再会、警備兵と少女2:フォルティシス
この話はBL風味あり
慌てふためいてメイドを助けに駆け寄る子供二人を眺めながら、フォルティシスはエドアルドに近寄り、その肩に手を置いた。
「そう殺気立つな、エディ。あの子供は傷つけず取っておけ」
「なぜ」
「あの娘が傷つけるなと言ったからだ」
エドアルドは、子供二人をにらみつけていた視線をフォルティシスへと移した。
「この状況で突然現れた、自称お前の妹がか? あんなものをどうして信じるんだ。
腹違いの弟妹が山ほどいても、顔は全部頭に入ってるんじゃなかったのか」
「俺の知らないやつがいたってことさ。……問題は、それだ。いや、もっと大きな問題があるか」
ちらりと、いまだ茂みにささったままのメイドの足を二人して引っ張っているローザの方を眺める。
「イリスリール……」
つぶやいたその瞳が、少し遠くなったような気がして、エドアルドはいらだちを感じ、
「それは、化け物の名だ」
憎悪にざらついた声を出した。
「そうなんだろ?
この一年、降魔を引き連れて何度も現れて、人を死なせている。あの娘がそいつの妹だって言うなら、妹の方も……」
「殺気立つなって言ってるだろ」
フォルティシスはローザの方を眺めたまま、エドアルドを振り返らずに言った。
「今は化け物だが、イリスリールも元々は人間だった。
……はずだ。
俺を含め、異母弟妹の誰も、同じようにはなっていないしな。あの娘も化け物になるとは限らん」
エドアルドはふんと鼻を鳴らす。
「お前はクズだが、一応人間だしな」
「ああその通りだ。お前の飼い主の人間様だよ。覚えの悪い頭に刻み付けておけ、バカ犬。
……だが」
「ルーフス、手の方引っ張ったほうがいいわ!」
「よし、じゃ、せーのでいくぞ!」
必死にメイドを引っこ抜こうとしているローザを横目にして、フォルティシスはしばらく黙った。
「……人間かどうかと、敵かどうかは別の話だ」
そして不意にエドアルドの顔を眺め、左のほほを手の甲で撫でた。
「なんだ、やめろよ」
子どもたちの方を気にする様子で後ずさったエドアルドに笑い、フォルティシスは肩にかけたままの手に力を入れて引き寄せた。耳元に唇を寄せる。
「……今ものすごくお前を抱きたい気分だ。でもまあ、外だしな。勘弁してやるよ」
「死ね、下半身脳」
罵声にまた笑うと肩から手を離し、1歩離れた。
「それより、お前のノロマの騎士団は仕事してるんだろうな?」
「当然だ。
俺の鉄槍騎士団は、バカみたいに突撃するしか知らんお前よりよほど優秀だからな。包囲作戦で、降魔はほぼ片づけた。人の形を取るのがやっとの雑魚がせいぜいだったが。
おまえは、上級の亜神とやったようだな?」
ざっくり切り裂かれた制服に手を伸ばすと、エドアルドはさらに数歩の距離を取った。
「ときどき報告に上がってた、銀髪の亜神だ」
「イリスリールとともに行動しているという、あれか」
「ああ。逃がしたが、次はぶち殺す」
ぎらつくその眼を眺め、フォルティシスは鼻で笑った。
あちらではようやく茂みからメイドの尻が抜けたようで、地面にへたり込んだアルトが、
「一生このままかと思った」
と大げさにため息をついている。
「俺たち、砦に行くことになったんだけど、アルトちゃんどうするの?」
「えっ。じゃあ一緒に……。あっ! 殿下とエドアルドさんもいるんだよね? ええっと……」
うだうだと騒いでる彼らに、
「行くぞ。ついて来い」
とだけ声をかけ、フォルティシスは後ろも見ずに歩き出した。