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10歳からの数年、浜辺の村を出て:ローザ

「ラフィンと離れ離れになったのは、あの浜辺の村から別の街に移されてすぐなの」

 そう、ローザは話し始めた。


 10歳のあの日。

 ルーフスとひきはなされ、ラフィンと二人、初対面の帝都の兵士に連れられて、4年間を暮らした浜辺の村を後にした。

 村から少し街道を進んだところで、別の馬車が待っていた。前にその馬車、後ろに荷物を載せた馬車と二台の馬車にはさまれて、まるで護送される囚人のように数日旅をした。

「嬢ちゃま、ほら、あちらに鹿が歩いていますよ」

 不安な旅の間、銀髪の執事はいつもの笑顔でローザに話しかけ、気を沸き立たせてくれた。

 ……大丈夫。ラフィンがいるもの。ずっと一緒にいてくれるもの。

 ラフィンの上着のすそを握り、ローザは自分に言い聞かせた。

 ついたのは少し大きめの街で、その外れの大きな館の前で、5人の使用人が待っていた。

「ようこそおいでくださいました、ローザヴィ様」

 彼女たちはそう言って、礼儀正しく――だがどこか警戒した態度で、頭を下げたのだそうだ。

「今日から、ここでお暮しいただきます。必要なものはすべてそろえてございますが、不足がありましたら、なんでもお申し付けください」

 広い玄関前の狭い庭で、ローザは建物を見上げた。ずいぶんと古そうな屋敷だったが、作りはとてもしっかりして見えた。

「お屋敷の中をご案内いたしますか? それとも、少しお休みになりますか。食事の準備も、整ってはおりますが」

 5人の一番前に立つ女――執事だと後でわかった――が尋ねてきて、ローザは少し考えた。

「少し、休みたいです」

「承知いたしました。お部屋にご案内いたします」

 そして後ろにいたメイドに「お茶を」と命じた。

 屋敷の中に踏み込むのにひどく勇気がいって、ローザは斜め後ろに立つラフィンの手を握った。優しく握り返してくれたラフィンが、

「立派なお屋敷でございますねえ、嬢ちゃま。

 二階のあの部屋は、多分図書室でございますよ。どんな面白いご本があるのでしょうねえ」

 明るい声で言った。

 それだけで、ローザはなんだか安心した。

 ……大丈夫。姉さまもルーフスもいないけど、ラフィンがいるもの。何も怖くないもの。

「……お部屋にご案内する前に」

 女執事が振り返って言った。ラフィンの顔を見上げ、一つ息をつき、

「あなたの執事の任が解かれました。申し訳ないけれど、お屋敷には入っていただけません」

 ローザは血の気が引くのを感じた。ラフィンは、ほんの少し目を細めただけだった。

「待って! どうして?!」

 女執事にくってかかった。

「どうしてラフィンにお暇が出されるの?! ラフィンも一緒じゃなきゃいや!」

 女執事はぐっと唇を引き結び、

「陛下、からのご命令です」

 ごく小さな声で言った。

 ……お父様が!? お父様が、私とラフィンを引き離そうとしているの?!

