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一から始める日本創生  作者: 塚山 泰乃(旧名:なまけもの)
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武術大会

槍を()る。縦、横、斜め、突きの基本動作に加え、体の動きと足の(さば)き。びゅんと(うな)りを上げる音が心地良い。

熱心に訓練に(はげ)むのはいつものことだが、近く武術大会を開くから今以上に熱が入る。それも、三年ぶり、近隣の村を巻き込んでの催しだ。

年齢に制限はないが、村の代表として恥じない程度の強さが求められる。

十一になった俺にも参加資格があるようだ。

何でも、優勝した者とその出身の村には豪華商品が(おく)られるらしい。

賞品は何だろう。米か。絹の服か。青銅の槍か。(よろい)か。

青銅の槍も捨てがたいが、米が良いな。なかなか口にできない代物(しろもの)だ。

そんなことを考えながら槍を振っていると、サヘエから声がかかった。


「カゼ、長老が呼んでいるぞ」

「分かった。ありがとう」


調子が良いところなんだけどな、と思いながら訓練を中断した。

ちなみに、槍だけではなく弓と素手の格闘も練習している。特に弓の腕前で、猪や鹿を狩らないかと誘われていた。何回か同行もし、仕留めてもいた。


長老宅までやって来ると、入り口から中に向けて声を上げる。


「カゼ、ただ今、参りました」

「うむ、入りなさい」

「失礼します」


薄暗い部屋で長老は胡座(あぐら)をかいていた。

三才くらいの頃から長老のことを知ってはいるが、とても百近い老人とは思えないほどしっかりしている。


「それで、話とは何でしょうか」

「うむ。……武術大会のことなんじゃが」


はて、日頃はっきりとした物言いの長老が言いよどむとは珍しい。


「はい」

「参加しないでもらえんかのう」


沈黙。

言われたことが耳に入ってこなかった。いや、脳が理解を拒否した。


「はい? 今、何と?」

「参加しないでくれ」


聞き間違えじゃなかった。


「何故!?」

「この村のためじゃ」

「意味が分かりません。傲慢(ごうまん)ではありますが、私ならば見事頂点に立って見せましょう。そしてこの村に褒美(ほうび)を持ち帰ってみせます」


その技術と力を持っている。使わない手はないと思う。


「それがいかんと言うておる」

「……説明して頂けますか」


参加してはいけない理由があるはずだ。何がいけない。


「良かろう」


武術大会優勝者には賞品が出る。

また、優勝者とその村の名声が高まる。

ここまでは良い。その先が問題だった。

役人が優勝者や優秀な者がいると引き抜いていってしまい、村から貴重な人材がいなくなってしまうのだそうだ。

どこの世界でも優れた者がいれば欲しいと思うのは当然。


「むしろ、それを目当てに参加する者もおるようじゃが、お主も役人になりたいのかの? それなら止めはせんが」

冗談(じょうだん)。確かに、役人に取り立ててもらえば、恩恵にあずかることができるでしょう」


場合によっては、木簡をただで見れるかもしれない。


「大体、私はまだ子供ですよ」

「将来有望なら手を出すじゃろうて」

「それに、取り立てられた者が全員役人になれるものなんですか?」

「力自慢を集めての武術大会じゃぞ? 雇われた先はどこじゃと思う?」

「兵隊ですか」

「普通はそこら辺が関の山じゃろう。まあ、お主ならもっと上を狙えるじゃろうが」


力自慢だけでは使い潰されるのがオチ。

俺は文字を多少習っているから、文官への道も(ひら)けそうだ。


「それと、先ほどおっしゃられた失われた村の人材」

「そこじゃ、そこが余程(よほど)まずい」

「何故です? この村自体平穏そのものですよ」

「この村の外じゃよ。北の村と東南の村は収穫が安定しているので大丈夫そうではあるが、それ以外の村が良くない」

「うちの村に、飢えた人々が略奪に来る可能性がある、と?」

「うむ。いま、お主に出ていかれたら、戦になった場合、とてもではないが被害を抑えきれん」

「役人に訴えて仲裁(ちゅうさい)をしては?」

「それで治まるようなら苦労せん。殺気立ってる連中を止められはせんよ」


今までのほほんと暮らしていたが、そこまで状況が悪化していたのか。

あれ、いつの間にか中心的存在という立場になっていますよ、俺。

俺だけじゃなく、訓練に付き合ってた仲間たちもかなり強くなってると自負しているから、野盗ごときであれば大丈夫だと思っていた。


「村の皆の強さは私が一番良く知っています。それでも私がいないと勝てませんか?」

「勝てる。勝てはするが、被害がのう……。ずいぶん昔、(わし)が若かった頃、死にも狂いになった連中と戦ったことがあるが、きつかったのう」

「明日食べるものが無ければ、それは、そうなるでしょうね。で、そのときはどちらが勝ったんですか?」

「わしらじゃよ。でなきゃ死んどる」

「そこまで言いますか……」


今の村の状況を見ても、とてもではないが(いくさ)爪痕(つめあと)は確認できない。


「ということは、今度の武術大会で飢えた村の代表をわざと勝たせて、うさを晴らさせようとお考えで?」

「いや、そこまでは考えておらん。というか、馬鹿にされてると思って、ますます怒るだけじゃろうよ」

「そうですか」


相手を(なだ)める策は却下となった。


「ともかく、大会に出てはいかんからな」

「事情が事情ですので仕方ありません。今回は止めておきます」

「できれば、この先もずっとそうしてくれるとありがたいのじゃがな」

「私だって男です。強い奴に会いにいきたいです」


強くなってしまった結果、この村で相手になる人がいなくなってしまった。これはこれでつまらない。やはり好敵手(ライバル)がいたほうが燃える。


「うむ。お主の願いは覚えておこう」


後日、開催地へ遠征にいったサヘエたちは上位へくい込んだものの、優勝はできなかった。

彼ら(いわ)く「俺らの方が強いが、気迫で負けた」とのこと。

どうやら、飢えた村からの出場者たちの死にも狂いな攻めかたに圧倒されたそうだ。

ちなみに、優勝賞品は出身者の事情を考慮して穀物となった。なんとか冬を越せる量だそうだ。

行かなくて正解だった。

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