0円物件。
誰もが一度は考える『一軒家が欲しい!』ですが、大抵は『金が無いからむぅ〜りぃ』と諦めてますよね?
もし一等地から外れた場所に庭付きの一軒家が募集に出されたらどうですか?……しかも無料で出ていたら……。
曰く付き物件なんか興味無いよって方は、人間は生きている人より死んだ方が多い事を忘れてませんか?
曰く付きの物件に1ヶ月位住むバイトも有りますからね。そうしたら不動産は曰く付きの話をしなくても違反になりませんからね。
《一軒家に住みませんか?家賃は0円!》
私はSNSで知り合った方から、ある不動産の話を聞いた。一軒家が0円なんて面白い!
所謂訳あり物件だ。
元々霊とかは信じる方では無かったから話を聞いてみることにした。
物件は私が住んでいる地域から200キロ離れた場所にある。
これは私には好都合だった。
現在不便な田舎暮らしから都会に移り住むのだから。
教えて貰った不動産の連絡先に電話をして早速アポイントメントを取り付けた。
しかし、不動産の社員はいい顔はしなかった。
当然か、何せ0円物件なんだから貸す側も嬉しいわけが無い!
「悪いこと言いませんから、他の物件にしませんか?」
店員は始めから貸すつもりは無いらしくファイルを幾つか出して話をそらそうとしてきた。
「これなんかはどうですか?駅からも近いし……これはどうですか?家賃もリーズナブルですよ!」
そうなると私もどうしても実際に0円物件を見たくなった。
「余計にその物件が見たくなりました、内観できますか?」
「お客さん止めた方がいいですよ……本当にお勧めは出来ませんよ?住むのに制限有りますからね……」
観るだけですよ!観るだけですからね!そう話す店員の運転で現地まで移動した。
車中でも、『会社でたらい回ししてる曰く付きで今回はたまたま僕の所に廻ってきただけなんです!』と本当に案内なんかもしたくなかったんだと騒いでいる。
現地に着くと草がアチコチから生えている以外はかなり新しい建物だったが、玄関口にあるものに私の気が引いた。
「あれは?」
玄関口に指を指す。
「ご存知在りませんか、汲み出しポンプですよ。この場所は地下水があって井戸から汲み上げているんです、これだけの為に住む方はどうかと思いますがね……」
「都心部ちかくで井戸って贅沢ですね、景観も悪くないし……何より静かだ」
建物は平屋の一軒家。
部屋は三部屋、押入れ、納屋、庭には井戸があって近隣の家迄100メーターは離れている。
入口に汲み上げポンプは良いですね。
何より都心部だという付加価値から、いい物件だと思う。
「これの何処が問題なんです?」
「ここは借りるのに条件があるんですよ」
「条件?」
1.家のリフォームは自由。
2.井戸の蓋は取らない。井戸を壊さない。
3.日中何処にいても良いですが、夜10時には家にいてください。
4.庭に面した窓にはカーテンは付けないこと。
聞くからに変な条件だがまぁ旅行には行けないけど……これだけの物件はそうそう無い。
「ここ貸して下さい!」
何かに憑かれた様に契約の希望を出した。しかしその時私を見る社員さんの顔色が変わったのに私は気付いていなかった。
トントン拍子で契約書を書き、その日のうちに引っ越しを済ませた。
気になるのは、夜10時に庭で何があるか?
まぁ幽霊の正体見たり枯れ尾花と言うから、たいした事無いだろう。
特にすることも無かったから夜8時を回った頃には夕飯も風呂も済ませてしまい布団の上でゴロゴロしていた。
こうしていると田舎からさらに田舎に来たような錯覚するほど辺りは鎮まりかえっていた。
時計の秒針が刻む音だけが異質な感じで部屋全体に鳴り響いているみたいに思えた。
「ほれみなさい!何事も無いじゃないの!」
時間は10時を過ぎていた。
さっきから私は秒針の音以外の音を聞いていない。
カチコチ……
カチコチ……
カチコチ………
いつの間に寝ていたのだろうか?
