成り立ち
「地球人類超越文明って何ですか?」
「お主たち未開人相手に便宜上そう名乗っただけじゃ。本当はもっと長ったらしい正式名称があるのじゃが、覚えてられんだろうから割愛する」
「面倒くさそうですね」
「グレートブリテンと云々よりもはるかに長いんじゃよ、本当に。それと地球人類では解明されてない理論や技術などにも抵触するから、翻訳、言葉にできないと言ったところかの」
「宇宙を渡り歩くくらいですからね。隔絶した文明の差は言わずもがな、と」
湯呑の中のお茶が無くなったので、急須から注ぐ。さすが先進文明、これだけ長い会話してるのに急須からはお茶が途切れず、常に湯気を立たせている。
「神様、ところで疑問に思ったんですが、我々地球人類が宇宙に進出したとして、どちらが先か分からないけれど、あなた達と接触した場合、戦争になる恐れもありますよね? 早い段階で接触して交流した方が良いと思いますが、どうなんです?」
「文明の差は圧倒的じゃから戦争にはならんぞ。あと、前にも言ったが、わしらはチームに分かれて行動しておる。それぞれ信念を持っていて、それが様々な派閥を作っており、色々な意見が出ておる」
「大雑把に言ってどんな感じですか?」
「一番過激で排他的なのは、将来的に脅威になる前に滅ぼしてしまえという派閥じゃが、極わずかしかおらんから無視して良い。どうせ他の銀河担当チームからの回し者じゃろうし。それと、これも極わずかじゃが、わしらの持つ技術を与えて仲間に引き入れ、勢力を拡大しようと目論む奴ら。わしらの規則では極力見守ることになっておるから、無視じゃ」
「極端ですね」
「本当はの、恐竜が人類の代わりになる予定なんじゃったが、一部の馬鹿が暴走してユカタン半島に隕石落としてくれてのう」
「うぷっ」
危うくお茶を吹き出しそうになった。
「その馬鹿どもはブラックホール落としの刑に処したが、失った時は取り戻せん。そこで当時しぶとく生き残ったお主らの先祖の哺乳類を主役にすることにした」
「巻き込まれた恐竜たちはたまったもんじゃありませんね」
「いや全く。その事件があってから規則と罰則をこれでもかと強化したのじゃ。まあ、雁字搦めにしても冗長性が無くなるので、細かいところでは割と融通が利くようになっとる」
「転生やチートがそれに当たると?」
「うむ。話を戻すが、派閥が多いのが穏健派。先ずは太陽系を出て銀河全体を行き来するようになるくらいの技術を持ってから交流しようという者たち。次に多いのが排他的とまでは言わんが、諦観派。大国同士の大量破壊兵器の殴り合いで破滅するのが目に見えてるから、次の文明育成候補の星を選定しようという奴らかのう」
「気の長い神たちもいれば、諦め気味の神たちもいるんですね」
「基本は見守るというか傍観に近いじゃろうなあ。同じ星に生まれたとはいえ、ここまで憎みあい殺しあうとは想像しとらんかったからの」
「あー何かすいません」
「別にお主を叱っとるわけではない。わしらだって今の状態になるまで銀河系同士で殴り合いしてたからの。まあ、これから送り込む先も殺伐としとるじゃろうし」
「ちなみに、神様はどの派閥に属しているんですか?」
「歴史にちょこっと介入したりと割と積極的じゃが、穏健派に近い。時たまお主のように転生させたり、チート与えたりして事態の改善を図ろうとする派閥じゃな。ただ、必ず改善されるわけでもなく、歴史の波に呑まれて元に戻ってしまったり、逆に悪化してしまう場合もある」
「誰しも成功するわけじゃない。厳しいですねって、歴史に介入?」
「お主に分かりやすいように言うと、織田信長が本能寺の変を生き延びていたらとか」
「あー分かる」
「派閥に関してはこんなところかのう。随分と話し込んだが、そろそろ転生といこうかの」
「ようやくですね。あ、そうだ、ここで話したことを誰かに話した場合、どうなりますか?」
「どうもせんよ。むしろ頭のおかしい奴と思われるだけじゃぞ」
「ですよねー」
「世が世なら病院に一生閉じ込められるのがオチじゃて」
「うわ、怖い」
神様はにやりと笑うとぼそっと呟いた。
「過去に実例おるしの」
「いたのか」
その人は何を思って周囲に話したのだろうか。
脅しに満足したのか神様はお茶を飲んで一息いれる。
「ああ、そうじゃった。転生の件なのじゃが、転生を担当するのはわしだけではない。言ったじゃろ? チームを組んでいると」
「はい。ん? あれ、そうすると、転生先で出会う可能性が高いってことですか? いや、ないんじゃないですか? 古代の日本で、魔法やステータスなんかが無くて、不便な生活を強いられるんですよ?」
「まあ、そんな世界に行きたがる奴なんぞ、そうおらん。物好きな奴はそこそこおるがな」
「うわあ、できれば敵対したくないなあ」
「それは向こう次第じゃな」
「なるようにしかならないか」
ため息をつく俺に神様はほほほと笑うと真面目な顔になる。
「さて、色々と脱線してしまったが、もう質問はないかの? では転生と行こうか」
「前みたいな心の準備とか無く、いきなり飛ばされるのは勘弁して欲しいのですが」
「分かった分かった、もちっと雰囲気のある飛ばし方にするわい」
俺の足元から周囲へと幾何学模様の魔法陣が広がり、視界が徐々に薄れてゆく。
「うん、新しい門出はそれっぽい演出じゃないと盛り上がらないよね」
「その辺の反応は他の転生者と変わらんのう」
「ということは、他の転生者たちもひねくれ者?」
「いや、お主ほど歪んでないから」
とかなんとかやり取りしてる間に周囲が白く染まりつつあり、神様の姿も見ずらくなってきた。
「神様、今までありがとうございました。精一杯頑張ってきます」
「達者での」
その言葉を最後に視界は完全に白くなり、俺の意識も無くなった。
一人残された神様は首を傾げていた。
「ううむ? 何か忘れておるような気が」
杖を振り、幾つもの画面を空中に投影させる。
「転生先、古代の日本。これは縄文時代と言っておったからそれに設定ってあ、縄文っていっても二万三千年くらいあるじゃないか。平和な時代すぎても退屈じゃろうし、最低でも小競り合いがしょっちゅうあるところにしとこうかの。ふむ、縄文時代後期から末期にかけて、弥生時代に移行する頃にしよう。誕生場所は日本列島内でランダム、と」
設定を終えたら画面を一つ残して他を消す。
「さてさて、今度はどのようなことをしでかすかな?」
神様はお茶を大吟醸酒に切り替え酒盛りを始めた。