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2.冒険者の町:ルードワード

 崖から拾い上げて貰った俺は、助けてくれた人達についていくことになった。

 崖の上にいたのは5人組の冒険者風の集団だ。おそらくパーティーを組んでいるのだと思う。

 最初は中に日本人の入ったゲームのプレイヤーかと思ったが違うようだった。なにせ言葉が通じないのだ。

 それでもなんとか付いていくことを許して貰えたらしく、こうしてダンジョンの外へと向かって歩いている。

 急勾配の道を上っていくと風が吹いてきた。外が近いのだ。


「****?」

「あ、ああ、心配してくれてるのか? 大丈夫だよ」


 すぐ前を歩く女性に声をかけられたが、何を言っているか分からない。

 女の表情から、かろうじて俺を心配しているのだということは分かる。

 流石に連日歩き通しで疲れているが、これが最後の頑張り所と笑顔を見せる。


 女はこのパーティーで唯一の女性で、女性とはいえ所々に見える筋肉は引き締まっており、俺より強いのだということが軽く想像できる。

 背に弓を背負っているので、もしかしたらあの時蜘蛛を倒してくれたのは彼女かもしれない。


「ははは……。言葉が通じないってのは面倒だな……」

「…………ッ」


 曖昧な笑みを浮かべていると、後ろから舌打ちが聞こえた。

 後ろの男は俺を助けたのが気にくわないようだ。こいつだけじゃなく、他の男達も同じように思っているのが分かる。

 なにせ俺は金を持っておらず、どこの誰だかも分からない厄介者だ。彼らが不満に思うのも仕方のないことだった。

 それに嫌がる男達を宥めて俺を連れてきてくれたのが女冒険者だった。

 唯一の女性に肩入れされているのも気に食わないのかもしれない。


 彼女はそんな男達の方を気にした様子もなく、俺に向かって喋ってくる。

 よく聞くと何度も同じ言葉を言っているようで「タニア」と聞こえる。

 自身を指さしているので名前だろうか。


「タニア?」


 俺がそう言うと女が笑って頷いた。やはり名前のことだったらしい。


「俺の名前はコウだ。コウ」

「コウ?」

「そう、コウ」


 名前を伝え合って喜んでいると、先頭の男がタニアを怒鳴った。

 タニアは申し訳なさそうな顔を見せて前を向く。

 無駄口を叩くなということか。俺も助けられた身で波風を立てたくないので、大人しく口を閉じることにした。



────────



 道中何度か蜘蛛やネズミの魔物が出たが、流石は冒険者といったところか、彼らは危なげなく始末していた。

 倒した魔物は解体して使える部位を取るようだ。俺も暗に手伝えと指図されたが見よう見まねでは邪魔にしかならず、男たちを余計に苛立たせることになった。

 そうして居心地の悪い空気を我慢して歩くこと暫く、ようやく何日かぶりに太陽の下に出た。


「これが異世界……」


 ダンジョンは山を背にして出口があり、そこからすぐに壁に囲まれた街が見えた。

 冒険者達の後について街の入り口である門の前まで来ると街の中も見えてきた。

 道は土のままだがやたら広い。街の中に馬車が走っているのが見える。ゲームでも見たことない大型の鳥も走っていた。


 冒険者達が門を通って中に入っていくが、俺は兵士に止められてしまった。

 俺がまごついている間に、冒険者達は立ち去ってしまう。


「助けてくれてありがとうー!」


 言葉は分からないだろうが最後にお礼を言った。

 雰囲気は悪かったが彼等がいなければ俺は死んでいた。いつか会って借りを返したいものだ。


 俺を止めた兵士が何やら話しかけてくるが、やはり言葉がわからない。

 身振り手振りでなんとか意思疎通を図ろうとしていると、不思議なことに徐々に相手の言っている言葉が理解できてきた。

 耳に入った瞬間に日本語でどんな意味の言葉なのかが思い浮かんでくるのだ。


「なんだ、これ。いきなり言葉が分かるようになったぞ……」

「ん? なんだお前喋れるのか?」


 この兵士の反応、俺の言葉が理解できてるみたいだ。


「俺の言ってる事が分かるんですか?」

「分かるぞ、当たり前じゃないか。喋れるなら最初から喋ってくれよ」


 俺は日本語で会話してるだけなんだが、この兵士には俺がこの国の言語で話しているように聞こえるようだ。

 これが異世界なら魔法ってことか。

 いや、……もしかしてスキルか?