 思わずラフィンの顔を振り仰いだ。彼は、いつもの笑顔を変えず、何か考えているようだった。その左腕を両手で抱え込んだ。

「絶対にダメよ! なら、私も一緒にお屋敷を出ていく!」

「なりません、ローザヴィ様」

「いや!」

 腕にしがみついたローザの頭を、ラフィンがそっとてのひらでなでた。横にひざをつき、

「嬢ちゃま、どうやらお別れのようです」

 ローザは愕然とその顔を見返した。

「ここの方たちも、悪い方ではないようですよ。嬢ちゃまがもしお腹を空かせて到着されたらと、ご飯を用意してくれていたようですから。

 ラフィンほど上手にはオムレツが焼けないかもしれませんが」

「いや! ラフィン、私を置いて行かないで!」

 強く腕を抱え込んだローザの頭を、ラフィンはなだめるようになぜる。

「嬢ちゃま。姫様からのお手紙にも、お父様のおっしゃるとおりにするようにとあったでしょう」

 そうだった。でも、こんなことまで予想してはいなかった。

 顔を上げたローザに、ラフィンはいつにもまして優しく微笑んだ。

「最後の別れではありませんよ、嬢ちゃま。またお会いしにまいりますとも。ここの方たちの言うことをよく聞いて、立派なレディにおなりなさいましねえ」

 横で黙っていた女執事が、分厚い封筒を差し出した。

「陛下からの特別のお給金です」

「ではそれは、嬢ちゃまのウェディングドレス用の貯金に」

 ラフィンはおどけて受け取らなかったが、女執事は無言でさらに封筒を突き付けた。ラフィンは困り笑いになり受け取ると、

「嬢ちゃま、おこづかいになさいまし。おやつばっかり買ってはいけませんよ」

とそのままローザに差し出してきた。

「受け取れないわ、ラフィン」

 戸惑って首を振ると、ラフィンは微笑み、ローザの手を取って封筒を握らせた。

「では、またお会いしに来る日まで預かっておいてくださいまし」

 それから女執事に向き直り、

「嬢ちゃまのこと、よろしくお願いいたします」

 深く頭を下げた。女執事は、暗い顔で黙っていた。

「ラフィン、きっとよ。きっと、会いにきてね」

「ええ。きっとですとも」

 いつもの過剰なほほえみを残し、ラフィンはローザを一人置いて、悠然とその場を去った。


 ラフィンの言うとおり、その屋敷の者たちは優しかった。

 ローザの立場を知り、距離を取る様子はあったが、一人残された少女をひそかに気遣って、何もかもが行き届くようにしてくれるのがわかった。

 専門の家庭教師に学問や音楽を教わり、時には山野に遠乗りに出かけたりという、これは「姫」としての教育なのだろうかと思うような日々を過ごしながら待ち続けたラフィンは来てはくれず、姉が姿を現すこともなかった。


 1年がたったころ、やはりラフィンとはあれでお別れだったのだと、ローザはあきらめをつけ、そしてそこで一つの秘密を持った。

 書庫で見つけた符術の指南書を、こっそりと自室に持ち帰ったのだ。

 特殊な手順で清めた紙に、さまざまな呪を込める。治癒の呪。雷の呪。炎の呪。目くらましの呪と、込められるちからは様々だ。呪は紙に焼き付き、文字が並んだ紙に見えるようになる。これを符と呼び、掲げたり投げたりと、発動のための動作を行えば、込められた力が解放され、発動するのだ。

