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4.森の中で

LOL楽しすぎてまるで進んでいない……!

 タニアと狩りをした翌日。俺は昨日来た森に一人で来ていた。

 短剣こそ昨日と変わりないが、体には革で作られた防具を身につけている。

 今朝、町を出る前にタニアに勧められた武具店に行って購入したものだ。安物だが、着けているだけでも大分安心できる。

 怪我した時のために冒険者用の薬も購入してある。

 どれだけ効くかは分からないが、無いよりはマシだろう。


 一人でここに来たのはスキルの性能を調べる為だ。

 町中でもスキルは使えるのだが、誰もいない場所でゆっくりと調べたいと思っていたのだ。

 今後冒険者をやっていくなら、自分の能力を把握しておくことは重要だろう。

 当面の目標は、可能な限りスキルを覚えて、ダンジョンの奥へ行けるようになることだ。

 スキルはゲームで習得が簡単だったものを覚えられないか試してみるつもりだ。


 こうやって力をつけてダンジョンへ行っても、元の世界へ戻るのは無理なんじゃないかとも思っている。

 だが、それでも何かやることがないか考えている方が今は気楽だった。


「まずは攻撃からだな」


 ギルドにあった訓練場で短剣を振るった時は、少しだけ手応えを感じていた。

 突きをするとき、手が前に引っ張られるような感覚があるのだ。

 この感覚には覚えがあった。最初に蜘蛛を刺した時のことだ。おそらく、あの時にスキルを覚えたのだ。

 斬るように振るっても同じような力は感じないので、覚えたのは刺突系の攻撃だろう。

 剣術などの武器の扱いに関わるスキルもあったはずだが、その類いは覚えていないようだ。

 もしくは覚えてもアシストが働かないのかもしれない。

 全部のスキルがゲームと同じように効果があるとは限らないのだ。


 森の中を歩き回りながら、いくつかの攻撃スキルを試していく。

 時折ビートを見つけては短剣の餌食になってもらい、スキルを覚えていないかを確かめていた。

 短剣で使えた攻撃スキルを試していくが、どうにも覚えた様子はない。

 そもそも短剣は毒やハイドアタックなんかのアサシンらしい技ばっかりだったはずだが、前提となるスキルやアイテムが他に必要なのかもしれない。

 武器が長剣なら覚えられるスキルも増えるのだろうが、それは次の機会だな。


「攻撃技は覚えにくいのかもな……。刺突は強化できたっぽいけど」


 ヒュッと微かに音をさせ、目の前に短剣を突き出す。

 心なしか今朝よりも速く鋭い攻撃になっている。

 試しに木に突き立ててみたところ、根元まで突き刺さった。

 比較できないが、昨日までは硬い幹を貫通できるほどの力ではなかったと思う。

 これもおそらくスキルレベルが上がったおかげだ。


 リグロースワールドでは、スキルを使うほど強くなる熟練度システムが存在していた。

 この世界でもスキルを使う度に熟練度が溜まって、それがアシストという形で現れているのだと思う。


 リグロースワールドのスキルは、一定のスキルレベルを超えると効果が目に見えて上昇する仕様だった。

 例えば攻撃スキルなら、10レベル上がる毎に速度や威力が追加で上昇したりするのだ。

 スキルによっては、同じスキルでもレベルによって全く別モノの性能となるスキルもあったはずだ。 

 そう思えばこの世界の人がスキルを特別な物と思っているのも、そういう強力な効果が付くまで鍛えたスキルが本当の『スキル』だと思っているからかもしれない。


「あとは索敵とか隠密みたいなスキルも覚えた気がするけど、今一分かりづらいな」


 魔物を探しながら森の中を移動しているのだが、妙に魔物を見つけやすい気がする。

 単に魔物が多いという理由もあるだろうが、それにしても山なんて慣れない場所でそう簡単に他の動物を見つけられるとは思えない。

 おそらく『索敵』スキルを覚えているのだろう。

 戦闘に役立ちそうなスキルだし、これも練習していけば効果がはっきり自覚できるレベルになるかもしれない。

 同様に魔物に気づかれずに近づけることも多いので、『隠密』スキルも覚えているのだろう。

 ゲームで言うならハイディングだ。

 武器が短剣なのといい、順調にアサシンに近づいてるな……。


 しばらくして攻撃スキルの習得を諦めた俺は、今度は索敵スキルを強化することにした。

 魔物の気配を探ると、少し離れた木の陰に何かが動く気配を見つける。


 魔物に気づかれないように細心の注意を払って近づく。

 思えば、ダンジョンでは強そうな魔物から隠れるのに常に息を潜めていた。

 そのせいでこのスキルを覚えたのかもしれない。


 身を屈めて攻撃できる近さまで近づく。

 そこから一気に飛びかかって魔物を抑える……って、人がいる!?


