準備
「おお、良く来て下さった」
「丈夫な麻布を下さい。それもたくさん」
「こら、カゼ君」
ヤブイワ村の村長に出合い頭に開口一番、そう伝えて叱られた。
村長のいる建物を出ると、外には村とは思えないくらいの人がたくさんいた。大半が反乱勢から逃れてきた人々だ。都の中みたいにごった返している。
「それで、そんなに麻布をかき集めてどうするつもりなんだい?」
色々と情報交換をした際、村長が村人に呼びかけて麻布を集めてくれることを約束してくれた帰り、右隣にいるモズに理由を尋ねられた。
「西の国へ行ったり来たりしてる間、僕がときたま遠投げしてるの見たことあります?」
「ああ、石を飛ばすあの。皆が物珍しさに見物してた」
「それです。あれから皆に『是非とも教えてほしい』と言われて、ちょくちょく教えていたんですが、如何せん肝心の麻布が足りなくて」
俺の左隣にいるセリが感心している。
「それでか。あれ、凄え威力あるんだよな。熊の頭を砕くんだぜ?」
「当たり所が良ければね。外れたら怒ってこっちに向かって来てたかもよ?」
俺がちょっと脅かすとセリは肩をすくめた。
「お前が外すわけないじゃん。というか、外したの見たことねえ」
「訓練のおかげさ」
嘘ではない。が、本当でもない。
サイコキネシスのおかげなんだけどね。
さすがに百m以上先の移動目標に対して、未来予測で局所部分に当てるのは、能力無しでは至難の業だ。
皆に対して「何年も頑張ってここまでやれるようになった」と言って誤魔化したけど。
「ということは、皆に持たせて敵目掛けて一斉に投げるってことで合ってるかな?」
「そうです。手段は多い方が良いと思います」
モズはううん、と考え込む。
「当てられるかなあ」
「いいんですよ、当てられなくても」
「何で? 当てた方がいいじゃん」
セリが不満そうに言ったので、俺はたとえ話を持ち出す。
「想像してみて下さい。僕らが投げた九十個の石が雨のように立て続けに降ってくるのを。そのうちの幾つかが頭に当たったりして、倒れていく仲間を見て、相手はどう思います?」
「……逃げてえ。相手にしたくねえ」
「全員が盾を上に掲げて防御しないと耐えられないんじゃないかな、それは」
セリが率直な感想を述べ、モズが対抗案を出したが反撃には至らない。
「ヤタニ村で反乱勢と戦ったとき、そういえば、相手は一人も盾を持っていなかったな、と思いまして。それならいけると」
「なるほど」
そういうわけで、全員に行き渡らなかったものの、不揃いな長さの麻布を渡して、とりあえず試しに投げてみようかとなったのだが。
「思ったより難しいな」
「慣れれば簡単なんだけどな」
「人によるとしか」
とりあえずざっと百m先の木の幹を的にして投げるも、地面に叩きつけてしまったり、真上に飛ばしてしまったりと、なかなか上手くいかない。
それどころか。
「がっ!?」
「おい、大丈夫か!?」
「……痛そうだな」
振り回す向きを間違えて、自分の頭にぶつけて悶絶してしまったりと、中には散々な結果になった兵もいた。
それでも、出発前にコツを覚えて投げられるようになったのは、俺のいたヨシマ村出身の兵二人を除くと、前から遠投げに注目して俺から教わっていた十数人ほどで、残りは何とか飛ばせるくらいだった。
ちなみに、自身の頭にぶつけてたんこぶを作ってしまった兵は「もう二度とやらない」とへそを曲げてしまったが。
誰も投げられる人がいないよりはましだと思うことにした。
また、各自手ごろな大きさの石を数個選んで戦場へ持って行くことにした。
矢よりも簡単に調達できるのが強みだ。
戦国時代、どこかの国の大名が専門の部隊を持っていたと聞いているけど、それも頷ける話だ。
出発直前、俺たちが村を出て反乱勢と戦うという噂を聞きつけて、たくさんの人が見送りに来てくれた。
「お兄ちゃんたち、絶対、悪い人たちをやっつけてね」
「元の平穏な暮らしを取り戻して下さい」
などと声援を送られながら出発した。
戦場までの案内は村にいた兵三人にしてもらうことになった。
「歩きながらの作戦会議ってのも新鮮だな」
「時間がとれれば良かったんだが」
呑気なことを言っているセリにタナソが残念そうにぼやく。
俺は精神的にきて胃の辺りを押さえる。
「あの村にいつまでも留まっていると、皆の視線が気になって気になって……」
なんですぐに戦場に行かないんだという圧力の強いこと。
「とにかく、ヤブイワの村長が教えてくれた話だと……」
ヤタニ村と比べて反乱の進撃速度はそれほどでもないらしい。
ただ、規模が大きく、だんだんヤブイワ、ヤマカミの両村に近づいているとのこと。
岩みたいに固いのではなく、倒しても倒しても後から虫のように湧いてきてきりがないそうだ。
で、疲れて後退したところを前進される、といった具合らしい。
「厄介だな。俺らだけで止められんのか?」
「たった九十人だもんね」
セリの疑問に同意せざるを得ない。
あれをやるしかないかなあ。目立つからできればあまりしたくはないんだけど、こんな状況なら仕方ない。
機会を待とう。
田んぼの中を通り抜けて、森に入った所で誰かの声を聞いた気がした。
いや、気のせいじゃない。森の中からヤブイワ村所属と思われる兵たちがふらふらと歩いてきた。
案内役の兵が彼らに声をかける。
「おい、どうした!?」
「……だ」
「何だ、聞こえんぞ!?」
「後退だ。奴ら、すぐそこまで来ているぞ」




