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一から始める日本創生  作者: 塚山 泰乃(旧名:なまけもの)
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文字

沼での殺人事件がまだ終わっていない間、俺はゴサクにあるお願いをしていた。


「文字を教えて欲しい?」


ゴサクの聞き返しに俺は(うなづ)いた。


「大きくなったら、ゴサクみたいな偉い人になる」


本当はもっと上を目指したいけど、偉くなるための条件が分からない。

とりあえず、読み書きと計算ができれば良いのだろうが、どこで覚えられるかが問題だった。


「文字か」


彼は木簡(もっかん)に文字を書くのを一旦止め、ひとしきり考える。


「一応、この村の長老やそれに次ぐ者たちも読み書きできるのだが、税のやり取りに関することだけだろうからな」

「長老から文字は教わってる」

「学んでるのか、その年で?」

「長老からは覚えが良いと誉められた」


胸を張って言ってみる。

ゴサクはほおと目を丸くする。

普段、税以外に使われることのない文字。それ以上のことを学ぶのであれば、基本、裕福な家庭か職業役人、王族に生まれる必要があった。長老たちから学ぶという方法では限界がある。

かといって、ゴサク自身はたまたま村に立ち寄った者に過ぎない。事件が解決しだい帰ってしまう。誰かしら教育を行う人材がいる。


「ボクを連れていっては駄目か?」

「駄目だ」


無茶な問いは即座に返される。


「君の両親をどうやって説得する?」

「う」

「それに、俺に君を(やしな)うことはできない」

「うう」


そう言われて言葉に詰まる。心が大人でも、自分が子供であることをすっかり忘れていた。

家族がそばにいなくとも、信頼できそうな大人がいてくれるから、親は黙っているのだろう。だからといって、村の外に行くとなれば話は別だ。(はな)しはすまい。


「この村で文字を学ぶ方法……」

「とりあえず、長老から教わることがなくなるまで勉強して。その後だな。どうする?」


意地の悪い質問だな、と思いつつも、真面目に相手してもらえるからと感謝する。


「大きくなったら町に行って誰かに教えてもらう」

「……無理だろうな」

「何故」

「皆そこまで裕福で余裕のある生活してる人はなかなかいないし、いたとしても、田舎からぽっと出てきた若者に文字を教えてくれる親切な者がいるとも思えん。どちらかといえば、高い対価を吹っ掛けられるのがオチだな」

「……じゃあ、行商から書物(しょもつ)を買う?」

「それこそ、交換する物がえらく高いものになるぞ? それと、この辺りでは書物は売ってない」

「……ないの?」


あれ、と首を傾げる。


「書物はここより遠い遠い西の国か、それよりも西の海の向こうの国でしか取り扱ってない」

「でも、そこに書物が……」

「ああ、木簡のことか。……これも書物といえば書物なのか?」


ゴサクは書きかけの木簡をつまんでぶらぶらと揺らす。

どうも思い違いをしていたらしい。


「書物というのは、紙という木の葉くらいに薄いものをたくさん重ねた物を言う。分かるか?」

「何となく」


この村では紙を一度も見たことがない。


「村の外に行けば書物があると思ってた」

「俺が住んでるところでも紙は作られてないぞ。さっきも言ったが西の国ならあるぞ。すごく遠いし、命が(いく)つあっても足りないが」

「……そんなに危ないの?」

(ぞく)が出る。」

「人のものを()るやつらのこと?」

「盗られるだけなら良い方で、捕まって売り飛ばされたり、命を落とすことだってままある」

(ひど)いね」

「そうだな。それを取り締まるのが俺たちの役目なんだよ」

「偉いんだね」

「おうとも」


ゴサクは笑顔で力こぶをつくってみせた。


「もうひとつ思いついた」

「うん?」

「大きくなったらボクが西の国に行けばいい。書物が手に入るかもしれない」

「危険だぞ」

「強くなればいい」

「……その場合は、村の大人たちに(きた)えてもらいなさい。どこまで強くなれるかは、努力しだいだな。それと、死んでも面倒は見切れないからな」

「分かった」


その後、ひとしきり会話をしてから俺は両親のもとへ戻った。

感想で指摘を受けてここに書きます。

今回の殺人事件は後の物語に影響はありません。

一見平穏な時代で生活をしている主人公の周りでも、物騒な事件が起きることを知ってもらいたくて書きました。

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