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翌月曜日

1日で気力が戻るほど、俺は強くない。

ただ、平然を装い、与えられた仕事を黙々とこなしていった。


10時になり、いつものように幸がコーヒーを入れてくれた。


悠生「俺、幸に隠していた事があるんだ。」

幸「何すか。ヅラだったって事なら知ってましたよ。」(笑)

無理に明るく振る舞う幸を見ると、平静を装い切れなかった自分と、後輩にまで気を遣わせてしまった事に不甲斐なさを感じてしまう・・・


悠生「いや、真剣な話なんだ。」

幸「はい。」

悠生「あの時、女子高生見たって言ったよな?」

幸「ん?・・・ああ、はい言いましたよ。」

悠生「それ、俺の妹なんだ。」

幸「はあ?」

悠生「俺が高校3年生の時に事故で亡くなった妹・・・」

幸「・・・」

悠生「数週間前に現れて、昨日帰っていった。」

幸「・・・そうだったんだ。」

悠生「急にこんな話しちゃってごめんな。」

幸「いえ・・・」

悠生「ただ、ちゃんと言わなきゃいけないと思って。」


幸「妹さん、幸せそうでしたか?」

悠生「ああ、笑顔で帰っていった。」

幸「そうですか。ならよかった。」



幸「悠さん、私も悠さんに話したい事があるんですけど。」

悠生「・・・」

幸「私、悠さんの事が」

悠生「ごめん、時間をくれないか。」

幸「・・・はい・・・」

いつか切り出される気がしていた。

俺は卑怯者だ、自分の言いたい事だけ言って・・・

ただ・・・もう少し時間が欲しかった・・・

いつか・・いつかきっと・・・言葉に出なかった。


幸「急にごめんなさい。」

悠生「こっちこそ急にごめん。」

幸「仕事再開しましょうか。」

悠生「うん。」



コンコン

女性社員「失礼します。」

悠生、幸「わっ!!びっくりした。」


女性社員「仁藤さん、社長がお呼びです。」

悠生「ん?わかった、今行く。」


何の用事だ・・・思い当ることなどない。ましてや社長からなど・・・



社長室前

トントン

悠生「仁藤です。」

社長「入りたまえ。」

悠生「失礼します。」

なんだかドアノブが重く感じる。

社長室など入社してから数回しか入った事が無い。

社長の机には山ほどの書類が積まれていた。書類の隙間から社長の顔が、かろうじて見えた。


社長「今行くから、そっちに座ってなさい。」

悠生「はい、失礼します。」

社長がこちらに移動してきた。社長はガタイが良いから、それなりに迫力がある。

悠生「ご用件は?」

社長「率直に言うよ。」

悠生「はい。」

社長「大阪へ飛んでもらいたい。」

悠生「えっ!!」


予想だにしなかった。思い当ることなどない。

急なことなのに、沸々と怒りが込み上げてきた。


悠生「何故ですか?私は一生懸命働いています。」

社長「だからだよ。」

悠生「え!?」


社長は、ゆっくりと立ち上がり窓際へ歩き出した。

社長「君が入社して、かれこれ5年になるね。」

悠生「はい。」

社長「君は岡井君が亡くなった後、その穴を見事に埋めてくれた。それどころか、以前の仕事量の倍をこなしてくれている。」

悠生「あれは、佐倉さんが頑張ってくれているからです。」

社長「そこだよ。」

悠生「え?」


社長「彼女は、この会社に入社したころ何と呼ばれていたか知っているかね?」

悠生「いえ。」

社長「狂犬だよ。」

悠生「はっ?」

社長「彼女は、どの上司にも馴染めず噛みついていたよ。」

悠生「・・・」

社長「その彼女を君は見事に手なずけている。」

悠生「手なずけてって、彼女は狂犬なんかじゃないですよ。」

社長「いや、私は彼女に噛まれた事がある。」

おもむろに腕をめくると、くっきりと歯型があった。

悠生「うわっ!」

社長「彼女が調達部の時に上司と喧嘩をしてね。仲裁した私に噛みついたのだよ・・・」


社長「彼女を面接で採用したのが岡井君だというのは知っているね?」

悠生「はい。」

社長「彼は責任を感じ、自分の部署である総務部へ引き取った。」

悠生「はい。」

社長「まだ、お弁当を2つ作って来ているのかね?」

悠生「えっ!!」


社長「岡井君から聞いたよ。その行動で、彼女は牙を折られてしまったんだよ。そう、彼女が求めていたのは愛情だったんだよ。そして、信頼できる上司。少しずつ心を開いていった彼女は、今では社内でトップクラスの仕事ができる社員だ。」

悠生「・・・」

社員「君にはとても感謝しているよ。きっと彼女も君に感謝と尊敬の念を抱いているだろうね。」

悠生「彼女に、やる気と才能があっただけです・・・」

社長「そうかもしれない。でも、それは引き出されることは無かった。君に出会わなければ、彼女は今この会社にいなかっただろう。彼女のそれを引き出したのは君だよ。」

悠生「・・・」

社長「話が逸れてしまったね、本題に戻ろう。」


社長「今、大阪支所の経営が芳しくない。そのうえ、所長が体調を崩して入院し、内部状況は滅茶苦茶らしいのだよ。」

悠生「はい。」

社長「社内で頼める能力を持っているのは、君しかいないと思ったよ。そこで、暫くの間大阪支所の所長を務めてもらいたい。これは、辞令ではない、お願いだ。」

悠生「はい・・・」

社長「考えてみてくれないか?・・・」


悠生「・・・考えてみます。」

社長「頼むよ・・・では、職場に戻りなさい。」

悠生「はい、失礼しました。」


考えると言っても・・・何を・・・

総務部の入口まで来たが、幸に何て話せば・・・


幸「おかえりなさい。何の用事だったんですか?」

悠生「・・・なんでもない。」

幸「そうですか・・・」

何も言えなかった・・・一番伝えなくてはいけない・・・そう思ったのに・・・





2日後の昼


悠生「ちょっと、出てくるわ。」

幸「何処行くんですか?」

悠生「いや、ちょっと。1時までには帰ってくるよ。」

幸「そうですか・・・いってらっしゃい。」


気付かれたかもしれない・・・女の人は勘が鋭い・・・でもいずれにしてもばれる事・・・


社長室前

トントン

悠生「仁藤です、今よろしいでしょうか?」

社長「入りたまえ。」


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