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少年騎士代理、メイドとの出会い:ルーフス

 草の生える丘を駆けあがると、そこからは完全に山に分け入る獣道になっていた。

 ルーフスは少し立ち止まり、すっかり上がってしまった息を整えながら辺りを見回したあと、耳をすました。

 ……何も聞こえない。悲鳴も、何かが壊れる音も、森の中を這う巨大なモノの気配も。

「くそっ……! 化け物め、どこにいるんだ」

 思わず声がもれたその時、突然、右手の茂みがガサリと鳴り、ルーフスは全身をびくりとさせた。茶色く丸い、小さなものが一つとびだしてきて、ルーフスに気付いて長い耳をピンと立てたあと、あわてて逃げていく。

「なんだ、うさぎか……」

 思わず刀の柄にかけていた手を離し、頭を振った。うさぎ一匹にあれほどびくつくなんて。

 ……しっかりしろ。父上の代理なんだ。騎士として立派に戦わなきゃ。

 ルーフスはぴしぴしと両手で自分のほほをたたき、気合を入れた。

 ……14歳で親の代理でも、今の俺は騎士だ。民を守るんだ。

 ……そうすることがきっと、今もこの帝国のどこかで暮らしているあの子のためだ。

 自分の手を見下ろす。

 ……あれから4年。大きくなった。剣の腕もみがいた。

 ……やれる。化け物とだって、戦える。

 自分に言い聞かせ、14歳のルーフスは前を向いた。

 ……とにかく、もう少し山を登ってみよう。

 そう決め、斜面に足を踏み出したとき、

「ギャーッ!!」

 とんでもない声が聞こえて、ルーフスは再度びくっとした。化け物の叫びかと思われたが、続いて同じ声が、

「助けて! 助けてーっ!」

 叫びながらこちらへ向かってくる。

「人か?! こっちだ!」

 ルーフスは声を頼りに駆けだした。と同時に、

「ギャーッ!」

 茂みをつっきった人影がいきなり目の前に現れ、ルーフスはそれに正面から激突した。きたえているはずのルーフスが全く反応できない高速だった。二人して地面に倒れこむ。

「ギャーッ! ギャーッ! 殺さないで!」

「落ち着いて! 俺は人間だよ!」

 ルーフスをのしかかった状態でまだわめいている相手に、ルーフスは何とか首だけ起こして声をかけた。

 今のすさまじい足の速さなら、俺が行かなくても一人で逃げ切れたんじゃないか? そんな風に思いながら。

「え? 人間? あれ?」

 相手は、めりこむ勢いでルーフスの胸に押し当てていた顔を上げ、こちらを見た。肩を押すと、ようやくルーフスにかけていた体重を移動し、2人は土の上に座り込むようにして起き上がった。

 高速でぶち当たってきた『それ』は、ルーフスより3つ4つ年上に見えた。栗色の髪を高い位置で一つに結び、たれ目がちで、筋肉があまりついていなさそうな細い首から腕、足の先まで、戦闘要員には見えなかった。

 しかしそれ以上に。

 ……なんでこんな場所にメイドさんが?

 森の中には場違いなメイド服で、全身を包んでいた。

 ……このロングスカートで、どうやったらあの速度が出せるんだろう。

 ルーフスがそうやって考える間、相手はぽかんとルーフスを見つめていたが、突然高速で動いてがばっとすがり付いてきた。

「わあっ!」

「帝都の軍の人?! よかった! 襲われてるの助けて!」

「わかった、わかったから放し……。!」

 しげみがまた揺れたのを目にし、ルーフスは思い切りメイドを突き飛ばした。

「きゃっ!」

「さがってて!」

 現れたのは、巨大な虫だった。

 ……間違いない、化け物だ!

 姿自体は、アメンボに似ている。だがその体は、人間よりも大きかった。細く長い6本の足で支えられた体が、ルーフスの頭と同じ高さにある。

「ギャーッ! 化け物!」

 背後でメイドが叫んだが、振り返る余裕はなかった。

 ……すぐに来る!

 どこに目があるのかルーフスにはわからなかったが、巨大な虫はみしみしと音を立て、正確にルーフスの方に向き直った。

 いきなりその前足が持ち上がり、ルーフスの頭めがけて振り下ろされる。

 ――こうだ!

 父に習った通り、その大きな振りをかわして踏み込んだ。柔らかい胴めがけて思い切り剣を振う。ざっくりと切り裂いた返す刀でもう一撃、胴の半ばまで切り裂いた。

 虫はさらりと崩れ落ちた。砂になり、一瞬の後にはチリとなって消えた。これも父に聞いていた通りだった。

「よし。……よし!」

 倒せた。歓喜と安心感が胸を満たした。

 ……やれる。化け物相手でも、俺は戦える。

 ぐっとこぶしをにぎりしめる。

 ……きっと、あの子のことも守れる。

 ……ローザのことも、この手で守れる……!

 もう一度こぶしをにぎりしめて手ごたえをかみしめ、

「あ。大丈夫?」

 背後を振り返ると、メイドは腰が抜けたように地にへたり込んでいた。

「た、助かった……」

 よかった、無事だ。そのことにもほっとする。笑って手を差し伸べた。

「俺、ルーフス。君は?」

 たずねると、相手はハッと我に返ったようで、ルーフスの手を取らずにさっと立ち上がるとササッとスカートのホコリを払い、きちんとしつけられたメイドのように背筋を伸ばして立って、

「私はアルト。

 なんとなんと、帝都の東宮殿下のお屋敷でメイドをしてるの。すごいでしょ」

 立てた人差し指を自分のほほに押し付け、

「可愛いメイドのアルトちゃんって呼んでね!」

 笑顔で首をかしげてみせた。

「わかった。でもちょっと長いから、短くしてアルトちゃんでいい?」

 即答すると、アルトは「え、あ、うん……」と小声になり、

「……ボケとかスルーするタイプ?」

「え?」

「なんでもない。ええっと、ルーフスくんだよね。助けてくれて本当にありがとう」

 平気だ、俺は騎士だから。ルーフスはそう答えた。そして、心の中で付け加えた。

 ……俺ができることは、少しでも多くの人を守ることだけだから。

 ……今、どこにいるかもわからないあの子のために、ローザのために、俺ができることは。

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