第63話 続かせねぇよ
夜空に光る星々の一つが、きらりと一際輝いた。
輝きは治まるどころか強くなり、大きさを増して―――
風を切る音がした。
大きくなっているんじゃない。
輝きを増しているんじゃない。
星が―――落ちてくる!!
ズッウウウンッ……!! と、地面が揺れる。
墜落した星は、わたしと竜騎士の間にクレーターを穿った。
クレーターの底に……誰かが、立っている。
「―――褒めてやるぜ」
銀色の髪が、炎の輝きを照り返していた。
「よく、この世界の誘惑を断ち切った―――アンタが自分でここを出ていく決意をしなけりゃあ、さすがのアタシも入ってこられなかったぜ」
グルルルと、ドラゴンが警戒するように低く唸る。
銀色の髪の、女の子―――
わたしは、その姿を見たことがあった。
14~5歳ほどに見えるその少女を、わたしは知っていた。
彼女は……あの肖像画に、描かれていた……!!
『――――何者ですッ!!』
どこからか、忌々しい声が響き渡る。
少女X……!
『どうしてこの世界に干渉できるんですか……! ここはわたしが因果次元に作った箱庭なのに!』
「どうして? なってねぇな。てんでなっちゃいねぇ―――質問は効率的にやれよ、クソガキ。テメェが本当に知りたいのは、アタシの正体じゃねぇ。ここに来た手段でもねぇ。アタシの目的だろ? なあ?」
巨大な竜騎士に、銀髪の少女は臆することなく対峙した。
……なぜだろう。
わたしは、彼女に会ったことはない。
肖像画で見ただけで、会ったことは一度もない。
なのに、知っている。
この子の姿に……背中に。
確かに、誰かの面影を感じる……!
「今ならわかるぜ。テメェはどうして、バッチリ対策をしてあったのにも関わらず、〈アガレス〉の力を発現した姉ちゃんにあんなにも動揺したのか?」
姉ちゃん……?
それって、わたしのこと……?
「それは―――テメェが、『敵』を持ったことがねぇからだ」
しなやかな少女の指が、しかし力強く竜騎士を指弾する。
「誰かと真っ正面から対峙したことがねぇからだ。自分に都合のいい解釈ばっかりして、存在するはずの敵対を誤魔化し続けてきたからだッ!
だから怯えた! 恣意的解釈の余地のない敵対者が、自分と対等になりうる力を手にしてしまったことを!! 恐怖を与えるばかりのモンスターだったテメェが、あのとき確かに、恐怖する側に回ったのさッ!!!」
『……な、何を……勝手な……っ!!』
「だから、やっぱり答えてやるぜ、さっきの質問。『アタシは何者か?』。ヒントは三つ―――!!」
煌びやかな銀色の髪が熱波に揺れる。
「―――一つ。この銀色の髪」
少女の背後に、異形の姿が揺らめき立った。
ワニに乗った老婆の姿をした、精霊の化身。
〈アガレス〉によく似た姿のその精霊は……!
「―――二つ。この精霊の化身、精霊序列第3位〈揺蕩う夢のウァサゴ〉!」
そして少女は、決定的な台詞を口にする。
「―――そして三つ! ……人の母親をよくももてあそんでくれたな、クソガキ……!!」
それで……わたしも、理解する。
そうだ。
彼女に感じていた、誰かの面影。
誰か、だって?
そんな薄情な言い方があるものか。
だって、その人は、わたしにとって誰よりも恩のある―――
『…………ティ…………』
少女Xの声が、核心を告げる。
『…………ティーナ・クリーズ…………!!』
ティーナ―――
―――クリーズ!
『……永世霊王トゥーラ・クリーズの一人娘……霊王戦に姿を見せなかった、九段の称号を持つ最後の一人……! お前が……!?』
「プロフィールが足りねぇな」
銀髪の少女―――わたしの師匠であるトゥーラの娘、ティーナ・クリーズは不敵な笑みを口元に刻んだ。
「今は、九段でもなけりゃあ精霊術師でもねぇ。世界の解答を手にして即身成仏した因果解脱者さ。そして―――!」
彼女の背後に立つ、ワニに乗った老婆の姿の〈ウァサゴ〉が、天に高く手を掲げた。
その手から光が迸る。
世界を覆おうとする闇を斬り裂くように……!
「―――これからキモいストーカー女の化けの皮を剥いで、世界をハッピーエンドに導く者だぜッ!!」
精霊序列第3位〈揺蕩う夢のウァサゴ〉。
司る概念は――――『真実』。
TO BE CONTINUED TO
真実の輪廻期:奪い取られた初恋を




