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一から始める日本創生  作者: 塚山 泰乃(旧名:なまけもの)
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夕餉

 捕らえた者たちの処刑が終わった後、燃え尽きた森の中にいるはずの反乱の首謀者であるミナトの捜索をヤブイワの兵たちに任せ、一旦村へと帰還することになった。

 森に視線をやると、いまだ熱を持ち、人間の侵入をこばんでいた。目をらすとかつて人間であった黒いかたまりがあちこちに転がっていた。

 朝に出発したはずの俺たちが夕方には戻って来たことに人々は困惑していたが、血塗ちまみれの俺を見るなり引く。

 その様子に構わず、モズが声を上げる。


「皆! よく聞いてくれ! この村に向かっていた反乱勢は我々の手によって全滅した!」


 途端とたん、人々がざわめきだす。


「次はヤマカミ村へ向かう反乱勢を叩く! それが終われば、皆故郷へ帰ることができるぞ!」

『おお……!』


 人々の目に希望の光がともる。

 そこで、モズは彼らに対してお願いをする。


「しかし、だ! 我々も草臥くたびれてしまったので一日休ませて欲しい! 連戦はきついんだ!」


 彼らはきょとんとしていたが、理由を知ると笑顔になる。


「分かりました。ささ、こちらへどうぞ」

「さぞや疲れたでしょう。お休み下さい」


 ヤブイワ在住だろう村人が群衆の中から進み出てきて、休める場所に案内してくれた。

 そこは、医療現場だった。

 ケガ人がむしろの上で仰向けで何列にも渡って並んでおり、医術にたずさわっている人が彼らを診て回っていた。


「ささ、空いている所へどうぞ」

「あ、ああ」


 毒気を抜かれた様子のモズは、案内役の言葉に曖昧あいまいな返事をして歩き、俺たちもそれに続く。


「ヤブイワに着いてから兵たちの数が異様に少ないと思ったのは、ここにいたからなのか」


 ケガ人の山を見たブヤが納得したような声で言った。


「……見てると、助かりそうにない奴があちこちにいるな」

「しっ、セリ君、静かに」

「あ、悪い。……悪かった」


 見たままの感想を言ってしまい、モズに注意されるセリ。


「ちょっと見てきます」

「おい、タナソ」


 列から抜け出すタナソをセリが止めようとするが、ブヤに抑えられる。


「行かせてやれ。知り合いがいるかもしれん」

「知り合い……。そうか、そうだな」


 一人一人を見て回るタナソと同郷の出だろう三人を俺たちはながめた。


「そうだ、これをお願いしたいんだけど」


 休憩場所に案内してくれた人を呼び止めて鞘から抜いた剣を見せる。


「これはこれは、随分ずいぶん刃毀はこぼれなさっておいでで」

「明日の朝までにいでおいてほしいんだけど、できる?」

「ああそうだ、俺のも」

「俺も」


 男はいきなり皆に鞘から抜いた剣を見せられて目を白黒させるが、気を取り直して一つ一つ見る。


「んん、村中の研ぎ師に至急やらせましょう。……ただ、これだけの数を明日の朝までに、というのは無理がありますが」

「できる範囲で良いから。お願い」

「……分かりました。終わったらここにお持ちいたします」


 男はそう言うと、俺たちの後をついてきていた人たちに預かった剣を持たせて、共に去って行った。


「ああ、疲れたあ」

「たった一日だけとはいえ、あれだけの数を一度に相手にするとさすがにな」


 用意された筵にどっかと座り込むセリの台詞に反応し、コウが同意する。


「後はヤマカミを攻めている反乱勢と、ヨシマと、都の南の勢力か」

「先は長いな」


 俺が指折り数えているとブヤがしみじみと言う。


「とりあえず、夕餉ゆうげの準備しないと」

「そういえば、そうだったな」


 などと話していると、俺たちに声をかけてくる者がいた。


「皆さん、さぞお疲れでしょう。夕餉をお持ち致しました。どうぞ召し上がって下さい」

「これはどうも、かたじけない」


 見れば、男の後ろには器を持った人たちがずらりと並んでいた。彼らに対して礼を言うモズ。

 中身をのぞくと湯気が立つ汁の中に稗や粟が垣間見える。

 この村に逃げ込んできた周辺の人々が満足に食べていないだろうと考えると、申し訳なく感じる。現に、まだいつつかそこらの幼児がこちらをじいっと見つめている。

 しかし、これを食べなければ明日にかかわる。

 うんうんと思い悩んでいると、モズが幼児に器を差し出した。


「坊や、これをあげるよ」

「ちょ、モズ隊長?」


 モズの突飛な行動に驚く兵。幼児は目線を器とモズに行ったり来たりさせている。


「……いいの?」

「あまり食べたいという気分じゃないんだ。……ほら」


 上目遣うわめづかいになった幼児が視線を器に落とし、そろそろと受け取ると淡々と礼を言う。


「……ありがとう」

「どういたしまして」

「こら! ……すみません」

「いいんです、困ったときはお互い様ですよ」


 幼児をしかる親に笑って済ませるモズ。

 そんなやり取りを眺めた俺は器の中身を食べ始め、半分くらいまで減ったところでモズに突き出した。


「カゼ君、これは?」

「僕、もうお腹いっぱいだから、あげます」

「……ありがとう、頂くよ」


 最初は戸惑っていたモズだったが、微笑ほほえみながら器を受け取った。


「ちょっと服を洗ってくる」

「分かった。行ってこい」


 ブヤに見送られ、その場を離れる。

 血を吸い込んだ服は見る者を怯えさせる。敵に対してなら効果はあるが、ヤブイワ村では逆になる。それに鉄の臭いがして気持ち悪い。

 怯える村人に小川まで案内されると、さっさと服を脱いで水につけてごしごしと洗う。

 ああ、こんなときに石鹸があればなあ。いや、ムクロジという実で代用できたんだっけか。いや、でも、実物見たことないから、どれがそうなのか分からないんだよなあ。

 そんなことを考えながら黙々と洗う。

 ふと、視線を自身の上半身にやる。カダの町で受けた傷はどこにも見当たらなかった。顔に走る傷以外は。

 神様に感謝しなくては。……できれば顔の傷も消して欲しかったなあ。

 血が大分落ちたところで、ついでに体も遠投げで使う麻布でこすって洗う。

 ここのところ洗っていなかったのであかが出る出る。

 さっぱりしたところでれた服をしぼって着る。

 放っておけばかわくだろう。

 そんなことを思いながら皆のいる場所へ歩いた。


「おかえり」

「ただいま。……こうして言うのもなんだけど、皆、におうよ?」


 今気付いたけど、皆臭い。鼻をつまんで大げさに言ってみる。


「ん、そうか?」

「自分では良く分からないんだが、そうなのか?」


 モズを含めた小隊長以下兵たちが顔に腕を寄せてしきりにいでいる。だが、自覚がないらしく、首をかしげている。


「臭うって。あっちに小川があるから皆して洗ってくれば?」

「じゃあ、そうさせてもらおうかな」

「あ、俺も行く」

「俺も俺も」


 わずかな見張りを残してわいわいと行ってしまった。


「ふわ~、眠い……」


 急に辺りが静かになった途端、眠気が押し寄せてきた。

 先に寝かせてもらおうかな。

 そう考えながら筵の上で横になった。

 今夜は多少雲があるけど、お月様が見える。

 明日も同じ月が見られますように。

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