外は風が強く吹いている。
建て付けが悪いのか庭に面した窓が、風に合わせてガタガタと鳴る。
外では子供が笑う声がする!
こんな時間に子供を遊ばせるなんて非常識だ!
とにかくなんて事無いんだから寝よう。
ガタガタ……
ガタガタ……
ガタッ
ガタガタッタ………
バンバンバンバンバンバンバンバン!!
バンバンバンバンバンバンバンバン!!
バンバンバンバンバンバンバンバン!!
バンバンバンバンバンバンバンバン!!
「うるせぇ!!!!」
子供を叱ろうと庭に面した窓までやってくるが庭には誰もいない。
結局はその日は何事も無く朝を迎えた。
日中は特におかしな箇所も無いので、庭に有る曰く付きの井戸を見てみる事にした。
庭を歩いていると不自然にトタン板を重ねた場所があり多分アノ下が井戸なのだろうと思い、後は窓近くの庭の草を刈って窓からの見通しを良くした。
「これならイタズラっ子を捕まえられる!」
昨夜の窓を叩く子供に注意をしたいのだ。
そしてそのまま夜を待った。
日が落ちて家の周りには外灯なんかは無いので、遠くに隣の家の灯りが見える程度だ。
ここまでは昨夜と同じ感じだ。
私はカーテンを付けることを許されていない窓の側に椅子を置き座って10時を待った。
置時計がカチカチと音を立てて動く。
9時半を過ぎた辺りから私は焦りともどかしさで落ち着かなくなってきていた。
早々に部屋の灯りを消して寝たふりを決め込んだ。
時計を視ると10時になっていた。
庭の方角からまた子供の声がした。
窓から庭を覗くが子供は視認出来ないでいた。
見えない事が私に不安の陰を落とした。
子供の声がする方角って………。
昼間に見た井戸がある方向だったはず。
夜中に騒ぐ子供だから井戸にイタズラでもするかも知れない!
そう考え出したら不安でソワソワして何とか子供の姿を見ようと色々な角度でチャレンジするが声はしても姿は見えなかった。
ガタッ……ガッシャーン!
外で大きな音がした、本当に外なら良いのだけど聞こえた方向は井戸の方向だった。
しかし私は動けずにいた、決して恐いわけでは無い。契約書にも記載されていた『10時までには家に居ること』これが引っ掛かってどうしようも無いからだ。
もう一度、ドカーン!と音がした。
窓の外を巨大な首の無いてるてる坊主が奇怪な声を出しながら飛んでいった。
家中のあらゆる場所の窓からバンバン!バンバン!と叩く音が響いた。
無論目の前の窓も同様だ。
外には誰もいない……でも手で叩くような音だ。
私は怖くなり後退りを、すると何かに当たった……凄く柔らかい物だ。
私は振り向き下を見た。
小さな子供が私を見上げて笑っていた。
子供の顔は生きた人間のものではない……人間を型どった何か別の生き物のようなきがした。
背筋が凍る感覚を振り切り、私は急いで玄関から外に出て逃げ出していった。アチコチ走り回ってズボンの裾が破けても気に止めなかった。息苦しい……。ネットカフェに飛び込み不動産の営業時間まで待った。
翌朝一番に不動産に電話をすると案の定の答えが待っていた。
「だから止めとけと言ったのに」
「あれはなんなんですか?」
「分かりません……だから曰く付きなんですよ」
「前の方はどうしたんですか?」
「分かりません」
「アレから逃げれるのですか?」
「頑張って下さい」
私は恐怖で携帯を落としそうになる。
私は暫くネットカフェで身を隠しながら大手SNSに登録をして色んな人に話し掛けた。怪しい話ほど人は興味を持つものだ。だから簡単に何人かは詳しく知りたいとReがあった。
『一軒家を0円で住みませんか?』
最後に一本。