王
故郷の村を出て丸一日歩いたところでこの国の都に着いた。森を抜けると田畑に出て、その先に物見櫓が見えた。
外敵に備えるためなのだろう、外周に環壕が張り巡らされている。
他の地域から来たと思われる兵たちが、既に都の外周にちらほらと屯する姿が見える。
まずは門番に用件を伝えるため近寄った。
「何の用か」
「兵を集めるようお触れを受け、参じました。つきましては、どこで待てば宜しいでしょうか」
門番の問いにサヘエが返答した。門番は環壕より外を指差す。
「そこいらの空いている場所に適当に待っていてくれ。それと、どこの村の者か」
「大沼の側にあるヨシマという村とその近隣の者たちです」
「ふむ、ヨシマ……ヨシマ?」
木簡を開いた門番が確認をとる。と、そこで怪訝な表情になる。
「どうかしましたか?」
「……ヨシマという村に滅法槍に強い奴がいるそうだが、真か」
「はい、います」
「この都の偉い人にその御仁を案内するよう言われていてな、ついてきてくれるか」
この言葉に俺たちは顔を見合わせる。
「どうする?」
「どうするも何も、お偉いさんの命令とあらば、聞くほかないだろうよ」
「というわけだ、行ってこい」
「……分かりました」
悪いようにはしないなどと言っていたそうだし、少なくとも殺されるようなことはないだろう。
俺が門番の前に進み出ると、彼は目線を下げる。
「お前がそうか。……まだ子供ではないか」
「子供なんです。十二才になります」
「疑うわけではないが……。まあいい、ついてきなさい」
垂直に埋め込まれた丸太でできた塀を見ながら門を抜ける。中にはちょっとした市場があった。活気があり、様々なものが売られていた。米や麦、稗、粟などの農産物、干し魚や海草などの海産物。
一体この都にはどれだけの人口があるのだろうか。
「門番のおじさん、この都にどれだけの人が住んでるの?」
「……数えたことないから分からんが、五千はいるんじゃないのか」
「五千……」
当たり前だが、俺の住んでた村より多いとは思ってたけど、そんなにいるのか。ちなみに俺の村の人口は七百ほどだ。
都の中央くらいまで歩いたと思われる場所にある一際大きい建物に来た。
「これは……でかい」
「ほら、こっちだ坊主」
村の長老の家もでかかったが、それを凌ぐ大きさだ。井の中の蛙であったことを今更ながらに思い知った。
入口で門番は衛兵と思われる人に俺を連れてきたことを伝えると、門へ戻っていった。
衛兵らしき男は水が入った土器に布を浸けると絞り、それを俺に渡してきた。
「足を拭きなさい」
何のことかと思いつつ、言われた通りにする。
「通って良し」
その言葉を聞き、ゆっくりと中に入る。普段俺が住んでいる竪穴住居とは違うことに気付かされた。
内部には色とりどりの布が壁から下げられ、あちこちに明かりとりのための窓が開いている。その窓にも雨が入らないよう工夫がされていた。
極めつけは床だ。いや、莚というか御座が一面に敷かれている。
足を拭かされたのは汚されないようにするためか。
俺の後から衛兵も入ってくる。
「こっちだ」
内部を観察しながら進む。壁に掛かっている布はどこで手に入れたんだろう。自ら作り出したのか、海の向こうの作品か。
「例のヨシマの村の人間を連れて来ました」
「通せ」
「はっ」
仕切りの向こう側から聞こえてきた男性の声に促され、仕切りを通りすぎる。衛兵は入って来ない。
中で俺に声をかけた男は木簡を広げて読んでいる。絹の衣を纏い、呪術に関係のありそうな首飾りを掛けている。
「お前がカゼか」
「はい。……知ってるんですね」
「部下に調べさせたからな。随分と愉快なことをしているそうじゃないか」
「と言いますと」
「勝ち抜きで百人抜きしたり、同時に十人相手にしたりな。村の男たちが自慢してたそうだ」
「そうですか」
人の口に戸は立てられない、ということか。
「ところで、貴方はどなたでしょうか」
「俺か。俺はこの国の王だ。ナギという」




