臥人館の謎その1【解答編】
『正しき首を据えてこそ、世界は真なる姿を見せる。
すべての世界が取り戻されし時、この扉は開かれる』
俺たちは、その碑文を見上げて考え込んでいた。
今までの5つの部屋にあった首を、正しい台座に移し替えればいい、というのはわかる。
だが、どの部屋に、どの首を置けばいい……?
「……ダメだ。なんにも思いつかない」
エルヴィスが溜め息をついた。
こんななぞなぞめいた問題を解く機会なんてなかっただろうしな、この王子様は。
ここは俺が頑張るべきか。
「……世界は、真なる姿を見せる……」
ということは、今の『世界』は仮初の姿なのか?
そもそも、『世界』って何のことだ?
きっと何かの隠喩なんだ。
考えろ……。
『世界』は何を意味している?
俺は碑文を読み直す。
……正しき首を据えてこそ、世界は真なる姿を見せる……。
だから、つまり、少なくとも。
『世界』とは、『首を据える場所』ではあるわけだ。
そうすることで、『真なる姿を見せる』のだから。
首を据える場所といえば、台座?
……いや。
部屋か。
これまで通ってきた5つの部屋。
愛の間。
壊死の間。
黄泉の間。
波の間。
貝の間。
これら5つの部屋の『姿』ってのは?
どの部屋も、だだっ広いだけで大した特徴はなかった。
だったら……これらを判別する『姿』とは。
『名前』に他ならない。
愛。
壊死。
黄泉。
波。
貝。
……改めて思い出してみると、どれも二文字だな。
これらにどうやって『正しき首』を据える……?
…………ん?
「ん……」
ちょっと待て。
いけるか?
確認しろ、慎重に。
これは……これで。
あれは……これか。
これも……いけるな。
おっ?
「――わかった!」
俺が叫ぶと、エルヴィスがビクッと肩を跳ねさせた。
「え? わかったの? 本当に?」
「ああ。首を動かしに行くぞ」
◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆
結論から言うと。
俺は、こういう風に首を並べ替えた。
愛の間:オークの首
壊死の間:ニンゲンの首
黄泉の間:ドラゴンの首
波の間:ゴブリンの首
貝の間:サイクロプスの首
作業を終えて首の扉のところへと戻っていく道すがら、エルヴィスが尋ねてきた。
「まだちょっと飲み込めないんだけど、どうしてこれが答えなんだい?」
「言葉遊びだよ、普通の」
エルヴィスは首を傾げた。
やっぱり王子様には無縁か。
「キーは、首だ」
「首?」
「そう。腕でも足でもなく、首を設置するというところに意味がある」
俺は自分の首を指で叩いた。
「モンスターの死体は、全部首を残して消えた。そんで、身体が消えた跡には、名前が残ってただろ?」
「うん。血文字のね」
「あれは、身体と名前を対応させろというメッセージだったんだ」
ゴブリン。
オーク。
サイクロプス。
ドラゴン。
ニンゲン。
「名前を身体に見立てたとき、首――というか、頭に当たるのはなんだと思う?」
「……あっ!」
潜入中なのも忘れて、エルヴィスはぽんと手のひらを叩いた。
「――頭文字か! 名前の頭は、頭文字だ!」
「そうだ。『頭』文字って言うくらいだしな」
ゴブリンの『ゴ』。
オークの『オ』。
サイクロプスの『サ』。
ドラゴンの『ド』。
ニンゲンの『ニ』。
「これら5文字を、5つの部屋に設置するんだ。ここまで言えばわからないか?」
「え? えーっと……部屋の名前の頭に付けるとか? 『オ愛』、『ニ壊死』……うーん」
「そこまで思いついたならもう一息だ。俺たちはモンスターの首を実際、どこに置いてきた?」
「どこに……って、台座の上、だよね?」
「そうだ。部屋の中にある台座の上だ。つまり、『部屋』の『中』に『首』を『入れた』」
「あっ。……ああ!」
エルヴィスは得心の声をこぼし、晴れやかな表情になった。
「モンスターの頭文字を、部屋の名前の真ん中に入れるのか!」
「正解」
実際に入れてみよう。
愛の間:オークの首
あい + オ = あおい(葵)
壊死の間:ニンゲンの首
えし + ニ = えにし(縁)
黄泉の間:ドラゴンの首
よみ + ド = よどみ(澱み)
波の間:ゴブリンの首
なみ + ゴ = なごみ(和み)
貝の間:サイクロプスの首
かい + サ = かさい(火災)
これが部屋の名前が二文字だった理由だ。
名前の真ん中にモンスターの頭文字を入れると、違う単語になるのだ。
「『葵の間』、『縁の間』、『澱みの間』、『和みの間』、『火災の間』……これが世界の真なる姿ってわけだな」
説明を終えたとき、ちょうど首の扉に到着した。
扉に据えられていた碑文が光を放ち、消滅する。
そしてゆっくりと、扉が開いていった。
「さて……これでようやく3分の1だな」
「うん。次は胴館だ――行こう!」
短くてごめんなさい。
思いっきり日本語前提の解き方ですけど、異世界の言語で書かれたものをすっごくうまく翻訳してるって体でひとつ。




