笑した。
「女の試験はそれで良いとして、明日の男の試験は何にします?」
「ある程度戦えるかどうかを見よう。それと読み書きができる者を優遇することも視野に入れる」
コウがブヤに尋ねると、彼はそう答えた。