 ためしに作ってみた符は、予想以上の効果を上げた。ろうそくほどの火を作るはずの符が、たき火のように燃え上がったのだ。呪力の込め方も、すぐに理解できた。

 皇帝の血を継ぐ者には、すぐれた符の才能を持つことが多いと聞いていたが、本当にそうだったのだ。ローザは驚き、

 ……もっと、符の力をつけよう。

 そう心に決めた。

 ……ルーフスだって、剣の修行をしていた。私もルーフスみたいに強くなりたい。

 ……姉さまともう会えなくても、ラフィンともう会えなくても、一人で生きられるように。


 急に何もかもが変わったのは、さらに2年が経ったある日だった。

 じき昼になろうかという時刻、教師にピアノを習っていたローザのところに、屋敷のメイドの一人があわてた様子で駆けこんで来た。

「ローザヴィ様、今、帝都から急使が」

 窓から見下ろすと、玄関の前に見覚えのない兵士たちが整列しているのが見えた。完全武装した10人以上が、物々しい空気を振りまいている。

「今すぐに、帝都へとお連れする任務を授かってきたと言っております。執事が止めようとしてはおりますが」

 うろたえるメイドの声を押しのけるように、階下から言いあいの声が聞こえてきた。

「今すぐローザヴィ様のところに連れて行け!」

 怒鳴る男の声と、

「ローザヴィ様にも用意というものがございます」

 強く言い返す女執事の声だ。

「陛下のご命令に逆らうか!」

 兵士の強い声にローザは青ざめた。

「すぐに支度して、自分で降りていきますと伝えてください。だから、決して屋敷の人たちに乱暴はしないでって」

 最低限の荷物をカバン一つに詰め込んで階下に降りたローザに、兵士たちは表面だけは丁寧に、しかしとにかく早く屋敷から連れ出そうとする乱暴さがすけて見える態度で、皇帝からの命令書を見せた。

「わかりました。お父様のおっしゃるようにします」

 すぐさまローザ一人を馬車に乗せようとする兵士たちに、女執事は自分も付き添うと言い張った。

「殿方しかいないではありませんか。陛下のご息女に、女手のないご不便をおかけする気ですか」

「仕方ない、連れて行け」

 隊長らしき男がそう言い、女執事も馬車に乗せられた。

 ……女執事の一人くらい、いつでも始末できる。

 兵士たちの目がそう言っているようで、ローザには恐ろしかった。

 となりで女執事は唇を引き結び、スカートのポケットを抑えていた。そこに鋭くとがれた短剣が隠されているのを、ローザは知っている。

 ローザもまた、コートのポケットにそっと手を入れた。作りためた符を、あるだけつっこんで来た。兵士たちが女執事に危害を加えようとしたら、どうあっても止める。

 ……もしかしたら、危害を加えられるのは、自分の方かもしれない。人里を離れたあたりで、ぎらぎら光る刀を掲げた兵士が馬車の戸を開け、「陛下のご意思だ」と言わないと、どうして言いきれよう。


 そんな緊張感に満ちた道行は、長くは続かなかった。屋敷を出て街を離れ、森の間を抜ける狭い道にさしかかったあたりで、急に馬車が止まった。

「そこをどけ!」

 前方から怒鳴り声がして、ローザは何事かと、御者台の方の小さなのぞき窓に顔を近づけた。

 御者の背が見えた。馬の頭も見えた。前を行く騎馬の兵士の後ろ姿も見えた。そしてそれらよりも先に、少女が立っていた。

 ローザは目を見開いた。

 ……姉さま!

 兵士の怒鳴り声など気にもしない様子で、街道の真ん中にしなやかに立つその姿は、7年前に別れた時のままの姉、イリスだった。

「その子を迎えに来たの。渡してちょうだい」

 西風に柔らかな髪をなびかせ、姉は笑っていた。

「そうね、馬車はあった方が楽だわ。馬がおびえると面倒だから、全員そこから離れてどこかへ行ってちょうだい」

「黙れ!」

 先頭に立つ騎兵が叫んで斬りかかり、そして血を噴き上げて倒れた。

「もう、だから言ったのに」

 イリスはいたずらっぽく笑っている。

 ローザは息をのみ、動けなくなった。

 ……今、姉さまが?!

 ……まさか。そんな、まさか。

 イリスがもう一度その手を振る。また別の騎兵二人が、血に染まって馬から転がり落ちた。

「ローザヴィ様、あれは化け物です!」

 女執事が小声で叫んだ。外で、「おのれ、降魔か!」と叫ぶ声と、金属の響きが聞こえた。

「あの者らが闘っている隙に逃げましょう。よろしいですか、とにかくまっすぐ森の中へ」

 女執事が指した指の先で、馬車の戸がはねとび、次いで馬車の四方の壁もはねとんだ。

「ひっ……!」

 悲鳴を漏らしつつ、女執事は短剣を引き抜き、扉の方に突き出した。――その手が、外からがっしりとつかまれる。

「嬢ちゃま、お久しぶりでございます」

 もう床しか残っていない馬車の外、道に立って笑っていたのは、ラフィンだった。

「ラ……!」

「ああ、何と大きくなられて」

 3年ぶりに見る執事もまた、あのころと全く変わらない姿をしていた。手をふりほどこうと顔を真っ赤にしている女執事にかまう様子もなく、

「姫様がお迎えに来てくださいましたよ。さあ、ラフィンと一緒に参りましょう」

 そう言ってにこやかにほほ笑んだ。

「ラフィン! 姉さまが……」

 その時、また断末魔の悲鳴が上がり、ローザは身をすくませた。

 ……姉さまが、人を殺している……!

