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一から始める日本創生  作者: 塚山 泰乃(旧名:なまけもの)
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 最初は意味が分からなかった。

 彼らの言語を修得するのが生後一年程度では前途多難であったから。

 次にまさか、と疑いはするものの気のせいだろうと片付けた。

 常識的にありえないと否定したから。

 ありえない、と判断したくなった。

 二千年代初頭の先進国で育った俺にとって信じがたいことであったから。


「だから、私がお母さん、って言ってるでしょ!」

「うー」


 まだ赤ん坊だからろくに喋れないというのに、無茶を言うなと内心で困惑する。

 自身が俺の母であると主張するのは、どう見ても十代前半の少女なのである。

 あれ、三十くらいの女性が母親じゃなかったの、と思われた諸君、間違いだった。


 祖母だった。


 もう一度言おう。祖母である。


 俺は赤ん坊である故、乳、いわゆるおっぱいを飲むことが唯一の食事で、離乳食はまだだ。

 そのおっぱいを誰からもらうのかといえば、常識的に考えれば母親からなのだが、俺は祖母から貰っていたのだ。理由を、その、母と名乗る少女の名誉のために、あえて言う必要は無いと思うのだが、述べる。

 おっぱいが小さい。悲しいほどに。

 むしろ良くそんな小さな体で俺を産んだな、頑張ったんだな、偉いぞ。

 その少女の旦那にはこう言いたい。

 犯罪者め。

 いや、声を大にして言いたいところだったのだが、赤ん坊故、そんなに難しい言葉は喋れない。そのうえ、少女の旦那というか、俺の父親なんだが、これまた十代前半の少年なのである。いくらなんでも両親ともに若すぎだろう。

 ちなみに、これまで俺のお守り役をやっていた兄は、父親の弟であることが判明した。


 で、母親を間違えた話に戻る。

 俺もただおっぱい飲んだら寝るを繰り返す駄目人間ではない。

 周囲の人間や両親、兄弟の会話を聞いては発声の練習をしての毎日だった。ついでにはいはいもでき、短時間ではあるがつかまり立ちもできるようになった。

 あー、うーとしか言えなかった時期はとうに過ぎ、簡単な発音ができるようになったと思う。

 そこで、まず最初に言うのは「おかあ」、次に「おとう」だろうと意気込んだ。

 問題が起きたのは夕食が終わった後だった。

 家族が揃ってる今が良いだろうと考え、祖母に向かって「おかあ」と言ったのだ。

 家族の動きが止まった。

 皆喜ぶだろうという予想は外れ、首を傾げる者多数。

 言葉と発音は間違っていないはず。予想外の反応に困惑しながらももう一度「おかあ」と呼んでみる。


「え、何で!? 私がお母さんなのに!」


 と驚いたのは、母と名乗る少女だった。

 いや、姉よ、普段から三十くらいの女性に対して「おかあおかあ」と言っているではないか。


「良い? あんたを産んだのは私。私がお母さんなんだからね!」


 疑問だらけの俺を抱き上げた母は、赤ん坊相手に何度も説明する。祖母らしき女性に確認すると、首を縦にふられた。どうやら本当のことらしい。

 俺で良かったな。他の赤ん坊なら理解できないぞ。

 理解の意味を込めて母を「おかあ」と呼んだ。

 呼ばれた母は笑顔になると俺を苦しいくらいに抱き締める。


「じゃあ、今度はあたしをおばあと呼んでくれるかい? お、ば、あ」

「うー、おびゃあ」


 う、正確に発音できない。一文字ずつ発音した方が良いか?


「お、ば、あ」

「お、……ば、あ。お、ば、あ。お、ばあ」

「んー、まあまあってとこかね? えらいえらい」


 祖母はそう言って俺の頭を優しくでる。


「次は俺だ、おとうと呼んでくれ。おとうだぞ、お、と、う」


 次は十代半ばくらいの少年が自身を指差しながら言ってくる。


「お、ど、う?」

「あー、違う。お、と、う」


 わざとじゃないんだ。まだしゃべりにくいだけで。


「お、……と、……う。お、と、う。お、とう」

「うんうん」


 今度は父親に頭を撫でられた。

 さらにその脇から叔父おじかれる。


「おじさんって言えるか? お、じ、さ、ん」

「おぉ、じぃい、しゃ、ん」


 何とか発音できたか?

 しかし、俺の発言を聞いた女性たちが笑いだす。


「ぷっ、おじいさんだって」

「いや、まだそんな年じゃないから! ……お、じ、さ、ん」

 

 駄目か。もう一度。


「お、……じぃ、……さ、……ん」

「おっ」

「お、……じ、……さ、ん。お、じ、さ、ん。お、じ、さん」

「そうそう」


 叔父からも頭を撫でられる。

 その後、わるわる俺、私の呼び方は何かと問われて、正解を発言する度、家族に喜ばれた。

 言って良かったと思うけど、喋り疲れたので休ませて下さい。

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