行方
現場に着いた。
ヨシマ村の北にある村の外周に、大人の腕の太さほどの丸太を簡易な柵として張り巡らし、そこを中心に村人たちが応戦していた。
現場で指揮を執っている人の話によると、最初は向こうが突然攻めてきて混乱し、沼の東側にある村が陥落。ヨシマ村が加勢して一時的に押し返した後、万が一を考えて柵を構築。
その後、遠投げで反乱勢を圧倒していたが、川原で集めた石がなくなってくると、向こうが弓矢と投げ込んだ石で仕返しされ、今度はこちらが盾で防御に回りながら弓矢で応戦。
双方矢が尽きてくると槍での応酬になり、現在に至ると言う。
いくら個人的に強くても疲れは隠せず、ここ最近は押され気味で、沼の北側と南側にも回り込まれたところだったそうだ。
今現在は俺たちの部隊が遠投げに加わって相手の数を適度に減らし、混乱が生じたところで突撃。散々に蹴散らしたところで引き上げた。これで反乱勢が態勢を立て直すまでの間は休めるだろう。
日は落ち、辺りが闇に覆われる頃、俺は見知った顔と再会した。
「カ、カゼ、久じぶり」
「デエダも元気そうで。皆も元気にしてた?」
他の人と比べてひと際大きなデエダに挨拶すると、皆にいつも通りの笑顔で迎えられる。
「おう、元気、元気」
「というか、草臥れたあ」
「こうして座るのも半日ぶりだな」
「カゼ、お前の顔の傷、凄いな」
「母ちゃん、泣いちゃうんじゃねえの?」
「気にしてるんだから、言わないでくれない?」
和気あいあいとしてはいるが、疲れがにじみ出ている。
俺たちがもう少し頑張るとしますか。
「カゼさん、モズ隊長がお呼びですぜ」
「うん、分かった」
「……カゼさん?」
「さんって何だ、さんって」
「あー、えーと、色々あって……」
どう話したらいいものか。
ふと顔を上げると、俺を呼び出しに来た兵が何かを言いたそうな表情で佇んでいる。
この兵に説明を丸投げした方が楽なのではないだろうか。
自分から話すの面倒臭い。
「……悪いけど説明してもらえる?」
「はっ、喜んで」
「あまり大袈裟なことは言わないこと」
「分かってますって」
兵は嬉々として俺のことを語り出したのを横目にモズ隊長の所へ歩き出した。
大丈夫だよな、誤解されないと良いけど。
モズの所に行くと、他の隊長と現場の指揮官も集まっていた。
「モズ隊長、ただ今来ました」
「来たか。カゼ君にも訊きたいんだけど、ここの反乱勢と戦ってみてどう思った?」
「脆すぎますね。明日喰う飯のために戦ってるという気迫は感じられるんですけど、何と言えば良いのか、勢いがないと言うか……」
「ううむ、カゼも同じ感想か。ここにいる皆もそう思っていたところでな」
ブヤが唸り、モズが発言する。
「ここの現場指揮官も同じでね。……最初の頃と比べてどう感じたのか改めて教えて欲しいんだ」
「そうですね。……確かに最初の頃は勢いがありました。石と矢が尽き、槍で戦った時もまだありました。……しかし、ここ三、四日の間は勢いがなくなってきたような気がします」
「奴らに何らかの変化が起きたということなんでしょうか?」
タナソの見解に現場指揮官が首を傾げる。
「どうなんでしょうね?」
「んー、まだるっこしいから、奴らから適当に捕まえて訊き出すっていうのはどうだ?」
セリが出した案に皆が考え込み、コウが言う。
「それが一番手っ取り早いか」
特に反論も代案もないようなので、セリが輪から外れる。
「んじゃ、ちょっと行ってくる」
「気をつけてね」
「あいよ」
俺の言葉にセリは背を向けながら上げた手をひらひらと振った。そして、偵察隊員を集めて人ごみから離れて行った。
夕餉も終わり後は寝るだけとなった頃、セリたちが帰還した。
「面白い話が聞けたぜ」
早速モズを含めた小隊長以上を集めて話し合うことにした。
「で、どんな話だい?」
「あの中に親玉がいない。て言うか、姿をくらましたとか言ってて士気がた落ち」
「……はあ?」
「どういうことだ」
「何で?」
「え、逃げた?」
「訳が分からないよ?」
セリの言葉にモズ、ブヤ、タナソ、コウ、そして俺の順に疑問が出た。
「俺も良く分かんねえけど、三、四日前の夜にふらっとどこかに行ったっきり戻って来ないんだと」
「誰にも何も言わずに、かい?」
指揮官としてあるまじき行動なので吃驚した様子でモズが訊く。
「んー、確か、いなくなる前に変な事言ってたとか訊いたな。『このままじゃ勝てない』とかなんとか」
「何だそりゃ。それが逃げる理由か」
コウが呆れたような口調で言う。
「……このままじゃ、か」
「単純に考えれば、そこからどうやって勝てるかって意味ですよね?」
ブヤが呟いて考え込み、俺は推測を口にした。
「逃げたんじゃなくて、奴らの指揮を放棄してまで勝ちを探しに行った、ってことですか?」
タナソの推測にセリが疑問の声を上げる。
「どこに?」
「ミナトっていう奴の所に反乱勢を借りに行ったとか?」
「その勢力はもう存在してないから、無駄だな」
コウの例えにブヤが否定する。
行き違いになった可能性はあるよね。
俺も考えていた例を言ってみるが、モズに否定される。
「……都の北の反乱勢と手を組みに行った?」
「ここから近いけど、あっちは王の兵隊と戦でそれどころじゃないだろうね」
「なら、都の南の反乱勢」
「少し離れているが、そこまで行くのか? ここからだと片道二日はかかるぞ」
「それに、その前には俺の村、ナナサト村が立ち塞がってる。例えナナサトを突破する勢いがあるなら、その村からこっちに助けてくれって知らせが来ると思うぜ」
セリがブヤの話を補足するように言った。
「まあ、例えそこまで行けたとしても、交渉に時間がかかるだろうから、気にすることはないんじゃないかな」
「交渉、交渉ねえ……」
「どうした、コウ?」
モズの見解にコウが首を傾げ、ブヤが問う。
「いえ、そういえばオシっていう奴、不思議な力があるって聞くじゃないですか。手を動かさずに相手をぶっ飛ばすとかいう」
「ああ、あったね」
「交渉を省略するためにその力を見せつけて従わせるってことは考えられませんか?」
「ええ? いくら何でもそれは……」
コウの推測にモズは戸惑う。
「指揮官がそういうことしてると、誰も付いて来ないと思いますよ」
「そうだな。例え一時の恐怖で支配したとしても長続きはしないだろう」
俺の感想にブヤが同意した。
「予想はもう無い? 明日も早いしそろそろお開きにしようか」
「明日こそ、奴らを叩き潰してやる」
モズの言葉にセリが意気込む。
こうして俺たちは解散した。
「そうですかねえ」
コウは首を傾げ続けていた。




