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11.桜山の熊

 ルーマとジュズは、それぞれレベル57とレベル54である。

 レベル1から始まり今のところの最高レベル120前後のDBユーザーの中では、中堅クラスに当たる。

 サクラ周囲のモンスター相手に遅れをとるようなプレイヤーではない。


「にしても、いくつ切っても何も出ないわね」


 シロガネは得物である長剣を腰の鞘に納める。クロカゲもまばらに草の生える地に横たわる桜の木を見つめて、すぐに黒い刀を納刀する。

 桜山に入ってそれほど経っていない。

 クエストの標的となる大型モンスターは指定のエリアを徘徊している。熊に鉢合わせるまで、小型モンスターはシロガネと二人に、クロカゲは桜を探しては切っていく。連携に慣れていないのだから、クロカゲよりもパーティ戦の経験があるシロガネに二人の戦闘を任せていた。


「三十本は切らないとな。10%に満たない確率のドロップかもしれないしな」


 次なる桜に向けて歩き出すシロガネたちに、クロカゲは一番後ろを付いていく。モンスターに視認されると最初に視認したプレイヤーを狙うことは、シロガネとクロカゲは経験から知っていた。なので桜を切るクロカゲを視認されることを防ぐため、モンスターを相手するシロガネたちが先んじて行くのだ。

 決して仲間内三人に遠慮したり、気まずいから離れているわけではない。たぶん。


「ここ最近やれてなかったわけだけど、二人とも平気そうね」


「いやぁ、リンが指示してくれるからな。わかりやすくて助かるわー」


「流石、委員長ね。人をこき使うのが上手い」


「委員長じゃないし、褒めてるのか(けな)してるのかわからないわよ」


 まだ数回、野生の草食獣や狼などを狩っただけだがルーマもジュズもなかなかどうして機敏だ。

 ルーマは陸上部だし仕方ないのかもしれないが、ジュズがこれだけ動けるのは不思議だった。文学少女のくせに。

 シロガネが回避のために敏捷パラメーターをボーナスポイントで多少振るよう、勧めていたのもあるだろうが、回避技術は才能と経験がものを言う。


「褒めてるわよ。クロカゲだって、リンの指示を聞いて動いたりしたでしょ?」


 鼻の上を押し上げる動作をして、ジュズはぴくりと震えた。

 眼鏡人間特有の癖だ。

 ジュズは照れ隠しに土が剥き出しの道脇の森を眺めるが、クロカゲも道のために森がまっぷたつになって解放された午後の青い空を見上げていて気付いていない。

 いつモンスターが出るのがわからないとはいえ、シロガネとクロカゲの索敵パラメーターの高さもあり、余所見をしていても問題ない。


「クエストに何度か出かけたりはしたけど」


「二人だと交代で攻撃して避けてを繰り返すだけだから、単純なのよね。だから、そいつに指示したことなんてないと思うわよ」


 モンスターはプレイヤーひとりひとりをターゲットして、攻撃された威力・回数の割合や回復アイテム・魔法の使用者の有無などで倒すべき優先順位を決めて別々に襲い掛かる。

 シロガネとクロカゲは二人とも近接戦闘型であり、レベルもあまり変わらない。そんな二人が片方に狙いが極端に偏るわけがなく、片方が狙われている間に片方が多くは背中を攻撃し、ターゲットが変わったら逆が背中を攻撃し──この繰り返しがパーティ戦の基本戦法であり安全な戦い方なので難しいことはなく、大型モンスターを倒してきた。


「そもそもこいつ、言わなくても勝手に攻撃するし。攻撃もタイミング良いし。放っておいても大丈夫よ」


「随分高く買ってるなぁ、リン。今度あたしにも売ってくれよ。話が合いそうだしな」


「そうね。1000万G(ジー)くらいが相場かしらね、ハル」


「あたしの所持金、いくらか知ってるか? なんと12Gだ!」


「何をしたらそんなことになるの!?」


「傷薬と携帯食料の乾パンを大量に買っといた! 偉いだろ?」


「水は? まあ、こんなこともあろうかと買っといたけど」


「あっいっけね! さっすがタマや!」


「キャンプに行くわけじゃないのよ! こんなクエ、一時間もかけないうちに終わるわよ!」


 シロガネが大げさに肩を落としてため息を吐く。表現がやや大きめになるこの世界でも尚、大げさに思えるうんざり感が見える。

 ルーマのは天然にしても、それに乗るジュズもジュズである。ジュズは流石に、水を一週間分も買い溜めするような真似はしないが。


「……クロカゲ、なんか怒ってる?」


「別に」


 しばらく黙っていたクロカゲは、シロガネが振り返るのに合わせてまた空を見上げた。

 別に、とは意訳すれば怒っていると言っているようなものなのだが。


「彼、自分をお金に代えられることを不満に思ってるのよ。たぶんね」


 的を射ていたのか、ジュズの言葉に反応せず上を向いたままだ。

 確かに、自身の価値を金で例えられるのはあまり気分の良いことではないだろう、とシロガネも察した。


「ごめん。クロカゲはそんな安くないって意味で言っただけで、あんたの強さはそれ以上に認めてるわよ」


「……十二時」


 クロカゲがシロガネを見たかと思うと、そんなことを呟いた。

 はっとしてシロガネは左腰の柄に手をやる。


「え? 十二時? 今は四時だぜ?」


「違う。十二時方向から来るよ。たぶん、熊」


 一瞬考えて、ようやく二人も前を見た。

 陽気に会話していたが、ここが獣の住む山だと思い出した。

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