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一から始める日本創生  作者: 塚山 泰乃(旧名:なまけもの)
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風習

 関東平野を二百人からなる集団が移動する。

 平野内を侵食する東京湾を迂回し、相模湾を横目に通りすぎる。獣道と変わりない道を歩く。途中、道は箱根の山をそれて北側をまわり、息を荒げながらも登る。


「馬、連れてこなくて正解だったな」


 サヘエの言葉に同意する。これだけ険しいと上りは何とかなっても、下りではきついだろう。食糧は皆が背負っている。人間だけでもどうにかなるか。

 峠を越えると駿河湾に面する静岡県に入った。

 村伝いに移動していると、とても広い川に出た。富士川だろうか。行商の話によると近くの集落で小舟(こぶね)で漁をしている人がいるらしい。その人から借りるという。

 個人で営んでいる文字通りの小舟だったので何十回と往復して渡った。

 それからも何度か広い川に出くわし、その都度小舟で渡る。まだるっこしい。俺の他にもそう思った者もいたらしく、渡しの人が止めるも泳いで渡ってしまおうとする猛者が出た。

 泳ぎの達者な人だったようで、無事向こう岸にたどり着けたようだが、川の流れには逆らえず大分流されてしまった。皆と合流して以降、広い川に当たっても泳ごうとしなくなった。

 ちなみに夜は基本、立ち寄った村の側でなるべく夜営する。二千年代初頭の日本の都市部と比べ、街灯なんて無いので辺りは真っ暗である。松明(たいまつ)もあるにはあるが、土地勘はないし崖から落ちるということもあり得なくはないため、移動は避けておくに限る。

 村の側で泊まる場合、一応お伺いをたてるのだが、よそ者に対して拒否する村もあれば、遠路はるばるようこそといった感じで歓迎を受けることもあった。

 手厚い歓迎は正直嬉しい。が、手厚過ぎることもあった。

 中部地方に入ってからのことだ。

 歓迎をしてくれる村の人たちに違和感を感じた。最初は気のせいだろうと思っていたのだが、よくよく彼らを見るとあるものが無い。

 歯だ、歯が欠けている。

 犬歯が無かったり、切り歯が無かったり規則性はあるものの色々だ。

 そういえば、幼い頃、行商の人から聞いた話で歯を抜く風習を持つ地方があると言っていた。虫歯でもないのに抜くなんて馬鹿らしい、どうせ噂だろうと思っていた。


「その歯はどうしたんですか?」

「抜いたに決まってるじゃないか」

「どうして抜くんですか」

「格好いいからだ」

「そ、そうですか……」


 誇らしげな即答ぶりに皆引いている。


「……お前たち、見たところ歯を抜いてないじゃないか。みっともない」

「ええー?」

「どうだ、良ければ今からでも抜いてやるぞ」

「間に合ってます」

「遠慮するなって」

「結構です! 痛いじゃないですか」

「大丈夫、痛くない」

「痛くないわけがないでしょう」


 こいつ、何言ってるんだ。

 まさか、この時代に麻酔なんて代物があるのか。だとしたら凄いかもしれない。


「何なら見ていくか? 今丁度抜いているとこなんだ」

「……まあ、見るだけなら……」


 怖いもの見たさで行ってみる。報告を聞いていたナガル王子やヨヘイ、他数人が興味本位でついてくる。

 建物の中かと想像していたが、意外にも外でやっていた。前世の歯科と比べて光源が無いので太陽の下でということになるのか。

 地面に(むしろ)を敷いて男が横になり、施術(せじゅつ)を行っている者が針と糸らしきもので口の中を()っているようだった。もう歯を抜き終わった後のようだ。

 そう思っていたら、施術者が二本目に取りかかった。

 よく見れば横になっている男の頭が地面に半ば埋まっており、固定されている。そこに施術者がノミと石鎚(いしづち)のようなものでガチンと歯を砕き始める。


「うげ」

「ひいい」


 見ていた俺たちはドン引きだ。だが叩かれている男は悲鳴を上げるどころか暴れもしない。

 不思議に思って案内してくれた男に聞いてみた。


「あの、何であの人痛がらないんですか?」

「これさ」


 彼が取り出したのは葉っぱ。

 どこかで見たような気がする。


「これのおかげで痛みは感じない。それどころか気持ちが良くなるんだ」

「へえ……」


 なるほど、確かに効果は抜群だ。

 大麻じゃないかっ!

 この時代の人なら単なる便利な草なんだろうけど、前世じゃ違法薬物なんだから危険を伴う行為だ。


「じゃあ、私たちは先を急ぐのでこれで失礼します」


 こうして俺たちは夜営もそこそこにその村をそそくさと後にした。というか、それ以降も歯が欠けた村人たちとそこかしこで出会うことになった。

 もしかすると、抜歯の風習が無いのは関東地方だけなのではないだろうか。いや、この分だと関東ですら怪しいかもしれない。


 しばらく西に進むと海に出たので北上する。ナガル王子とヨヘイに確認すると、地図からして伊勢湾らしい。それにしても大きい。濃尾平野も海の底か。

 伊勢湾を迂回し、関ヶ原を越えると今度は琵琶湖に出た。東岸に沿って南下し、京都に入る。といっても、この時代は大きな村でしかない。ただ、河川を利用して水運を営んでいる者もいるようだ。

 現在の大阪も海の底らしい。一度行ってみたかったが、今回は向かう先が違うので諦めることにした。

 京都から北西に向かって山の中を歩く。ここも獣道のように細いが、一応山陰地方に抜ける街道だそうだ。


 行く先々の立ち寄る村で歯抜けの人と会うのは何となく落ち着かない。事あるごとに抜歯をすすめてくるのは勘弁(かんべん)してほしい。

皆様お待たせいたしました。

と言っても次の投稿までまた時間があきます。

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