case.2~シンデレラ~
case.2~シンデレラ~
今夜開かれる舞踏会。
それは王子様が花嫁候補の中から気に入った娘を選ぶために開かれるパーティ。
国中の娘が招待され、パーティ会場は多くの女性であふれかえっていた。
「はぁ…」
「王子、良さそうな娘は見つかりましたか?」
「…はぁー」
「王子?」
「……」
「おーうーじ!」
「な、なんだ!?」
「だ・か・ら、花嫁は見つかったか聞いてんだよ!! ちくしょーめぃ!!」
この王子と齢がそう変わらない従者ヴァイス。
普段は優しく微笑みかける従者だが、かなりキレ者で将来は宰相と言われるほど有能な人物である。しかし、下町育ちのためか時々…本当に時々昔の口癖が出てしまうらしい。まぁ、王子限定だが。
「す、すまん。 ちょっと考え事をしていて」
「ったく。 で、何を考えていらっしゃったのですか?」
「いやー、その…」
「はっきりしろや!」
「は、はい!! その…、お嫁さんどんな子かなーって」
「あぁ、それなら心配なさらないでください。
では、ご説明致しますから指示通りに王子は行動してください」
「え?」
「まず、夜8時頃……パーティが始まってから大分経ちますが
その頃一人の娘が急ぎ足で会場にやって来ます。
その彼女を王子はダンスにお誘いください
散々食事したり、お酒をお飲みになっても構いません。
ですが、彼女の個人情報を聞くことはしないでください。
そして12時の鐘が鳴ると、彼女は慌てて帰ろうとするので
形だけ引き留めてください」
「え、形だけなの!? 止めなかったら意味な」
「ですから、王子。 人の話は最後まで聞いてください。
彼女は王子の制止を振り切るときに、靴の片方を落としていきますから
王子はそれを持ち帰ってくれればいいです」
「それだけ?」
「それだけ、とは?」
「だって、彼女の名前も知らないし
靴だけじゃ探しようないし。
これじゃあ、花嫁なんて見つからないよ!」
「王子、やはり貴方は……おバカさんですね。
私の指示通りに動いてくれさえすれば、素晴らしいお嫁さんが貴方の所に来てくれますよ」
「ほ、ほんとっ!?」
「えぇ」
「じゃ、僕がんばる!」
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このお話は、シンデレラという御伽噺が始まるちょっと前のお話である。
しかしこの物語が後の世に語られることはないであろう。
なぜなら、優秀な従者が
ほら…そこにいらっしゃいますから。