15.桜山の熊?
不意にクロカゲが駆け出した。
ジュズとルーマは驚いているが、いつも仕掛けるのはクロカゲだったシロガネは慣れてはいる。
しかし、これまで見たこともない竜相手にいきなり突っ込むクロカゲには驚きを隠せない。
「回復魔法はあまり使わないでよね! そっち優先でターゲットしてくるから!」
あの時の連携を体が思い出し、シロガネも駆け出す。これまでもシロガネはクロカゲと巨大猪や怪鳥、ゴーレムなど自分たちなど比べ物にならないくらいの巨大なモンスターを倒してきた。
竜も、それの応用でいけないか。
シロガネは竜の横に回り込み、出方を窺う。
「あたしも行くぜ!」
「待ってハル! 流石にあなたには強化魔法かけとく!」
ようやくルーマとジュズも戦闘態勢に入る。
クロカゲは果敢にも竜の真正面から斬り掛かる。
まだ届かないうちに竜はクロカゲをターゲットし、大きく吸い込んで火炎を吐き出した。
次の瞬間、クロカゲが消えた。
合わせてシロガネは竜に走り出した。
そして気付けばクロカゲは竜の横を抜けていた。
竜の頭付近にあるHPゲージがわずかに減る。
それに反応した竜は脇腹を斬られたというのに怯む様子もなく、後ろを行くクロカゲに振り返る。
その背をシロガネが斬り付け、クロカゲと同じように走り抜ける。クロカゲより少し多めにダメージが入る。
ダメージの入りが多いシロガネに竜の首が向くのを、クロカゲが斬り抜ける。
この繰り返しがシロガネの言っていた基本的なパーティ戦法『包囲掛かり』である。複数人なら何人でも使用できる戦法であり、安全に攻撃を加えられる戦い方である。
「シロガネ、下がれ」
何度か包囲を繰り返し、シロガネが背中を抜けたところでそのまま走り、距離を取る。
シロガネの方をターゲットした竜の背中にクロカゲが接近。
「スキル『一文字斬り』」
黒刀を正面に構え、言い終えた直後に刀が光り出し、横一線に斬り付けた。刀剣類初歩中の初歩の攻撃スキルである。初歩といえども、SPの消費が少なく、発言から発動までの時間が短く、威力も練度を上げればそれなりで避けられにくく、正面の相手なら複数を攻撃することができる。
初心者から上級者まで使用する者は多い、とても使いやすい攻撃スキルである。
「ハルタマ! サポート!」
シロガネが言ってから走り出す。
攻撃スキルは連続して使えず、また、発動してから数秒の硬直時間が発生する。
味方が複数人いるか、気付かれていない初撃かとどめの一撃にしか使わないのが相場である。
クロカゲに振り返り始めた竜の背中を斬り付け、刀を払った状態のクロカゲを腹から抱えてそのまま遠ざかる。
防御を強化したルーマが大太刀で斬り掛かる。
「なに考えてるの!」
「シロガネ、ここは下がろう」
初歩スキルのため硬直時間が短い。すぐに動けるようになったクロカゲが言うのに、シロガネが目を見開く。
「なんで! これなら倒せるかもしれないのに」
「無理だ。HPを見ろ」
そちらを見ると、またシロガネは驚いた。
いくら初歩スキルとはいえ、クロカゲの放った攻撃スキルだというのに体力ゲージはわずかも削れていない。むしろ、赤のゲージが先程より戻っている気がする。
「『一文字斬り』をしてあのダメージ。そして回復速度。竜の情報も不足している。ここはクエストリタイアして、体制を整えるべきだ」
クロカゲの危惧に頷く。プレイヤーは死んだら装備していた武器をロストしてしまう。三度死んでクエスト失敗したらそのままだ。再びそのエリアを目標地点とするクエストをやれば、ドロップした武器を見つけられる可能性はあるが、この竜の出現条件がわかってない今、それは現実的ではない。
「どうするの?」
「喰らうかわからないが、発光玉を投げてみよう。それで混乱したらさっきの道を降りる。熊がいるかもしれないが、無視して逃げる。あの道が仮拠点まで最短だ」
この難易度の強欲熊なら、ルーマとジュズも逃げられるだろう。クロカゲの提案が一番、生存率が高い。
クロカゲが竜に向かって走る。ルーマに向いているターゲットをこちらに向けるためだ。
「発光玉投げるわ! さっきの道に走って!」
クロカゲが斬るのに振り向いたのを確認してボタンをかちっと押し、ルーマとジュズに言ってから竜の顔面目掛けてテニスボールサイズの黒い玉を投げつける。
2秒した瞬間、眩い光がその場を覆った。