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一から始める日本創生  作者: 塚山 泰乃(旧名:なまけもの)
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一時の帰郷

 山賊に遭(あ)うことは一度もなく、部隊は無事にミマツ手前までたどり着いた。

 いや、正確には一度出遭ったんだ。森の中でばったりと。そのときは相手の親玉がこちらの人数に驚(おどろ)いて逃げ出したから何も起きなかっただけで。小隊には時間が惜(お)しいから追うなと命令した。

 他にも苦労した話は色々ある。

 西から東へ向けて戻る俺たちが行く先々の村に立ち寄ると、反応が二つに分かれた。

 事情を説明すると「それは大変だねえ」と、同情したり労(ねぎら)ってくれるのならまだしも、「お国のために行ったんじゃなかったのか」と、詰(なじ)られる場合もあった。

 前者なら稗や粟を少し分けてくれたりもしたが、後者になると石を投げられるという。

 特に広い川に差し掛かったときには大変だった。

 運悪く俺たちに悪感情(あっかんじょう)を抱(いだ)いた渡し舟(ぶね)の人に割増の料金、というか食料を吹っ掛けられたり、「今日はもう店仕舞(みせじま)いだよ」と船に乗せてくれなかったりと、嫌がらせを受けた。

 頭に血が上った兵たちがその人たちを締め上げようとしたため、彼らを宥(なだ)めたことも何回あったことか。もう数えるのも馬鹿らしくなった。

 こうして、箱根の山を越え神奈川沿岸を通り、関東湾?を北上してミマツの国に入国したのである。

 この時代、まだ日本の人口が少なすぎるためか、関所(せきしょ)の類(たぐい)は見当たらなかったが、国境(くにざかい)の村々が柵(さく)を立てて環濠(かんごう)を掘っていたりするので自領(じりょう)意識はあるらしい。

 モズに訊いたところ、国同士の諍(いさか)いもあるにはあるけど、どちらかと言うと、重い税を払いきれずに家族ごと他国へ夜逃げしてくる人々の対処が主だそうだ。普通は相手の境遇(きょうぐう)に同情して入国を許可しそうなものなのだが、中には他国へ侵入を目論(もくろ)む情報工作員もいるので楽観(らっかん)できないそう。


「ヤウミが見えたぞお!」


 ヤウミは海岸沿いの町で、オカワから南東へと流れてきた川が村の北側を通って海に注(そそ)ぎ、山間部のノハルと呼ばれる村から東へ流れてきた川が村の南側を通り海へと注がれる土地だ。

 海の幸(さち)と豊富な水によって生まれる大量の農産物が、この町を栄(さか)えさせている。

 俺たちは行軍(こうぐん)を停止させて偵察員が様子を見て戻ってくるまで待つことにした。


「襲われた様子は窺(うかが)えません」

「当然、けれど、安心したよ。ここを襲えば、この地を守る精強(せいきょう)な兵に押しつぶされる上、以後の取引には応じてくれなくなる。待っているのは飢え死にだ」

「己(おのれ)の首を絞(し)める馬鹿はいない、か」


 偵察員の報告にモズが理由を説明し、タナソが頷いた。


「で、これからどうする?」

「僕自らヤウミに行き、町長に挨拶(あいさつ)してくる。その間、町の外で待機(たいき)してるように。ブヤ、留守(るす)の間、隊を任せるよ」

「分かった」


 ブヤが答えるとモズは皆に向けて尋ねた。


「この中にヤウミ出身の方はいるかい? いたら手を上げてくれないか?」


 手が上がったのが三人いた。


「……意外と少ないね」

「隊長、この町を襲う馬鹿はいないと信じてるんで、多くは西の国へ行っちまったんでさ。俺たちは念のためにこっちについたんですよ」

「そうか。じゃあ、三人は町でどこの村が襲われたか噂(うわさ)を集めてもらえるかい?」

「へへ、よし来た」

「この町は俺たちの庭みたいなもんですからね。任せて下さい」


 三人はモズと共に町へと歩き出した。


「ああ、俺たちも行きたかったなあ」

「しょうがないだろ。完全武装の兵が百人も行ったら町が大騒ぎになる」


 セリの残念そうな言葉にコウが答える。


「とりあえず、休むか」

「歩き通しだったしな」


 兵たちが町の南側の川の、リヤカーが通れそうなくらいの小さな橋の側で、適当な場所に座り込む。一部の兵は敵襲を警戒して外周に体を向けた。

 俺も外周を見渡せる位置に座る。

 川のせせらぎが俺のささくれ立った気分を和(なご)ませる。

 上流から下って来た荷物を積んだ小舟(こぶね)が向こう岸へと寄る。ヤウミへと運び込むのだろう。船頭が俺たちを警戒していたが、自国の鎧だと分かると視線を外し、荷を陸へと揚げ始める。

 あの小舟の様子からすると、上流のノハルは無事か。

 体を休めても頭は回る。


「平和だねえ」

「とても反乱騒ぎで荒れているようには見えないけどな」

「とっくの昔に王様がぶっ潰(つぶ)したりして」

「それなら楽なんだがな」

「戦わないに越したことないしな」


 兵たちの言う通りだった。

 竹筒を取り出すと栓(せん)を抜いて水を一口飲む。

 ここに来る途中、村の井戸で汲(く)んだ水はすっかりぬるくなっていた。それでも美味(うま)い。

 しばらくすると、モズがまず戻ってきて、夕日となる頃に町に行っていた三人が帰って来た。

 夕食の後、皆で輪になって三人の報告を聞いた。

 輪の中心の地面に大きな地図を描いて、そこら辺の石を町村と見立てていく。


「……つまり、都の北で発生した反乱はオカワ一帯の村々を襲い、王の息子たちが鎮圧に当たっていると」

「はい」


 モズの確認に報告した一人が頷く。

 確かモズの生まれがオカワ村だったな。不安だろうに冷静な態度を崩さないのは凄いと思う。

 残る二人が口を開く。


「もう一つが都の南を流れる川を挟んで南にある村々で反乱が発生。ヤタニ一帯の村々と衝突が起きているとのことです」

「そして最後に、ヤブイワ村の北にある村々で発生。こちらが一番規模が大きく、ヤマカミ、ヤブイワ、ヨシマ一帯の村々と衝突しているそうです」


 何だ、平和なのはこの辺りだけで、他は反乱だらけじゃないか。

 というか、俺のいた村も襲われたのか。

 特徴的(とくちょうてき)なのは、山のふもとにある小さな村々がある所が中心となって反乱を起こしている点か。人口が少ないとはいえ、広範囲(こうはんい)に及(およ)べばその人数も膨大なものになる。

 どうするんだ、これ?

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