「貴様!」

 横手から、兵士がラフィンに斬りかかった。彼はその剣を横にはじき、間髪入れず相手の腕を片手でつかんで放り投げた。人ひとりとは思えぬほど簡単に、兵士の体は森の奥へと放物線を描いた。

 ラフィンはただ苦笑する。

「嬢ちゃまにあまり血を見せたくないのに、邪魔なまねを」

 片手でそれをしながら、もう片手では女執事の必死の抵抗を軽々と押さえつけている。

「ローザヴィ様、そちらからお逃げを!」

 女執事が、つかまれた手を必死でひねりつつ叫ぶ。

「こやつは本物ではありません! 化けているだけです!」

 ローザははっとした。きっとそうだ。自分をさらうために、符で姉と執事の姿に化けているだけに違いないと。ならば。

「……一緒に行きます。だから、その人を放してあげてください」

「ローザヴィ様?!」

 女執事は目を見開き、ラフィンはわずかに目を細めた。

「……嬢ちゃまを大事にしてくださったようですから、殺すつもりはありませんよ。わたくしに限っては。

 姫様が遊び終わる前に、おとなしく引いてくださいませんか」

 後半は女執事への言葉だった。「ふざけたことを!」と女執事は目を吊り上げる。ローザはその肩にすがった。

「お願いです、言うとおりにしてください」

「ローザヴィ様、なりません!」

 強く言う女執事に、ラフィンは目を細める。そして、

「やれやれ」

 つぶやくと、いきなり女執事を放り投げた。先ほどの兵士よりさらに遠く、森の木より高く。

「ああ!」

 思わず叫んだローザに、ラフィンはいたずらっぽく笑って見せた。

「心配いりませんよ、嬢ちゃま。干し草の山がある場所に落ちるよう投げました。スリ傷くらいはできるかもしれませんが、まあ許してもらいましょう」

 本当であることを祈るしかない。そして、彼女が安全圏に消えた以上、おとなしくしている理由はなかった。ローザはコートのポケットに片手をつっこみ、身構える。

「あなたはラフィンではないわ。だれに言われて私をさらいにきたの?」

 彼はあの過剰な微笑みになった。

「ラフィンでございますよ、嬢ちゃま。信じてもらえないのは当たり前ではございますが、どんなにかお会いしたかったか」

「なら、どうして姉さまの偽物と一緒に来たの」

 ローザは鋭く相手をにらんだ。

「ラフィンは、私たちのためなら人と戦ってくれるかもしれません。でも、姉さまはあんなふうに人の命を奪ったりしないわ!」

「あの方もまた、本物の姫様でらっしゃいますよ。嬢ちゃまのお姉さまの、イリスリール姫様でございます」

「違うわ。本物の姉さまなら、もっと大人になっているはずだもの。幻術だからこそ、私の記憶にある姉さまの姿しか映せなかったのでしょう!」

 おや、とラフィンは口を開けた。

「なるほど。筋の通ったご推測。嬢ちゃまは本当に賢くていらっしゃる」

「本当ね。感心してしまったわ」

 横手から、心底感嘆したような声がかかった。

 おびえきって棒立ちになっている馬の向こうから、イリスが――イリスの姿をした何者かが――ゆっくりと歩み寄ってくるところだった。

 そのほかに、立っている人間の姿はない。ただの一人も。

「ローザ……」

 彼女は小首を傾げ、ローザの顔をとくとくと眺めた。

「大きくなったわねえ」

 一言つぶやき、こちらの顔を見つめてじっと黙っている。

 ローザにはそれが、6年も離れ離れでいた妹との再会を喜び、離れていた悲しみを思い、成長した嬉しさとそれを見守れなかったさびしさとが胸を満たしている、そういう風に見えた。そう見えて戸惑った。

