大阪出張編 -3-
大阪支所初日
東京に居た頃より少し遅く、朝6時30分に目覚ましで起きた。
仏壇にごはんとお茶を供え、朝食をつくる。
悠生「会社が近いっていいなあ・・・」
準備を整え徒歩で会社へ向かう。
初日という事もあり早めに家を出た。
会社までの道のりは、人が多く賑やかなものだった。
オフィスビルに到着した
階段を3階まで歩いて昇り、会社のオフィスの前に着いた。
初日という事もあり、緊張はするが、元気よく入ってみよう。
悠生「おはようございます。」
田丸「おはようございます。」
社員「・・・・」
社員は、ほぼ揃っているように見えたが、田丸さん以外の社員からは挨拶がない
悠生「今日からお世話になります、仁藤悠生と申します。宜しくお願い致します。」
田丸「宜しくお願いします。」
社員「おねが・・・ます。」
立って挨拶をしたのは田丸さんだけだった。
女将に喜怒哀楽を持って接するように言われていた事もあったが、それ以上に初日の朝から気分を害した事に苛立ちを覚えた。
悠生「お前らどういう教育受けてきてんだ。」
田丸さん以外の社員がこちらを睨みつける。
この感じでは、仕事が減っているのもうなずける。
怒りにまかせて怒鳴り続けた。
悠生「挨拶は基本だぞ。やる気が無い奴は辞めてくれていいぞ。ただでさえ、この支所は赤字なんだから。」
畳み掛ける様に怒鳴り続けようとしたが、田丸さんが下を向きうつむいているのを見て、少しやり過ぎたかなと思った。
その矢先、1人の社員が立ちあがり向かってきた。
男性社員「なんや、若いくせに偉そうなのが来よったのお。」
悠生「なんだ、まともに喋れる奴が居たのか。」
その社員は20代半ばぐらいでガタイが良く、凄みを利かせてきたが、さほど威圧感は感じなかった。
男性社員「俺は認めねえぞ、こんなのが所長なんて。」
悠生「勝手にしろ、やる気の無い支所が無くなったところで、俺は痛くも痒くもない。」
男性社員「表出ろ。」
悠生「やるならそこでいいだろう。表じゃ世間の目に留まる。」
右奥に空いているスペースがあったので、そちらを指差した。
男性社員「上等じゃねえか。」
右奥に移動した。
お互いに黙ったまま背広を脱ぐ。
その社員は喧嘩慣れしているのか、隙は少なかった。
幸から教わったカンフーを使おうかと思ったが幸が悲しむと思い、他の構えに切り替えた。
お互いに一歩も動きださない。
男性社員(何だこいつ・・・隙がねえ。それになんだあの構え・・・)
男性社員「ちょっ、ちょっと待ってくれ、あんた何か習ってるだろ。」
悠生「別に何も。昔ブラジル人の友達に教えてもらっただけだ。」
男性社員(ブラジリアン柔術!!下手に動けば骨を折られちまう・・・たぶん勝てねえ)
悠生「喧嘩が強いブラジル人でな、いつも勝てなくて。」
男性社員「はあ?」
悠生「負けたわけじゃないんだけど、お互い悔しくてしょっちゅう喧嘩してた。いつのまにか、何か解り合えるものがあって仲良くなって、そしたらこの柔術を教えてくれた。」
男性社員「・・・・」
悠生「この柔術を教わった代わりに、俺は書道を教えたんだ。そしたらそいつ、書道が好きになって、書道を仕事にするって言ってたっけ。」
男性社員「ちょっ、ちょっと待ってくれ!!もしかしてそのブラジル人って・・・」
そう言うと男性社員は自分のデスクからポスターを持ってきた。
ポスターにはブラジリアン書道と書かれブラジル人男性の写真が載っていた。
悠生「おうっ!!カルロスだ!!そうだよ、こいつだ。へえ~、展覧会とかやってるのかあ。」
男性社員「俺、この人の展覧会に行ったんだけど、ものすごく感動して・・・この人は、人生の師匠だと思った。あんた、師匠の師匠か?」
悠生「・・・?」
男性社員「俺、山上一真って言います。カルロスさんに憧れて、だから彼の存在をもっとみんなに知ってほしくて、まだ契約の話も何もしてないんですけど、ポスター作ってみたんです。でも、この程度の物しかできなくて・・・」
悠生「たしか、大阪支所って広告関係がメインだろ。それでこの程度か・・・」
一真「すいません・・・」
悠生「俺に謝ってもしょうがないだろ、俺、カルロスに会ってくる。」
一真が持っていたポスターを受け取り、脱いであった背広を着直し、展覧会場へ向かった。
展覧会場は走れば、そう遠い距離ではなかった。
メイン道路から少し入ったオフィスビルの1階に展覧会場はあった。
名を明かさず、受付の女性に入場料を支払い、まずは絵を見てみる事にした。
コーヒーと思われる木に少年が1人描いてある。右上には墨で『夢』と書かれている。
その隣の絵には、田園風景に墨で『生』と書かれている。
少し進むと、母と子供が手をつないでいる絵がある。母と子供の間には墨で『愛』と書かれていた。
悠生「この絵いいなあ。」
心底いい絵だと思った。
奥で会話をしていた男女が見えた。
男性の方はカルロスだ。少し太ったようだが、間違いない。
こちらを何度か気にしている。
少し進むと・・・気付かれたようだ。
カルロス「・・・オー!!アミーゴ!!」
そう叫びながら走り込んでくる。一真とは比べ物にならない程、迫力がある。
カルロス「アミーゴ!!」
悠生「ス・・ストップ・・・」
叫んだがカルロスの声にかき消され、そのままカルロスに抱え上げられた。
独特な香水の匂いが鼻先に絡みつく。
悠生「コラ、降ろせ。」
カルロス「あっ、ごめんよアミーゴ。」
そう言うとゆっくりと下ろしてくれた。
カルロス「久しぶりだねアミーゴ。」
悠生「仕事で大阪にしばらく居ることになったんだ。」
カルロス「そうかい。」
悠生「展覧会をやってるって聞いて来てみたけど、驚いたよ。どの絵も凄いよ。」
カルロス「ありがとう。」
悠生「特に、あの『愛』って書いてある絵、感動したよ。」
カルロス「展覧会を開けたのも、こういう道を開けたのも、書に出会わせてくれた師匠のおかげだよ。」
悠生「そんな事ないよ。・・・でも何かお客さんが少ないな・・・まあ、今日は平日だもんな。」
カルロス「実は、もう半月経つんだけど、まだ15人しか来てないんだ・・・」
悠生「・・・」
カルロス「絵画と書は表現できるようになった。でも、自分をPRする言葉を知らない。」
そういうとカルロスはうつむいてしまった。
悠生「そのPR、俺に任せてもらえないか?」
カルロス「えっ、師匠がやってくれるのかい?」
悠生「うん、実は今広告関係の会社に居るんだ。」
カルロス「うれしいよ。お願いします。」
悠生「ありがとう、PRのコンセプトとかがはっきりしたら、直ぐに報告するな。」
カルロス「うん、宜しく頼むよ。」
悠生「うん、じゃあ行くな。」
カルロス「今日は来てくれてありがとう。」
カルロスに手を振られ展覧会場を後にした。
腕時計の針は、もう午前11時を越えていた。
悠生「いっけねえ、飛び出したままこんな時間になっちまった。」
急いで会社に戻る事にした。




