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暴走少女の相手は面倒だ 2

「ここ……か」

 安全運転で三時間かけてたどり着いたのは海と山が見渡せる一等地に建てられた一軒家。かなり大きくて何人でも住めるのではないかと思うほど。金持ちの道楽としか思えない。

「ほえ~凄いっすね~」

「だな。まあ、後ろが、な~」

「すね」

 別に建物の後ろに何かがある訳ではない。正しい意味で後ろに問題があった。

「信也さ~ま~」

「うるさい。離れろ」

 暴走少女に絡まれる信也。

 その姿にため息しか出てこない。流石に同じ車には乗らなかったのだが、車から降りた瞬間からこんな状況だった。

 知らなかったことだが、暴走少女こと夢美は先生の姪っ子だったらしく。親不在の間預かっているそうだ。そのせいで、今回の旅行にも同行することになってしまった。夢美が絶対来ないように立てたはずの合宿計画が一瞬で意味を無くしたのだが、それについて先生を責めるわけにもいかないのでここはあきらめるしかないのだろう。

「むー」

「落ち着くべきだ。雪」

「そうそう。今怒っても意味はない。怒るなら二人きりの時にしたほうがいいよ。雪姉」

 降りてからすぐに抱き付く姿に怒ったように頬を膨らませている。それを宥めるように両隣で舞さんと綾が言葉をかけ続けている。車に乗っている時は普通だった。それが、降りてすぐこの調子。この状況で本当にまともな合宿ができるのかが不安だ。

「大丈夫っすかね~」

「亮太さんが一番心配です」

「酷いっす!」

 悔しそうに地面に四つん這いになる。

 まあ、妹に心配されるのは精神的なダメージが大きいのだろう。

「そういや、先生は?」

「居ないっすね。どこいったっすかね?」

 気がつけば、Mと先生の姿が消えている。すぐそばに車があるから遠くに行っては居ないのだろうが突然消えられると不安になる。探しに行くべきか迷うところだが、二人ともいい年の大人である。心配しなくても用事が終われば帰ってくるだろう。

「まあ、いいか。とりあえず荷物おこうぜ。せっかく海があるんだし」

「そうだな。それに、先に紹介したほうがいい相手もいる」

「紹介?」

「そうだ。この別荘の管理人を紹介しておく。料理と掃除を主に担当してもらう。合宿だから自分たちでやるべきなのだろうが、少し事情があってな。やってもらうことになった」

 こちらが頼んで準備してもらった場所だ。いろいろな事情があっても不思議ではない。無理を通してもらったのであれば、それに準じるべきだ。

「誰っすかね~」

「一言で言うなら、信の知り合いだ」

「信也の?」

 信也に視線を向けるが、歩にまとわりつかれて大変なことになっていてこちらの話に入ってくる気配はない。

 しかし、だ。

「信也くんの、知り合い……女の、人?」

「そうだな。だが、安心するといい。彼女に信をどうこうする理由はない。それ以上に、興味もないだろう」

「?」

 なんでそこまで断言できるのか分からないが、眼鏡の奥にある瞳にはいい得ぬ自信が見て取れた。

「さて、信。そんなところで遊んでないで中に入るぞ」

「遊んでねえ!」

「信也さま~いけず~」

「うがああああ」

 信也の胸元で指をくるくると弄っている歩にとうとう我慢が出来なくなったのか抱き付いている歩を引きずるようにずんずんと歩き始めた。相当ストレスが溜まっているのだろうが、俺たちに何かができるわけではないので見守るのが正解になっている。雪さんが何度か行動を起こそうとしたのだが、そのたびに綾や舞さんに止められた。

 余計なことをして関係をこじらせる可能性があると踏んだのだろう。無理をして近づけば、信也に迷惑がかかる。そのこと状況的に感じ取ったからだろう。

 しかし、どうやって歩を信也から離せばいいいのだろうか?

 方法が全く思いつかない。

 昔だって引き離したことはない。ただ、時間切れになってしまって離れざるおえなくなっただけだった。

 だから、俺がどうこうする方法はない。

「がんばれ」

「応援だけかよ!」

「いや、それしか出来ないし」

「そっすね。おいらも火傷したくないっす」

 少しだけ距離を置く。

「何をしている?」

「そりゃ、危険からは離れないとな」

「ふむ。先ほどから雪姉を止めてはいたが、そんなに危険なのか?」

「ああ、獲物目前のクマのほうが大人しいくらいにな」

「……まるで、想像できないのだが?」

「だろうな」

 可愛らしい容姿をしているにも拘らず獲物目前のクマはやはり想像できないか。だが、一番適した表現がそれなのだ。

「試せば分かるから……亮太」

「まじっすか?」

「亮太さん。わたしも気になります」

「了解っす」

 由佳ちゃんの鶴の一声で敬礼と同時に二人の間に入ろうとした。

「邪魔」

「うぐっす」

 パンっと甲高い音が聞こえ、亮太がその場で一回転する。

 信也の腕に絡めていた手を一方だけ解放し、平手打ちを亮太の頬に入れ込んだのだ。その速度は速く。鮮やか。

 そして、すぐさま腕に絡みついて、「信也さま~」と甘えた声を上げている。

「なっ危険だろ」

「そうだな。独活の大木が、あんな簡単に……」

「酷いっす」

 地面に寝そべりしくしくと涙を流している。

 その頬は赤く腫れ上がり、綺麗なもみじをつけている。こうなることがわかっているからこそ、容易に手を出せないのである。いくら信也からヘルプが飛ぼうとも、彼女が相手である以上は傍観が先に来てしまう。

「これは、酷いな」

「うん。近づきたくない」

「誰かオイラを気づかってほしいっす!」

 亮太の悲しみを完全無視し、危険な野獣が近くにいることに戦々恐々とするだけの俺たちであった。

 合宿は、大丈夫なのだろうか?

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