城攻め
岸壁に停泊している船に乗り移っている最中であろう敵に、俺たちミマツとカダの連合部隊はこれを奪い返すべく、準備を整えていた。
ナガル王子が周囲の兵に指示を出す。
「弓を持っている者は後方で援護を! 槍を持つ者は剣に持ち替えるように! 横一列につき二十人で並べ! 渡しがかけられたら突入するぞ!」
俺の足の傷は浅かったが、思いの外流血していたため、簡単な手当てを受けている。奴らが宴をしていたときに飲んでいた酒の余りで傷口を洗い、包帯を巻かれた。
この時代に生まれてから今まで、ここまで出血するようなケガをしたことがないし、まだ酒は飲んだことがないけど、焼酎なのかこれ? この時代にあるの?
手当てをしてくれている兵にそれとなく尋ねる。
「痛い、沁みる。何でお酒をケガしたところにかけるの?」
「我慢して下さい。強い酒でこうすると、傷の治りが早くなると聞かされてますね」
「そうなんだ。ありがとう」
口伝とか言い伝えなどで受け継がれてきたのだろうか。
手当てが終わるとその場で屈伸してみる。相変わらず痛いけど、手当てされる前と比べて安心感が出てきた。
隊列を整え、岸壁の端に木の板の渡しを垂直に立てると船側に倒し、船に乗り込む道筋をつけた。
今のところ敵からの攻撃はない。
「行くぞ!」
ナガルの号令に一列目の兵たち二十人が間隔を開けて順番に渡しを通る。
先頭の兵が渡しの中ほどを通りすぎた時、敵が動いた。
今まで伏せて隠れていたのだろう、船縁の手すりの上に沿って盾が並び、盾と盾の間から矢が飛んできた。矢は渡しの上にいた先頭の兵に命中し、兵は糸の切れた人形のように落下し、水しぶきを上げる。また、別の位置からも矢が複数飛んできて兵たちに降り注ぎ、運悪く当たった人から悲鳴が上がる。
「前列! 盾! 構え! 弓隊、射て!」
横一列目が前方に、二列目が斜め上に盾を構え、防御の姿勢をとり、後方にいた部隊が矢を放つ。
たちまち射撃戦となった。逆襲どころか攻城戦に早変わりだ。
俺とナガル、それにヨヘイは横二列目の後ろに隠れる。
「どういうことだ、盾があるとは聞いてないぞ」
「私にもさっぱり。船にはなかったように見えたのですが」
ナガルに問われて、俺は弓に矢をつがえながら首を傾げる。
「あれ、手すりの壁に似てません?」
気付いたのはヨヘイだった。
よく見ると確かに盾と形が似ている。
「あれ、取り外しができたのか」
厄介な、早々にけりをつけるはずだったのに。
「盾はともかく、陰にいる弓兵がいやらしいですね」
「どうする?」
「あの盾と盾の隙間を狙えれば良いんですが」
状況を分析するヨヘイにナガルが尋ねる。
弓隊が援護に放った矢は手すりの壁や盾に突き刺さっているが、被害を与えた様子はない。
「私ならできます。任せて下さい」
俺はそう言って矢を引き絞る。
僅かな隙間でもこれだけ近ければ、サイコキネシスは必要ない。
「ここっ」
言いながら放たれた矢は狙い過たず弓兵に命中した。
「おお」
「お見事」
「訓練の賜物ですよ」
ナガルたちが感心するので俺は照れた。
ところがその直後、敵に変化が起きた。
敵弓兵の攻撃が俺のいるところに集中したのである。
「痛えっ」
「ぎゃっ」
何本かは盾で阻んだが、それ以外が盾を構えた兵たちに襲い掛かった。
一部の兵がその場に蹲り、防御に穴が開く。
「このっ」
もう一本放ち、また敵弓兵を倒すが、そこで後ろから肩を掴まれた。
「隠れろっ、狙われてるぞ!」
ナガルに言われ、俺は慌てて盾を構える兵の陰に移動する。
再び弓を構えようとしたら、敵から射かけられた矢によって、目の前にいた兵が崩れ落ち、俺たちの姿は敵から丸見えとなった。
「カゼ、下がれ!」
「畜生!」
「まずいよ、反撃できない!」
俺は悪態をつきながら周囲の状況を確認する。
横三列目にいた兵が倒れた味方から盾を受け取り、一、二列目と同様に防御姿勢をとる。
渡しを通って乗り込もうとする兵は剣と剣での斬り合いになっていたが、敵の方が上手らしく、盾に押し出されて海へと落下していた。
弓隊はひっきりなしに矢を射てはいるものの、有効打になった様子があまりない。
敵の数が少ないのに、密集陣形で一本の橋だけが攻め口という状況が、これほど攻めにくいとは思わなかった。
どうする? どうすれば敵陣を崩せる?
「形勢不利か」
「何でカゼは敵に当てているのに他の弓兵は当てられないの?」
唸るナガルに、疑問を口にするヨヘイ。
「それは、弓隊に比べて私の方が敵に近いから……」
俺はヨヘイに返事を返しながら気付いた。
待てよ、サイコキネシスは俺だけのものか? 違う、味方の、皆のためのものだ。
何で今まで思いつかなかった。
「ナガル王子、弓隊に指示を出して下さい。内容は……」
俺は内心反省しつつ、ナガルに頼み込むと、彼は首を傾げた。
「そんなことで上手くいくのか?」
「駄目もとでやってみてはくれませんか?」
「まあ、それで打開できるなら」
ナガルは腑に落ちない様子で命令する。
「弓隊! 無暗矢鱈に射るな! 十、数えて、盾と盾の隙間を良く狙え! 十! 九! 八!」
弓兵たちは戸惑うが、命令通りに狙い始めた。
「……三! 二! 一! 放て!」
ナガルの号令に弓兵たちは一斉に射かける。
後は俺の仕事だ。
今まで試したことはないが、ぶっつけ本番でもやってやる。やってみせる。
敵に向かって飛んでいく二十本あまりの矢を、サイコキネシスで盾と盾の隙間に入るよう誘導する。
果たして、二十本の矢はそれぞれの隙間に吸い込まれ、敵の弓兵どもが倒れていく。敵側に動揺が生まれた。
それは渡しのところでも同じで、片手に盾を持ち、剣を振るっていた敵兵も射抜き、突破口が開かれた。
「……渡しを通っている者たちよ! 突撃!」
二、三秒ほど結果に呆然としていたナガルが我に返り、命令を下す。
渡しを通っていた者たちが雄叫びを上げながら、小走りで船に続々と乗り込んで行く。
「カゼ、今、何をした?」
船を見つめたまま、問いかけるナガルに俺はこう答えて誤魔化した。
「何、一度冷静になれってことですよ。皆、焦り過ぎなんです」
俺は弓を背負うとナガルたちに言った。
「では、私も船に乗り込みます」




