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9.ぼっちは一人にされると拗ねる

「えっ。あ、そう……わかった」


 ああもう、やっぱりこうなった。というか、しゅんとした顔が可愛いなこの野郎。ほんとに男か。私が男でお前が女だったらほっとかないぞ。

 放課後、ちょっとした部活の春真を残して珠子と下校。珠子とも別れて自宅に帰り、早速DBにログインしてクロカゲをサクラの喫茶店にメールで呼び出した。


「今、行き詰まってるし。どうせこんなクエスト、俺ら以外誰も受注しないだろうし。俺も一狩り行ってくるよ」


 つらつらと言いつつ、癖のステータス確認を始める。

 これでは私が悪いみたいじゃない、とシロガネは思った。しかし、まだクリアしていないのに断ったのはシロガネで、しかもパーティ限定クエストだ。ぼっちクロカゲ一人ではできない。

 露骨に落ち込むクロカゲもクロカゲだが。どれだけポーカーフェイスが苦手なのだろう。


「ごめん。明日は大丈夫だと思うから」


「気にしないでいい。都合が良かったらメールしてくれればいい」


 DBをプレイする人のほとんどは、それ用に作ったアカウントの連絡先を携帯に持っている。それでもシロガネは春真と珠子、クロカゲの他に数人しか連絡先を交換していないが。まあ、クロカゲはもっと少ないが。


「コーヒー代、ここに置いとくね」


「えっ、あっ、いやっ」


「私が呼び出したし、今日の約束すっぽかすし。これくらいさせて。じゃあ、また明日っ」


 クロカゲが狼狽えるのも構わず、席を後にする。

 シロガネが走り去るのを見つめて、我に返ってテーブルに置かれたお金を所持金に入れておく。

 お金はそう多くない額なら、こうして物体化して渡すことが可能だ。あまりにも多かったり、所持金の何割以上を物体化させたり、連続して何度も物体化することはシステム的に禁止されていてできない。女性のプレイヤーに貢ぐことやカツアゲなどの行為を防ぐためだ。


「……どうしたもんかな」


 せっかく奢ってくれたコーヒーだからとちびちび飲んで、ふと独りごちた。

 こうなってはレベルを少しでも上げるために、狩りにでも出かけるしかない。

 ログアウトしても姉妹たちはいないし、母と話すのもそもそも会話が苦手だ。母は気にしないで家事をするのだろうが、暇を持て余すクロカゲは身の置きどころがない心地だ。


「そういえば、英語の訳をやらなきゃいけなかったかな」


 また独り言を呟く。クロカゲの独り言は癖である。学校では流石に漏らさないようにしているが、ゲーム内や家では思わず出てしまう。

 サクラを拠点としているプレイヤーは少なく、喫茶店にはプレイヤーの姿はない。NPCの店員や見栄えをよくする客だけだ。聞く耳などない。それでも、ぼそぼそ言っている近くを店員が通る時は、クロカゲの肩はびくっとするが。


「まあ、課題は姉さんたちに手伝ってもらうとして。やっぱり一狩り行きますか……一人狩(ひとりか)りだけに」


 言っといて悲しくなり、クロカゲは冷め始めたコーヒーを一気に飲んでから喫茶店を出た。

 さて、上位レベリング十八番のダンジョンに行こうかと思った矢先、不意にぴこーんという音が聴こえた。軽く見下ろす位置に封筒のマークが浮かぶ。メールをアカウントが着信したのだ。

 ひとまず邪魔にならぬよう、店の扉から一歩脇に避ける。まあ、入店する者はいないが。

 白い壁に寄りかかり、アイコンをタッチすると宛名はシロガネだった。友達にお誘いをすっぽかされたのだろうか。宛名をまたタッチしてメールの本文を見て、クロカゲは思わずゴミ箱のマークをタッチしかけた。

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