 まるで、本物の姉のようだと思えたのだ。

 ……いいえ、違う。だまされてはダメ。

 ローザは、ポケットにつっこんでいた手を素早く引き出した。

「正体を見せなさい!」

 とっさにラフィンが、イリスを背にかばった。その彼の眼前で、呪符が発動する。閃光がその場を満たし、

「ぐぁっ!」

 ラフィンの苦鳴が聞こえ、ローザは心臓が凍る思いを味わった。

 ……違う、あれはラフィンではないの!

 パキンと何かが割れるような音がした。光が突然消え失せ、後には、ひざをついたラフィンと、何かを払いのけたような姿勢のイリスが残っていた。

 ローザは愕然とした。

「……どうして、目くらましの術が解けていないの」

「術など使ってはいないからよ、ローザ」

 イリスが、イリスの姿のままの何かが、優しく微笑んだ。

「すごいわねローザ。ここまでの符術を身につけているなんて。ねえラフィン?」

 笑顔を向けられたラフィンは、ひざをついたまま、右手で自分のほほを覆い、笑顔らしきものを浮かべた。

「……いや、まったく、鼻が高いことで……」

「!? ラフィン!」

 右手で隠そうとしているその頬が、焼けただれたようになっている。

「ご心配には及びませんよ、嬢ちゃま」

 彼は顔の左半分だけ、笑って見せた。昔、いつも見せていた、安心させようとするときの笑顔だった。だがそれが、苦しそうに歪んでいる。そんなラフィンを見るのは初めてだった。

「このくらいは、『地底』に戻ればすぐ治ります。符一枚でここまでとは、感服いたしました」

「ラフィンの言うとおりだわ。でも……ちょっとまずいわね」

「はい、姫様」

 姉さまは、ラフィンを心配するそぶりも見せない。そのことにローザは背筋を寒くした。

 ……これはやはり姉さまじゃない。姉さまじゃないはずだ。

「今の符で、安定させていた月の道が揺らいでしまったようでございます」

「もう戻らなくてはいけないわね。じゃあローザ、行きましょう」

 幼子の手をつなぐように、右手を差し出してきたイリスに、ローザは再度符を投げた。人の背丈ほどもある炎が吹きあがる。

「もう、ローザ。こんなものは効かないのよ」

 姉のその一言とともに、炎は消し飛んだ。と同時に、暴風がイリスたちへと吹き付けた。炎の符を投げつけると同時に馬車から飛び降り、再度符を投げつけたのだ。

「ローザ、お願いだからいい子にしてちょうだい」

 暴風が振り払われる。その前にもう一枚、また炎の符を投げつけた。合間に耳に届いた声は、少し困って、けれど楽しそうで、昔優しい姉がはしゃぎすぎたローザをたしなめたときのものと全く同じだった。

「姫様、もう時間が」

「そうね。ローザ、またね」

 小さな声が耳に届き、後退しながら符をさらに投げようとしていたローザは見た。二人の姿が、ほどけるように消えたのだ。

 ローザは呆然とその場に立ち尽くした。

 辺りには、壊された馬車と、おびえる馬と、そして兵士たちの躯だけがある。

 逃げなきゃ。

 そう思った。馬車に積んだ鞄をひっつかんだ。

 父がなぜ自分を連れ出したのかはわからない。ラフィンがなぜ、あんなふうになったのかはわからない。あの娘が本当にイリスなのかどうかも分からない。

 けれど逃げなくては。自分は、ここにいてはいけない。

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