逮捕
人間は生きていく上で必要なことをしなければならない。
それは食事であったり、睡眠であったり、排尿排便であったり。
この村では共同便所が幾つかある。
ところ構わず排泄行為をしていたら、村中が臭くなって生活どころではなくなるからだ。
夜中、就寝中だった俺はゴサクに起こされると、部下たちと共にとある場所へ向かった。
足音をなるべく立てないように歩き、目的地の前の家の陰に隠れていた部下と同じように身を隠す。
家の向こう側の様子を伺う。
月明かりに照らされているとはいえ、暗くて分かりにくい。
じっと目を凝らしていると、共同便所のある方から誰かが歩いてくるのが見えた。恐らく尿意で目を覚まし、用を足したので家に戻るのだろう。
ゴサクに確認した部下は表に飛び出した。
「女、待て」
「っ、誰だい?」
女はいぶかしんだが、それが誰か認識したのだろう、ひっと引きつった声を上げる。
「お前、沼の化け物……!」
「足りない」
おどろおどろしい声に女が怯える。
「……え?」
「あの女だけでは足りない。お前が欲しい」
「そんな、何言ってんだい」
女は憤慨した。
「あのとき、サヨちゃんを捧げれば見逃してやるって言ったじゃないか」
「気が変わった。もっと欲しい」
「こ、この……!?」
女の反応に変化が起きる。部下は女の対応を待つ。
「…………お前、誰だい?」
「俺は神だ」
「嘘言いな! お前、沼の奴じゃないだろう、正体を見せな!」
このときになって、付近の住民が起き出してきた。そろそろ頃合いだろうとゴサクたちは姿を現した。
「あんたら……!」
「こんばんは。役人のゴサクだ。まず最初に騙してすまない」
ゴサクに合図された部下は毛むくじゃらの外装を外して半裸になる。女は狼狽した。
「さて、君たちが沼で何があったのかを話してもらおうか」
「……分かったよ」
長老の家に連れてこられた女の名はアサと言った。アサが語ったのは概ね俺が予想した通りのものだった。
「タニシ取りをしていたあのとき、葦の陰から毛むくじゃらな奴等が出てきたんだ。そして、偶々(たまたま)近くにいたサヨちゃんが捕まって」
「取り返そうとか思わなかったのか?」
「冗談! 奴等気味悪かったし、手に槍を持っていたし」
「槍の穂先は石かね?」
「役人さまの青銅のやつとは違って、石器だったね」
「奴等は何人いて、何を言ってきた?」
「五人。サヨちゃんを捕まえながら『この娘を生け贄に捧げる。もし邪魔をしたり誰かに話せばお前たちに祟りが下るだろう』って言ってたよ」
「つまり、脅されていたわけか」
「そうなるね。……ところでさ、その毛むくじゃらの、一体何なんだい?」
「ああ、これか。熊の毛皮だよ」
「熊ぁ?」
「伝を使って用意した。恐らく、犯人たちもこれと似たような物を持っているはずだ」
アサが沼の化け物と勘違いするほどの出来栄えだ。
「でもさ、犯人たちが捨てちゃったりしてないかな?」
「それはない」
俺の疑問をあっさり否定したゴサクは立ち上がると、部下たちに行くぞと命令する。
「どこに行くの?」
「犯人を捕らえに」
「ボクも行く」
「あたしも」
こうしてゴサクに俺とアサがついていくことになった。
捕り物は大したものにはならなかった。
部下を引き連れ、犯人たちそれぞれに会いに行った目の前で、
「今回の沼での殺人でお前を逮捕する」
と言っただけである。
反論しようとした者は熊の毛皮を見せられると大人しくなった。
アサは当初、犯人たちに殴りかかったが、ゴサクに諌められた。
こうして五人の少年が逮捕された。