「うぉっっ!」

「ひゃぁっ」


 ちょうどビートを狙っていた人との間に割り込んでしまったのか。

 そいつは俺の出現に驚いたようで尻餅をついている。

 どうするか迷うが、こちらに気づいたビートが飛びかかってきた。

 もう手慣れた物で、防具で受けて勢いを殺すと、すかさず足を掴んで仕留めた。

 そこにいたのは、灰色のフードを被り木籠を背負った、中学生くらいの背丈の少女だった。


「すまない、横取りして。そっちもこいつを狙ってたろ?」

「え、えと、わたしは狙ってたわけではないです」

「……そうなのか?」

「薬草を採りに来ただけなので……」


 少女は倒れた拍子に散らばった薬草を拾って、背負子の中へと入れた。

 見れば籠の中には大量の薬草が入っている。

 薬草はギルドでも買取していたはずだ。

 もしかしたら森へ採取に来た冒険者なのかもしれない。


「じゃあこいつは」


 と、仕留めたビートを持ち上げる。


「わたしが仕留めた訳じゃないですし……」

「いらないならいいが、驚かせたみたいだしな」

「それなら、わたしが捌くので、いくらかお肉を貰えないですか?」

「おう、いいぞ。全部持っていってもいい」

「いえ、そこまでは……」


 解体はまだ苦手なので、こちらとしても嬉しい提案だ。

 くすりと笑った少女は、俺が見ている前でどこからともなくナイフを取り出し、手際よくビートを解体していく。

 見た目とは反した手際の良さだ。


「俺なんかよりよっぽど上手いな」

「兄さんの手伝いで慣れてますから」


 量のあるもも肉と毛皮を取ったら、あとは土の中に埋める。

 少し勿体無い気もするが、持ち帰るにも邪魔になるから仕方ない。

 渡された肉と毛皮を適当な葉で包んで皮袋に入れると、少女に聞いた。


「キミはこれから町に戻るのか?」

「はい。もう十分採取しましたから」

「……よければ町まで一緒に行かないか? 他の魔獣が出るとも限らないし」

「いいですよ」


 案外あっさりと頷いてくれて拍子抜けだが、俺としても他の冒険者と話してみたかったのでありがたい。

 俺達は荷物を背負って一緒に歩き出した。

 もちろん魔物の警戒は怠ってはいない。


「さっきは悪かったな。魔物の気配を探ってるうちに注意が疎かになっていた」


 思えば感じた気配も少女のものだったかもしれない。

 もう少し練習しないと使い物にはならなそうだ。


「気配を探るって、そんなことできるんですか?」

「ああ、まあそんな気がするってだけさ。多分スキルだと思うんだけど」

「え、お兄さんスキル持ちなんですか!?」


 こちらが驚くくらい話題に喰いついて来た。

 まあスキルは珍しいってことになってるみたいだしな。


「スキル持ちっていうか、スキルが覚えられないか試しているだけさ」

「そんなことができるんですか……」

「やってみなきゃ分からないからな。たぶんだけど、スキルと同じ行動を何度も繰り返すことが重要だと思う」

「へぇ……、じゃあそれをすれば、わたしでも覚えられるんですか?」

「試してみないとわからないが、採取に関したスキルなら覚えられるんじゃないか?」

「そんなスキルがあるんですか?」

「いや、まあ、あればの話だ」

「ふぇぇ……」


 確か採取なんかの戦闘外スキルがあったはずだ。

 何度繰り返し練習していれば覚えられない事もないだろう。

 なんなら、スキルを覚えられるかこの子に色々試してもらうのもありだな。

 効果があれば俺も試せばいいし、ダメでもスキルを理解する一助になるだろう。


「採取スキルって、どういうスキルなんでしょう?」

「どうって……、採取した物が増えたり、品質が上がったり、とかじゃないか?」

「でも採った物が増えるっておかしいです」

「……だよな」


 ゲームならありそうだけどな……、採取確立が上がるとか。

 この世界なら薬草の群生地が見つけ易くなるとか、そのあたりかもしれない。


「調合とかならありそうだけどなあ」

「簡単な傷薬くらいなら作れますけど、磨り潰して傷口に塗るだけですよ?」

「それも練習すれば効き易くなるかもしれないってことだ」

「そうですか……。今度試してみましょうか」

「そうしてくれ。ついでに効果がありそうなら俺にも教えてくれ」


 雑談をしていたらいつの間にか木々が途切れ、町の門が見えてきた。

 最後にジルと名乗った少女とは、そこで別れてしまった。

 冒険者ならまた遭えるだろう。

 その思っていた機会が訪れたのは、それからしばらく後のことだった。

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