case.1~オオカミ男~
case.1~オオカミ男~
俺は村一番可愛いものが好きな男だ。
男と言ってもまだ10代だし。青春真っただ中って感じだ。
あ、でも彼女いない歴=年齢の俺が威張れるほど
青春を謳歌してるわけじゃないよなー。
俺は普段森に行って薪や木の実を拾い集め、それを妹が町に売りに行く。
そんな感じの日常だが、俺には一つの楽しみがある。
最初に言ったように、俺は可愛らしいものが大好きだ。
フリルの付いたスカートに、真っ赤なリボン、己の身体よりも大きなふわふわの熊のぬいぐるみ。
自分のお小遣いを貯めては、町に行ってそういった可愛らしいものを買っていた。
もちろん妹には内緒だし、村の人は誰も知らない秘密である。
さすがに男一人でそういった女の子らしい物を買うのは、世間体が良くない。
なので俺は町へ行くときは、大きな黒いマントとフードを被り、こそこそと収集していた。
「お兄ちゃん、今日もよく売れたよ! これお兄ちゃんの分ね」
町から帰ってきた妹が今日の売上分を俺に渡す。
このお金なら、明日町に行って収集でもしてこよう。
「それにしても、お兄ちゃん。
また伸びたね」
「あぁ…、そうだな」
妹はこれでもかというくらいに首を天井へと向ける。
そう、こんな変態な趣味を持つ俺は
村一番の可愛い物好きだけでなく、
村一番のデカイ身長の持ち主でもある。
ちなみに、190cmを越えたのだが
俺の背骨は止まるということを知らないらしく、未だに伸び続けている。
「また、ベットから脚がはみ出ちゃうね」
そんな可愛らしい冗談を言う妹は、自然と上を見上げるため、俺に伝家の宝刀《 上目遣い 》をする。
(か、可愛い……)
****
(やった…やったぞ。
ついに俺は、
猫耳をゲットしたぞーー!)
翌日 町からの帰り道、俺は上機嫌だった。
以前から欲しかった猫耳カチューシャがたまたま店に置いてあったのだ。
猫耳は人気商品でなかなか手に入らないため、俺は即座に飛び付いた。
| (白い毛並みが良かったけど、焦げ茶でもいっか。猫耳に変わりはないし)
ルンルンとスキップしながら森の中へと入って行く。
| (ここなら人通りもないし、着けてみようかな)
考えたら即行動。
キョロキョロと辺りを見回し誰もいないことを確認すると、俺は黒いフードを取った。
ふるふると震える両手に、本日の戦利品 猫耳カチューシャを持ち頭に装着。
頭には程良い重さがかかり、それさえも幸せの様な気がしてくる。
| (まぁ、外から見たら
ひょろ長い身長で黒いマントを纏った男が、猫耳付けてんだから、怪しさ意外の何者でもないよなー)
近くに鏡や湖がないため、今の自分の姿が確認出来ないが、
きっと変質者そのものだろう。
(ま、人なんていないし)
「キャー!」
ガサッという音と悲鳴。
それは自分の直ぐ傍で聞こえた。
急いで後ろを振り返れば、
赤い頭巾をかぶった女の子。
傍にはパイが入ったカゴが落ちていた。
手助けしようと、少女に近寄ろうとすれば
「じ、」
「じ?」
少女はサーっと顔色を青くする。
「人狼、イヤー!!」
少女は落としたカゴを拾うのも忘れて、一目散に去って行った。
(え? 人狼?
どこ、どこ!? 俺も早く逃げなきゃ)
俺は、猫耳を着けたことを忘れ
村へとダッシュするのであった。
このあと、己の趣味が村中に知れ渡る事になるということも知らずに。