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大阪出張編 -4-

会社に戻り、オフィスのドアを開けた。

すると、社員が一斉に入り口に集まりだした。

一真「先程は、失礼をいたしました。」

社員達「申し訳ありませんでした。」

悠生「急にどうした。」


一真「仁藤さんにはちゃんと、今までの大阪支所の経緯をお話します。」

悠生「ん?ああ、とりあえず、そっちの会議室に行こうか。あっ、君、こっちの電話番を頼んでいいかな?」

女性社員「はい。」

一番若く見えた女性社員に事務所を任せ会議室に移動した。


一真「大阪支所が今の状況になった経緯をお話します。」

悠生「ああ。」

一真「率直に言って、この支所は前所長のセンスだけで、ここまで大きくなりました。」

悠生「そうなのか。」

一真「俺達社員は、何かある度に所長に頼っていました。実際、所長に頼んでいた事で、広告は成功を続けていました・・・あの日までは。」


一真「ある日、某大手レストランチェーンからの広告依頼がありました。うちの支所は食がテーマの広告の経験は決して多くはありませんでした。俺達社員は、また所長に頼り、所長はいつものように社員にアドバイスをくれ、助けてくれました。」

悠生「うん。」

一真「最終的にコンセプトが2つに絞られました。所長のコンセプトと俺が出したコンセプト。俺自身、本気で考えたもので思っていたより良いものができたと思い、驕っていました。所長のアドバイスも聞かず・・・。」

悠生「・・・・」


一真「所長は、最終的に俺のコンセプトを採用しました。俺に賭けてくれたんです。」

悠生「ああ。」

一真「・・・広告は大失敗に終わりました。結果的に、そのレストランチェーンの売り上げを下げてしまったんです。結果がすべてのこの世界です・・・一度失ってしまった信用はそう容易く取り戻す事はできません。」

悠生「・・・・」


悠生「悪い噂は広がり、広告の仕事はほとんど来なくなってしまいました。所長は悩み、その結果病んでしまいました。西村所長には、いくら感謝しても感謝しきれない恩があるのに・・・こんな事になってしまって・・・」

