手伝い
考えがまとまらない。
沼の事件が解決し、ゴサクたちと別れてからも、書物の入手方法について悩んでいる。正直、この貧しい村では困難である。
物々交換が基本のこの時代、この村で生産される材料は少ない。
穀物の類いは税で持っていかれるし、残りは皆の貴重な食料だ。葦は沼でいくらでも取れるがかさばる上に使い道が限られる。労働力は今の年齢では論外だ。
ため息をつきながら桑の葉を蚕に与える。
俺の悩みをよそに、蚕たちは目の前の餌に夢中でひたすら食べ続ける。
別に木簡でも構わないのだ。専門書が欲しい訳ではない。ただ、一通りの文字を覚えたい。……一通りがどこまでなのかは良く分からないが。
紙が恋しい。
鼻をかみたいときはそこらの葉っぱを使う。便所で用を足した後、尻を拭くのはそこらの葉っぱである。これはいただけない。
紙の原料はコウゾという植物だそうだが、そもそもどの植物を指して言うのか、作り方はどうなのか、さっぱり分からないのでお手上げだ。
前世ならインターネットなどで検索すれば即座に分かるだろうに。
「やはり、旅に出て、直接買いに行くしかないか……」
「坊や、何ぶつぶつ言ってるんだい? 蚕に餌やったらこっち手伝っておくれ」
「は~い」
この村の幼児は三才くらいになると、ある程度人との意思疏通が可能になる。そのときから簡単な親の手伝いをするようになる。畑に種を蒔いたり、火の番をしたり、牛馬に餌を与える作業などだ。
蚕の餌やりに続いて、川で洗濯し、干した服を取り込む母の手伝いをする。
旅に出るには武装する必要がある。複数の賊を相手にしても勝てるくらいの強さがいる。
「おかあ、ボク、槍が欲しい」
「そんなの持ってどうするの?」
「強くなりたい」
「あらあら、男の子ねえ」
母は微笑んでくれる。
将来、この村を出ていくための準備だと知ったら、父と母は悲しむだろうか。悲しむだろうな。
「でも、坊やに合う槍は無いのよ。その辺の木の枝でも使いなさい」
この小さな体が恨めしくなることがある。まだ三才だからしょうがないと納得させる。
待てよ、何も槍じゃなくても良いのでは。
剣。製造技術がないので没。
ナイフ、石器があるから採用。
飛び道具。弓矢も必要。スリングも役に立つだろうから必須かな。
あと、素手による格闘術も覚えておいて損はない。
母の手伝いが終わったら自由時間だし、父の訓練でも見に行こう。
そう思っていた矢先、俺の肩を誰かが叩いた。振り返ると近所の同い年の男の子が六人立っていた。
「遊ぼう?」
言われて気づく。そういえば、ここのところゴサクと一緒にいたため、彼らと遊ぶ時間がめっきり減っていたのだ。
「分かった。何して遊ぶ?」
まだ幼いのだ、そう急ぐこともないだろう。俺は気分転換も兼ねて子供達の輪に加わった。




