尋問
俺はモズたち隊長格と一緒に、武装解除して捕らえた反乱勢の者たちの尋問に当たる。
「こ、子供だと?」
相手が戸惑っているが無視する。……俺の顔を見てぎょっと驚いた表情になった。多分、傷のことだろうけど無視。
「君たちには訊きたいことが色々ある。この反乱を企てた者の名を教えてくれないか?」
モズが彼らに尋ねる。俺たちに話しかけるのと大差ない気安さだ。個人的には威圧しても良いと思う。
「あ? そんなもん教えるわけねえだろ」
「帰って糞して寝ろ、ひょろなが」
……何だろう。前世の日本で仕事をしていて失敗したとき、上司に罵倒されたことあるけど、こっちの言葉の方が腹が立つ。
「あっそ、そんなこと言うんだ」
「カゼ?」
タナソが疑問の声を上げるが、今は無視。
「な、何だ、俺をどうしようってんだ」
俺は胡坐あぐらをかいて座っている男たちの一人に近寄ると、太股の内側の表面の肉をつまんで捻った。
「痛っ! 痛え!」
「カゼ、何してるんだ?」
「金玉潰したとか?」
痛みを訴える男に、俺の背後でコウとセリが勝手な予想を始める。
いや、そんな恐ろしいことしてないから。
「疑問に思うならこっち来て見てみ?」
「はあ。……え、こんなことで声上げるのか?」
「どれどれ。……痛っ。確かに痛えな、これ」
「カゼ君、変なこと知ってるね」
セリも含めた兵の幾人かが半信半疑で自身の太股に、俺のやっていることを見様見真似で試してみて実感した。
俺が知ってるわけじゃなく、合氣道の先生が教えてくれただけだし。
「力のない女性が大の男に悲鳴を上げさせる方法だって聞いた。誰かから教わったのか忘れたけど」
「へええ」
主に電車内の痴漢対策で。
兵たちが今度は残りの男たちの太股を興味本位でつまんで捻り始めた。
「痛っ、痛え!」
「止めろ、痛い!」
「分かった、話す、話すから、止めてくれ!」
「本当に喋ってくれる?」
「言う、言うから!」
「じゃあ、皆、離れて」
ひとしきり痛いと言わせ、男たちが白状すると約束したため、俺たちは彼らから離れる。
「それで、このミマツの国の、北のこの辺で暴れている反乱勢の首謀者って誰?」
「……ミナトって名らしい。俺らは直接会ったことはないが、ここにいた部隊をまとめて指揮を執っていたはずだ」
当たりを引いた。上手くいけば北の一揆は早々に鎮圧できる。
「そのミナトという人は今ここにいるかい?」
「いない。確か後方の部隊にいたはずだ。……森の火事に巻き込まれたかもしれん」
森を見る。発火した場所は既に燃え尽きたが、周辺の木々に燃え移り、炎上地域が拡大していた。中にいるであろう反乱勢は生きていないだろう。
火事が治まったら捜索しないと駄目だろうか。まだ他の地域の反乱を鎮圧していないからヤブイワ村の人たちに任せる他ないか。
「この辺りで反乱に参加した人数はどれくらいか分かるかい?」
「知らねえ。千とも二千とも言われちゃいるが、そんな数、見たことねえしな」
千か。さすがに束になって来られたら勝ち目はないが、今回は何とかなったので良しとしよう。
その時がきたら? 逃げるしかないのでは。
そういえばと疑問に思っていたことを、俺は今訊くことにした。
「食料が足りないから反乱を起こしたって聞いていたのに、何で女子供を襲って、村人たちの命まで奪うのさ?」
「いや、反乱を起こした時点で、参加者は全員死罪なんだろう? それだったら、好き放題したくなるじゃないか」
それだけの理由に俺は呆れた。
「理性を持って行動しろよ……」
「獣と変わりねえな」
「どうしようもねえな」
周りにいる兵たちも同様の感想のようでうんざりしている。
そこにモズが進み出て訂正する。
「君たちの知識は間違っている。反乱に参加することは重罪だけど、死罪になるのは中心にいた者たちだけだよ」
「……何?」
「全員死罪になったら、その周辺一帯の農業が崩壊して、来年からの農産物の収穫が期待できなくなるし、税も入らなくなるからそんなことはしない」
「……え、それじゃあ」
「食料だけを奪うなら、事情が事情だから罰も軽かったんだけどね。放火や強姦、殺人までやっちゃうと無理なんだ」
「は、はは、なんてこった」
俺は呆然とする男たちに、ふと思いついたことを訊いてみる。
「ちなみに、参加したら全員死罪だって言い出したの誰?」
「……オシっていう奴だ。名も無い小さな村の出身で読み書きができると自慢していた。そいつが言ってたんだ。……本当だ」
そのオシと呼ばれる人物の、法の知識に疎い人々の思考を誘導するずる賢さに、質の悪さを感じた。
「その人物は今どこにいるか知っているかい?」
「ヨシマ方面を攻める指揮官に選ばれたとか聞いている」
「そう、分かった。教えてくれてありがとう」
モズは律義に礼を言った。
その後、細々(こまごま)とした質問をやり取りして尋問を終える。
「それで、この人たちの処遇はどうするんですか?」
「死刑だね。今ここでするか、ヤブイワ村でするかの違いがあるけど」
コウの問いかけにモズはあっさりと言った。
ヤブイワ村には村から逃げ出した住民がたくさんいる。この時代、法はあれども目の届かない場所では無法地帯同然だから、彼らによる私刑が待っている可能性もある。
俺は気まぐれに言った。
「じゃあ、ここでしましょうか」
「……構わないけど、誰がやるんだい?」
「僕がしますよ」
モズの問いに、俺は進み出ながらすらりと剣を抜く。
「……どんな風に殺すんだ?」
「首を切断します」
セリの質問に俺は断言し、その言葉に男たちが顔を強張らせた。
「なるべく痛くしないようにしてあげるから。頭を下げて」
男たちは顔を見合わせて、しばらく躊躇っていたが、観念して頭を下げ、首筋が露わになった。
俺は野盗の横に立って剣を振り上げる。
俺の行動に皆が興味津々である。
もしかして、斬首ってこの時代にまだ無い?
「じゃあ、いくよ?」
「……母ちゃん、ごめん」
男はそんな言葉を残して、首と胴が泣き別れとなった。
首から血が勢いよく噴き出し、頭はごろごろと一mほど転がって止まる。皆の視線がくぎ付けになった。
俺は剣を観察する。首の骨に当たったらしく、刃が欠けた。
銅の剣は脆いな。
そう思いつつ、両刃の剣をひっくり返して構える。
「次、いくよ」
振り下ろす。今度は骨と骨の隙間を上手く通ったようで、首の筋肉の抵抗のみで切断できた。
「次」
振り下ろす。上手く斬れるコツを掴んだかもしれない。
「次」
切れ味が鈍って来た。これでは罪人が痛がるだろう。
「この剣もう斬れないや。誰か、代わりの剣を貸してくれる?」
剣に付いた血を麻布で拭い、鞘に納めると近くにいた兵から借りようと手を伸ばすと、兵は血を浴びた俺を見て一歩後退する。
ちょっと傷つくな、その態度。
一応渡してくれたので、再び剣を振るう。
もし、俺のいた村が餓えることになっていたら、お前たちと同じ側に回っていたのだろうか。
そんな思いが脳裏を掠めた。




