組手
十才になった。
この頃になると子供達は親と一緒に本格的に働き出す。
俺も父と叔父の三人で畑を耕しに出た。今回は畝を作る必要があるので牛を一頭借りる。畑に着いたら牛に鋤を取り付けて引かせる。
「よしよし、そのまま、そのまま……」
叔父が牛を先導し、父が鋤を持って畝を作り、俺は出来た畝に種を蒔く。
三人で交代しながら作業を続ける。
ちなみに、何を蒔いているのかというと、大麻である。
大麻である。
何も危ない使い方をするわけじゃない。種は貴重な食料だし、茎は解して繊維にし、衣服を作る材料となる。一石二鳥の優れものだ。
それと、何も大麻だけを生産しているわかじゃない。
稲や大麦、蕎麦、稗、粟、黍、小豆、藪豆、鶴豆、荏胡麻、瓢箪などを育てている。
もちろん、この村だけで今挙げた農産物を生産することは土地の広さや人口では無理があるので、近隣の村々と連携して育て、互いに持ち寄って物々交換している。
お金? どこで採掘されてるのか分からないけど、西暦二千年代に日本で使用されていた五円玉のような中央に穴の開いた銀銭で少量だけど取引されている。けど、ちっぽけな村にそこまで行き渡るほどの経済力があるわけでもないのだ。
話をずらすが、衣服といえば蚕が作り出す絹もあるが、あれは裕福な家庭や貴族が着る代物であったり、税として持っていかれてしまうため、俺たちが着ることはない。
ちなみに蚕だが、行商が卵を売りに来て、その卵を囲炉裏の上で暖めて生まれさせ、専用のザルに入れ換えて、桑の葉を春から秋まで与え続ける。
やがて体色を白から赤く変化した蚕は餌を食べなくなり、人間が用意した巣穴に入ると糸を吐き出し繭を作る。その繭を集めて袋に詰め込んで行商に売って作業は終了となる。
繭を茹で、糸を紡いで服を作る作業は、この村ではない別の人たちがする。
「よし、今日はこのくらいにしておこう」
昼食の途中休憩を挟み、畑がある程度一段落したところで、俺たちは畑から出た。
「あ」
鋤を取り外された牛が厩舎へ向かって駆け出した。
「あの野郎帰れると分かった途端、これだ」
「行きは足取り重かったもんねえ」
叔父の呆れた声に俺はのんびりと返事する。
「そういや、このあとどうする?」
「槍の練習したいなあ。叔父さん、相手してくれる?」
俺も父たちの訓練に参加するようになって、腕を磨いている。
「えー、俺じゃもう相手にならんだろ」
「なら、おとうと組んでの二対一でさ」
「それなら良いぞ。イワ、それで良いよな?」
「構わない」
叔父はイワに呼び掛けると、彼から短く返答があった。
ちなみに叔父の名はフギという。
俺の名前も五才のときにカゼに決まった。なんでも、気がつくと風のようにどこかに飛んでいってしまうような行動をするからだそうだ。自分ではそんな覚えはないのだが、母がそうだと言うのならそうなのだろう。
話を戻すが、神様に貰ったプロアスリート並みの能力のおかげか、上達の速度が尋常ではないほど早いのだ。
大人たちとの背丈の差をものともせずに相手を打ち負かす様に、いつしか一目置かれるようになった。
また、俺と対戦した相手がどういうわけか少しずつ強くなり始めている。それについて皆は良くは分からないが、原因が俺にあるのは一目瞭然のため、俺に対戦を申し込む人がたくさん出た。
実を言うと、傲慢なのかもしれないが、俺が一方的に勝ってしまうのもどうかと思ったので相手が強くなれるような組手をしてるからかもしれない。
自宅に帰りついた俺たちは、それぞれ麻袋を先端に取り付けた訓練用の槍を持って訓練所に行く。
そこには先に百人くらいで訓練する少年を含む大人たちがいた。
「こんにちは」
「おう、来たか」
サヘエに挨拶すると何人かが組手を止め、こちらに礼をしてきたので、こちらも礼をする。
「俺とイワと坊主で組手を最初にやらせてもらえないか?」
「ほお、そりゃ面白い」
フギの言葉にサヘエはニヤリとすると、訓練中の村人たちに声をかけた。
「おい、お前たち、組手を一旦止めにする。カゼの組手を見学するぞ」
そう言われた彼らは俺たちの周りを囲んで、思い思いに座る。
「じゃあ、やるか」
フギの声を合図に俺たちは槍を構える。最初は槍を構えた父とフギが並んでいたが、二人はお互いに距離を取り、俺を挟み込む位置へと動き出す。
そうはさせるかと、俺はフギに向かって槍を突く。彼は槍の先端を軽く回して俺の突きを反らし、そこから俺に向かって突いてきた。俺は体を入れ換えると槍の石突の部分で彼の顔面と胴を突く。
フギは後方に退避しながら避けると、入れ替わるように横から父が槍を振ってくる。槍を縦に構えて受けると、槍を倒して父を突く。父は斜め前にかわしながら槍を回転させ、反対の石突で俺の足を狙う。同じく石突で足元を守る。その石突を跳ね上げて父の胸を軽く突いた。父はその場で蹲る。
フギは俺の後ろに回り込んで槍を横振りしてくる。先ほどと同様に槍を縦にして受けると、彼は逆振りで石突を打ち込んできた。これも受けると俺は彼に向かって踏み込みながら槍を振り下ろした。彼は避けられずに肩に当たる。
「そこまで!」
サヘエの声に俺は動きを止める。槍を立てて一礼し、父とフギの様子を見た。
……良かった、加減ができていたようで二人ともすっくと立ち上がった。
「強くなったな」
「ありがとうございます」
「次、勝ち抜き、いってみるか?」
サヘエの言葉に礼を言う。と、次を誘われた。
勝ち抜きとは円陣の中で二人が戦い、決着がついたら円陣から次の者が勝者に戦いを挑む形式だ。
「喜んで」
記録は更新され、七十一人抜きとなった。敗因は体力切れであった。
しまったな、神様に体力無尽蔵とでもお願いしておくべきだったか。