そう言うと、一真は顔を伏せた。


悠生「・・・田丸さん、あの事を話してもいいかな?」

田丸「所長の判断にお任せします。」


悠生「実は、田丸さんは前所長西村さんの娘さんなんだ。」

社員達「えっ!!!!」


その事実を聞くと、一真は田丸さんの前にしゃがみ込み土下座した。

一真「申し訳ありませんでした。」

それを見ていたら、無性に怒りが込み上げてきた。


悠生「今さら土下座なんかしてんじゃねえよ。」

土下座していた一真の肩を蹴り飛ばした。

一真は吹っ飛んだが、態勢を立て直し正座した。

一真「・・・・・」

悠生「感謝だ恩だと簡単に口にしてんじゃねえよ・・・彼女がどんな思いだったか・・・」

田丸「私は・・・」

悠生「いや、感謝しているなら何で悩んでいた西村所長を助けようとしなかった。なぜ、家族に伝えなかった。何で病気になるまで放っておいた。」

一真「すいません・・・」

悠生「お前らはずるい。俺はこんな支所で仕事をするために大阪へ来たんじゃない。俺は東京へ帰る。」

田丸「えっ、そんな・・・」

いけない・・・つい言い過ぎてしまった・・・



一真「仁藤さんの言うとおり俺達はずるくて、どうしようもない奴らです。」

悠生「・・・・」

一真「ただ、何もしないまま仁藤さんを帰らす事だけはしたくありません。それだけは、どうしてもしたくありません・・・」

悠生「・・・・」

一真「一度、一度だけでも、仁藤さんと一緒に仕事をやらせてもらえませんか・・・どうかお願いします。」

社員達「お願いします。」


悠生「ごめん・・・俺も言い過ぎた・・・俺もお前らと仕事がしたい・・・」

一真「仁藤さん・・・」

社員達「ありがとうございます。」


悠生「田丸さん、俺この大阪支所でがんばるわ。さっきは東京へ帰るなんて言ってしまってごめん。」

田丸「いえ・・・ありがとうございます。」


悠生「実はさっき、カルロスに会ってきたんだ。」

一真「はいっ!!」

悠生「一真の言うとおり、客はほとんど入っていないらしい・・・」

一真「・・・・」

悠生「一真と一緒で俺もカルロスの絵に感動した。」

一真「はい。」

悠生「カルロスは友人だし、あの作品たちを多くの人に知ってもらいたい。」

一真「どうすれば、多くの人に知ってもらえますかね?」

悠生「まず、俺と一真以外の社員にも一度あの作品を見てもらいたい。」

一真「そうですね・・・」

悠生「会社や俺の事は伏せて、あの作品を見てきて感想を聞かせてほしい。これが俺がこの支所へ来て最初のお前たちへの指示になるな。」

社員達「はいっ、見に行ってきます。」

社員たちは一斉にオフィスを飛び出していった。


オフィスには俺と一真だけ残った。

悠生「なあ、一真・・・」

一真「はい。」

悠生「さっきは蹴ったりして悪かったな・・・」

一真「いえ・・・」

悠生「俺は思うんだけど、レストランチェーンの広告の件は、お前は悪くないと思うぞ。」

一真「えっ?」

悠生「一真に担当させたのは西村所長だったんだから、上司として責任を取るのは当たり前の事だと思う。」

一真「・・・・」

悠生「俺が怒ったのは、その後の西村所長を支えてあげなかった事と、田丸さんを悲しませた事だけだ。」

一真「すいません。」

悠生「許す許さないの権限は、俺にはない・・・」

一真「・・・・」


悠生「俺は、一真が成功させた広告を西村所長に見せたら、西村所長は少しぐらい元気を取り戻すんじゃないかって思ったんだ。」

一真「・・・はい。」

悠生「だから、今度のカルロスの広告は、お前が中心で他の社員と力を合わせてやってみな。そして、出来上がった物が俺を感動させられるものだったら、それを広告としてカルロスに営業しよう。」

一真「俺、一生懸命頑張ります。西村所長や仁藤さんや田丸さんの期待を絶対に裏切りません。」


そうこうしているうちに、社員がオフィスに戻り始めた。


悠生「どうだった、素直な感想を聞かせてほしい・・・」


女性社員「はい、正直に言いますと、話を聞く限りでは胡散臭いと思っていました。」

悠生「・・・そうか。」

女性社員「でも、見て行くうちに引き込まれてしまって・・・あの『愛』っていう字が書いてあった絵にとても感動しました。」

悠生「俺もあれが一番感動したんだ。」


田丸「私もあの絵に感動して・・・涙がこぼれました。そしたら、カルロスさんが駆け寄ってきて、ポケットティッシュを差し出してくれました。カルロスさんって優しい人ですね。」

悠生「ああ。あいつとは色々あったけど、あいつは心が綺麗な人間だよ。」


一真「あの絵にみんな感動したみたいですから、あの絵から受けた感動を言葉にして、ポスターを作ってみてはどうですかね?」


田丸「賛成です。それで、できればポスター自体は派手ではなく、想像を掻き立てるような作りにしてみてはどうでしょうか?」


一真「それいいですね。」


悠生「それ、俺もいいと思う。じゃあその言葉をみんなで考えてみようか。」

社員達「はい。」


そのまま、会議は続けられた。

昼が過ぎ、夕方になり、定時になっても帰ろうとする社員は誰もいなかった。



気が付くと、壁掛け時計の時計は午後8時を指し示していた。

悠生「どうする、また明日話し合うか?」

一真「今いいところまで意見がまとまっているんですよね。俺はもう少しやりたいんだけど、みんなはどうかな?」

社員達「賛成。」

悠生「そうか、じゃあ頑張ろう。」


(ギョロロロロロ)

社員達「・・・・」

悠生「今、誰かお腹が鳴ったな・・・」


田丸「・・・すいません。」

悠生「出前取るか?俺が全員分奢るわ。」

社員達「ありがとうございます。」

一真(なんか、西村所長を思い出すな・・・仁藤さんって西村所長に似てるな・・・)



出前を食べ終わり午後9時30分

会議はまだ続いている。


悠生「なんかちょっとズレてきてるなあ・・・」

一真「俺もなんかそんな感じがしてきました。」


悠生「もう一度、初心に戻ってみよう。初めて見た時にどう思ったのか。」

一真「!!!仁藤さんの今の言葉で閃きました。こんなのはどうでしょうか?」

そう言うと一真はホワイトボードに文字を書きだした。


田丸「その言葉凄く良いと思います!!」

男性社員「俺も。」女性社員「私も。」

悠生「俺もいいと思う。みんなこれでいいかな。」

社員達「いいとも。」


会議は終了し、社員は帰りだした。


悠生「田丸さん、もうこんな時間だし危ないから一緒に帰ろうか。」

田丸「えっ!!はい・・・」

そう言うと田丸さんは頬を赤くした。

悠生「いや、何もしないから大丈夫だよ。」


2人並んで町を歩いて帰る。

日中は騒がしい街並みも、この時間には人影も疎らで、寂しさすら感じる。


田丸「所長、今日は色々ありがとうございました。」

悠生「いや。・・・勢いで言ってしまったけど、東京に帰るなんて言ってごめん。」

田丸「いえ、本心じゃないのは分かっていましたから大丈夫です。でも、あの言葉でみんなが奮い立ったんです。やっぱり、仁藤さんは凄いです。」

悠生「凄いのは、西村所長だよ。いい会社じゃないか。社員もまとまっているし。」

田丸「・・・ありがとうございます。」


話をしていたら自宅まではあっという間に到着した。

田丸「では、お疲れ様でした。」

悠生「うん、今日は忙しかったからゆっくり休んで下さい。おやすみなさい。」


自宅に到着

悠生「怒るのって結構体力使うな・・・でも、久しぶりだこの感じ。」

疲れていた事もあり、家事を済ませたら直ぐに睡魔が訪れた・・・


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