10.ぼっちに友達が増えた
「くっ、クロカゲ、です。よろしく……」
誰だコイツ。二重人格なのか。人が変わるにもほどがある。
クロカゲは肩を縮こませて座りの悪そうな顔をしている。
赤い鎧姿の春真と黄色い法衣姿の珠子は、道端で兎でも見つけたような顔をしている。驚いてるが、どこか嬉々とした──新しい玩具でも貰ったような。
サクラの城門付近の馬屋に待ち合わせしたシロガネは、春真と珠子──DBではルーマとジュズがニックネーム──とクロカゲに了承を受けた旨を伝えた。すると二人はクロカゲに会ってみたいと言ったので、断るかもしれないがとメールを送ってみて呼び出したのだ。
「リン。この娘、ほんとに男?」
「タマ、本人の前で言わないでよ。落ち込むでしょ」
もう落ち込んでいます。クロカゲは馬と戯れ始めてしまった。
「お前、その格好カッコイイな! 武士か? 武士なんだろ!?」
ルーマが目をきらきらさせて黒の和服姿のクロカゲを見る。フィールドに出たら大太刀使いの鎧武者になるし、日本史が好きなのがわかりやすい。それはクロカゲも同じだろうが。
「にしても、リンが認めた男がこんな子だったなんて。筋肉ムキムキの人じゃなくてよかった」
「わ、私だって人なりと容姿は気にするわよ」
シロガネはどちらかというと、ゴリマッチョよりも細マッチョの方がいい。他の娘は知らないけど。
「なあ、リン。こいつ強いのか?」
ルーマは遅々として話すクロカゲと会話して、いつの間にか気に入ったようだ。
クロカゲは押しに弱そうだし、振り回されそうな奴だがルーマはいい奴だし、仲良くなれるかな。
「馬鹿みたいに強いわよ」
「リンよりも? リンだって長い間、ここで戦ってきたんでしょ」
「私、こいつに一騎討ちで負けたのよ。クロカゲの方が強いわよ」
「うえぇ!?」
余程意外に思ったらしい、ルーマが吐いたような声を上げた。ジュズも目を見開いてクロカゲを返り見る。
再び注目されたクロカゲは、また萎縮してしまった。どうもジュズのことが苦手らしい。遠慮のない視線と言葉は、人付き合いの少ないクロカゲには耐性が低いのだろう。
「あ、あれは初見だったし。強いと思ってシロガネにいきなり挑んだし」
一応、フィールドで一騎討ちを吹っ掛けたことは申し訳なく思っているらしい。
一騎討ち──つまりはプレイヤー同士の対戦は、一部を除く室内以外はどこでもできる。フィールドで一騎討ちをして倒された側は、自分の指定している拠点に強制的に転送される。
これは鷹笛を除く迅速な拠点移動の、ほとんど唯一の手段だ。一騎討ちの設定にもよるが、通常は勝利者に所持金の二割を奪られるので、それを利用する者はあまりいないが。
「まっ、これからフィールドに出るんだし。その腕前も見れるでしょ」
「なんのクエストだっけか?」
「強欲熊の討伐ね。攻撃は無属性だから装備変えなくていいし、あまり動きも速くないから。あんたたちの練習にはちょうどいいでしょ」
強欲と名の付く通り、食い意地の張った大きな熊で肉食だけでなく蜜のある木を平らげてしまう恐ろしい熊だ。
「リンとクロカゲさんには、肩慣らしにもならない相手?」
「油断しなければ、まあ」
ようやく普通に喋れるようにはなったが、まだクロカゲの口調には緊張が見える。
戦闘ともなれば、それも豹変するだろう。
「悪いわね。あんたのクエに付き合うはずだったのに、別のに誘って」
「いや、行き詰まってたし。気分転換にはいいだろ」
シロガネにはすらすらと話す辺り、人馴れには時間がかかる男なのだとわかる。
「場所は桜山ね。ついでに枝がドロップするか確かめてみましょ」
桜の枝がこれで手に入れば僥倖だ。それをお供えしたところで、クエストが進行するかは別として。
桜山はサクラより東の方にある山。それほど離れてはいないため、クエストを受注して徒歩で四人はサクラを出発した。