 俺がやっていたゲームは、ネットゲームの例に漏れずスキルシステムがあった。

 戦闘スキルだけじゃなく、生産系のスキルも豊富だ。もちろん魔法もスキルの中にある。

 あのゲームでは一定の条件を満たせばスキルは簡単に習得できるのだ。

 種類が多すぎて全ては把握していないが、言語関係のスキルがもしかしたらあって、それが今習得できたんじゃないだろうか。

 それならこの奇妙な現象も説明がつく。


 それからしばらく兵士との問答を続けた。

 最初の会話のせいで怪しまれていたようだったが、特に後ろ暗いこともないのでなんとか信用してもらえたようだ。

 というより身分を証明する方法も少ないので、見た目や会話で判断する部分が大きいようだ。

 素性も聞かれたが適当に誤魔化した。あまり広めない方がいいだろうと思ったのだ。


「それじゃお前は余所から来た冒険者か。ダンジョンで死に掛けたらしいが運が良かったな。街に入るなら銅貨5枚だ」


 金が必要なのか……、なんとかならないかな。


「金は無くしてしまったんです。他に方法はないですか?」

「本当か? まあ無いなら物でもいいぞ」


 俺はポケットを探るが当然何も無い。

 ダンジョンには売り物になりそうな不思議な色の鉱石などもあったので、拾っておけば良かったと後悔する。

 何も持っていない……と思ったがナイフと胸当てがあったな。

 今は手放したくないがやむを得まい。


「このナイフを預けます。お金が手に入ったら後で返して貰えませんか?」

「ふむ……あまり使ってないな。いいぜ、今日中に来るならナイフも返してやるよ」


 一度街に入って防具を売って、軍資金にするとしよう。流石に街に入る関税くらいにはなるだろう。

 ナイフは返して貰えそうだが、無理でも働いて買えばいい。


「ならこれで。それと防具を買ってくれる店はありませんか?」

「そうだな……」


 店の場所を教わった後、差し出された木札を受け取る。街に入るのに必要な札らしい。

 兵士に案内され、ようやく街の中に入ることが出来た。

 だが雑多な臭いと人にまみれた、活気の溢れる街だ。

 初めての異世界の街に圧倒される俺に兵士が声をかけてきた。


「そういや言い忘れてたな。ようこそ、冒険者の町ルードワードへ」



────────



 街に入った俺は真っ直ぐに兵士に教わった店に向かった。

 途中の屋台から漂う旨そうな匂いについつい気を惹かれたが、如何せん金が無いのだ。

 さして歩くこともなく目当ての店を見つける。

 店の中には武器や防具が飾られていた。客がおらず、代わりにカウンターの中に厳つい顔の親父がいる。ドワーフかと少し期待したが、ただの大柄なおっさんだ。


「この店で装備の下取りをやってくれるって聞いたんだけど、お願いできますか?」


 胸当てを外して店主に見せる。


「……大銅貨2枚だ」


 俺の持ち込んだ装備を見て、厳つい顔の店主がそう告げる。

 貨幣価値が分からないのでどれほどの金額なのかがわからない。


「すみません、大銅貨が銅貨何枚になるのか教えてくれませんか?」

「変な奴だな……。大銅貨は大体銅貨10枚分の価値だ」


 言ってから失敗したと思った。これじゃ相場が分かってないことが丸分かりでいいカモだな。まあ失敗を悔やんでも仕方がない。


 銅貨10枚。入市税が5枚だから街に入ることだけ考えるなら十分な値段だ。屋台での支払いをちらりと見たが、大体銅貨1、2枚の値段だった。入市税を払っても2食分くらいは残る計算だ。


 防具を言い値で売って、すぐさま兵士の所へとって返す。

 銅貨を払うとすんなりナイフを返してもらえた。


 詰め所を出ると、門のすぐ近くにある屋台で大きな串焼きを買った。

 2日ぶりのご馳走だ。手が汚れるのも気にせず両手で持って齧り付く。


「うま……っ!」


 香草と塩がやたらと利いているが、それがひたすらに旨い。体が久しぶりの塩分を歓迎している。

 両手を合わせたくらいのでかい肉だったが、瞬く間に平らげてしまった。


 ──ふう、ようやく一心地ついた。


 腹が満たされて余裕が出来た。

 体は睡眠を訴えているが、先立つものがない今、早めにこの街での生活基盤を整えないといけない。

 そのままだと眠くなるので、街の中心に向かってとぼとぼと歩きだした。


 街は活気に溢れて至るところに露天があり、その前を人が行き交っている。

 ところどころに冒険者風の格好をした奴も歩いている。ダンジョン、冒険者とくれば、おそらくギルドもどこかにあるのだろう。

 冒険者が多いせいか喧嘩のような騒ぎも起きていた。

 兵士がいるわりにあまり治安はよくなさそうだ。

 街の名前はたしかルードワードといったか。

 ゲームではそんな街なかったと思うが……。


 できればギルドを見つけたかったが、すぐに街は暗くなりはじめた。

 宿で残りの金で泊めてもらえるよう拝み倒して、なんとか泊めてもらえた。

 倉庫のような小部屋に薄い毛布一枚があるだけだが、外じゃないだけ十分だろう。


────────


 借りてきた布と水で体を拭い、ようやく落ち着くことができた。

 しばらくはこの街で働く必要があるし、やはり金を稼ぐならやはり冒険者だろうか。

 だが、いつまでもこの街にいるつもりはない。

 できれば日本に帰る手がかりを探したい。

 まずは金を稼いで、図書館みたいなところがあればそこで調べるか。

 それからもう一度ダンジョンの奥に行ってみよう。

 最初は動転して気が回らなかったが、あの場所に何か日本に繋がる手がかりがあったかもしれない。


 正直ダンジョンに行くのは気が進まない。

 死にかけたのだから当たり前だが、戦闘なんてリアルでやるものじゃないだろう。

 街に溢れていた冒険者達も、俺からしたら正気じゃない。

 でもそれとは別にやっぱり俺も興味があるのだ、冒険者というものに。


 ダンジョンに行くなら装備も揃えないとな。

 しっかりした装備をしていけば蜘蛛程度の相手なら戦えると思う。

 それに魔法も使えるかもしれない。どこかで覚えられないか調べておこう。


 他にも考えたいことはあったのだが、そろそろ眠気が限界だった。

 毛布に完全に包まって、硬い板張りの床の上で横になる。

 目を閉じるとすぐに意識は落ちていった。


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