大阪出張編 -2-
ピンポーン ピンポーン
悠生「はっ!!寝坊した。」
時計を確認すると午前10時の15分前だった。
玄関の覗き穴から覗くと、そこには田丸さんが立っていた。
急いでドアを開ける。
悠生「ごめん、寝坊しちゃって今起きたとこ。」
田丸「そうですか、私も早く来ちゃったから。」
悠生「いえ、起こしてくれてありがとう。」
田丸「良かったらこれ、サンドウィッチ作ってきたんですけど。」
悠生「助かります。ありがとう。」
田丸「では、失礼しますね。」
悠生「どうぞ。」
田丸「あっ。」
悠生「あっ。」
昨日買った調理パンが、昨日の夕食分と今日の朝食分の2つ残っていた。
悠生「食べる?」
田丸「2つあるから、1つずつ食べましょうか?」
悠生「うん。」
彼女のサンドウィッチを先に頂き、その後に昨日の調理パンを食べた。
田丸「アーケード街に行ったんですね。」
悠生「うん。色々買いそろえてきた。」
田丸「そうですか・・・」
ピンポーン
悠生「あっ、来たみたいだ。じゃあ、すいませんが今日は宜しくお願いします。」
田丸「了解です。」
「了解です」という返事に一瞬、幸を思い出してしまった・・・いけない・・・今は目の前にある仕事を片付けなければ・・・
引越しの荷物は、引越し屋が手伝ってくれたこともあり、予定より早く片付いた。
悠生「助かりました。ありがとうございました。」
引越し屋「いえ、また何かありましたらお願いします。」
決めた。東京に帰る時も同じ引越し屋に頼もう。
悠生「んっ!!」
もう東京に帰る事を考えてる・・・こんな事で大丈夫なのか・・・
部屋に戻ると田丸さんが仏壇の前に居た。
お茶を供えてくれているようだ。
彼女は本当に優しい人なんだなあと思い目頭が熱くなった。
田丸「あっ、勝手にごめんなさい。」
悠生「いや、ありがとう。田丸さんは優しい人だね。」
田丸「いえ。」
頬を赤く染める田丸さんは年齢以上に幼く見えた。
気が付くと、時計は午後4時を指し示していた。
田丸「あの、会わせたい人が居るんですけど・・・今から大丈夫ですか?」
悠生「ああ、そのつもりでいたから。で、何処に行くの?」
田丸「付いて来ていただいても、よろしいですか?」
悠生「うん。」
彼女と一緒に町を歩いて行く。
向かう方向は、昨日行ったアーケード街の方向だ。
日曜日の夕方ということもあり、アーケード街近辺は活気に満ち溢れている。
田丸「あのお店なんですけど。」
悠生「・・・うん、わかった。」
昨日来た女将のお店だった。
昨日来た事は、あえて伏せておくことにした。
時間は、まだ開店時間ではない。
田丸さんは、躊躇なくのれんをくぐり、片引き戸をずらした。
女将「いらっしゃい。」
田丸「こんばんは。」
悠生「おじゃまします。」
女将「美樹ちゃんいらっしゃい・・・あら!!ユウイチ君も一緒だったの?」
悠生「いえ、ユウキです。」
女将「あら、ごめんなさいね。」
田丸「えっ!!知り合いなの!?」
悠生「うん、言わなくてごめん。」
女将「昔の彼氏。」
悠生「ってコラ。田丸さん違うからね。」
女将「だんだん、関西のノリに染まってきたわね。」
田丸「でっ、どういう関係なの?」
女将「昨日来たお客さんよ。」
田丸「そうだったんだ・・・」
悠生「田丸さんと女将さんは、どういう関係なの?」
田丸「父がこのお店によく来ていて・・・体調の変化を教えてくれたのは、この女将さんだったんです。」
女将「うん・・・」
田丸「父は、几帳面で負けず嫌いだから、母にも体の不調は言わなくて、女将さんが気付いてくれなかったら・・・」
女将「その事は、もういいから・・・」
田丸「ごめん・・・」
そう言うと田丸さんはうつむいてしまった。
女将「本題に入らな。」
田丸「うん・・・実は・・・大阪支所に新しい所長をと、東京の社長にお願いしたのは私なんです。」
悠生「うん、そんな気はしていた。」
田丸「そして、その新しい所長が今の会社を変えれる人かどうか、女将さんに見てもらおうと思ったんです。」
悠生「うん。」
田丸「仁藤さんを信用していない訳ではないんですが・・・ただ・・・もし、そぐわない人ならば、東京へ帰っていただこうと思っていました。」
悠生「・・・そうか。」
田丸「でも、もういいんです。」
悠生「えっ!」
田丸「女将は・・・見える人なんです。このお店は大阪にいる企業の社長などがお忍びで来るお店。だから普通の一見さんは、お店に入る事すらできない。この意味が解りますか?」
悠生「女将は俺が初めてお店に来た時に、もう何かが見えていたってことか?」
女将「黙っていてごめんなさいね・・・」
悠生「いえ・・・」
田丸「ごめんなさい。勝手にこんなことして・・・」
悠生「いいんだ。田丸さんがお父さんの意思をしっかりと継いでいる証拠だよ。俺も大阪へ来ていきなり、こんなに本気な社員に出会えて嬉しいよ。」
田丸「仁藤さん・・・」
女将「悠生君ならきっと美樹ちゃんの会社を変えてくれる。間違いない。」
田丸「仁藤さん、あの会社を変えてください。よろしくお願いします。」
悠生「俺はまだ大阪支所の内部を一度も見てないし・・・いきなり変えろと言われても何をしたらいいのか・・・」
女将「あなたは、喜怒哀楽を持って、東京に居た時のように社員に接すればいい。今は、まだ言えないけど、あなたが強い何かを持っているのが見えるのよ・・・」
悠生「喜怒哀楽か・・・」
女将「さっ、お店開ける時間や、2人とも今日はもうお帰り、明日から仕事やろ。」
悠生「ああ、女将さんありがとう。」
女将「おばちゃんは、感謝される事は何もしてへんよ。あとはあなた次第。もう一度言っておくは、喜怒哀楽を持って行動すればきっと後から結果が付いてくるから。」
悠生「わかった。」
女将「それと・・・」
悠生「ん?」
女将「いや、何でもない。」
田丸「また、寄らせてもらいます。」
女将「あんたら2人なら、いつでも歓迎よ。」
悠生「おじゃましました。」
女将に感謝を述べて、帰路につく。
田丸「仁藤さん、本当にごめんなさい。」
悠生「もう謝らないでくれ、まだはっきりとは見えないけど、俺ができる事を精一杯頑張るよ。」
田丸「ありがとうございます。」
お互い特に会話もなく、マンションに到着した。
悠生「じゃあ、明日会社で。」
田丸「はい、明日から宜しくお願いします。」
その日は、引越しの疲れもあり、風呂を出た後は直ぐに眠りについた。




